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自民・立民・国民、3政党の党首選出にみる「グルーヴ感」と総選挙への影響

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
政局の秋を迎える国会議事堂(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 安倍前総裁の辞任表明から始まった自民党総裁選は、あっという間に終わりました。時を同じくして行われた野党合流再編によって、期せずして自民党、立憲民主党、国民民主党の3政党のトップが新たに選出されたことになります。ただし、変わったのは自民党のトップだけであり、立憲民主党と国民民主党は政党名はおろか、党のトップである代表も事実上の続投となりました。

 今秋にも解散総選挙が噂される中で、マスメディアが自民党総裁選ばかりに注目したのは果たして事実上の次期総理を選出する与党第一党だからでしょうか。党大会を開催せずとも多くの都道府県で予備投票を行った自民党に対し、立憲民主党は国会議員のみでの代表選実施、国民民主党に至っては合流メンバーの話し合いでの決定となりました。筆者は、この3政党のトップ選出過程を踏まえて、立憲民主党や国民民主党の政党支持率が低空飛行を続けることを予想しています。党首選出プロセスがなぜ総選挙まで影響を与えるのか、筆者の経験をもとに考察してみました。

党トップの選出に自分が関わるというグルーヴ感

 筆者はこれまでに国政選挙だけでなく地方の首長選挙や市町村議会議員選挙など数多くの選挙の現場で仕事をしてきました。その経験から、どの選挙でもいえるであろう選挙で最も大事なベンチマークは、「私のお陰であの人が議員になれた」と強く信じている支援者をいったい何人作ることができたかです。

 では、「私のお陰であの人が議員になれた」と強く信じている支援者を作るためには、どうしたらいいのでしょうか。そのためには、支援者に小さい貢献をしてもらうことが重要です。例えば選挙の現場であれば、配布するビラに1枚1枚貼らなければならない証紙を貼ってもらう作業をお願いしたり、街頭演説の準備のための場所取りをしたり、選挙期間でなくても地域のイベントがあるときに候補者に一本連絡を入れてもらったり、どのような形でもいいので小さな貢献をしてもらうことです。小さな貢献をしてもらうことによって、「私は候補者の活動を支援しているし、私のお陰であの候補者は選挙で勝つことができた」と認識するようになりますし、これらの小さな貢献をした上で候補者が選挙に勝つと、成功体験として自分の政治的選択を評価(貢献した候補者が当選したことによって、支援者が自分の行為を正当なものと再認識)するようになり、さらに愛着を持ち始めます。マーケティング的には「エンゲージメント」として定着している手法ですから何も新しくないのでしょうが、こと政治に至っては、このプロセスを軽視して支援者も有権者も十把一絡げに扱って集票をしてしまう候補者も多く、こういったエンゲージメントを無視した候補者に限って、議席の椅子取りゲームで敗者となる傾向があるように思えます。

党員投票はエンゲージメントに寄与するイベントだった

 さて、ここまで述べてきたことは一般の選挙戦についてですが、これは今回の総裁選にも言えることです。党の代表を決めるというプロセスはまさに選挙でしたが、このプロセスに党員やサポーター(パートナー)をどこまで関与してもらうかは、民主主義プロセスという側面よりもエンゲージメントという側面で見るべきだったのではないのでしょうか。党の代表を決めるというイベントで、党員やサポーター(パートナー)に参加してもらうという関わりがあるかないかでは、(特に政党ごと再編した野党においては)今後の政党への愛着に大きな差が生まれます。

 自民党は、当初党員投票を行うことも検討していましたが、安倍総裁の持病悪化という事情やコロナ禍という外部環境を踏まえて党大会に代わる両院議員総会という形を取りました。それでも党青年局らを中心に所属国会議員・地方議員の署名が功を奏して、各都道府県連で予備投票を行うよう党本部から各都道府県連に(予算込みの)要請が出たという経緯があります。

 自民党の党員は、党発表で約108万人と言われています。党員名簿の精査を行わない形の予備投票だったことや、そもそも予備投票を行わなかった都道府県連も存在することを踏まえても、今回の予備投票に数十万人が投票したことは間違いのない事実でしょう。筆者が把握している複数の都道府県連においては、投票用紙は縦書き記名方式でしたから、選挙と同じように総裁候補者名を記入して都道府県連事務局に返送したことと思います。この縦書き記名方式で名前を書く行為というのが、まさに「党トップの選出に自分が関わるというグルーヴ感」そのものであり、エンゲージメントなのです。

なぜ野党に開かれた党首選出ができなかったのか

 一方、野党です。合流新党たる立憲民主党は、枝野幸男衆議院議員と泉健太衆議院議員の2名が代表選に立候補しました。議員投票で枝野幸男氏の代表「再任」が決まりましたが、このプロセスは国会議員のみで投票されるという形式で全く開かれたものではありませんでした。

 ではなぜ開かれた選挙戦にならなかったのでしょうか。その答えは色々ありますが、一つ大きなポイントとして、立憲民主党と国民民主党の党員制度の違いが挙げられます。旧・立憲民主党と旧・国民民主党には党員制度の中にそれぞれ準党員としての「(立憲民主党)パートナーズ」と「(国民民主党)サポーター」がありますが、前者は年会費500円で代表選挙投票権がないのに対し、後者は年会費2000円で代表選挙投票権があるという違いがありました。この点の取り扱いを調整しないままに単純に党員・準党員にまで広げた代表選出選挙を行えば、国民民主党側が有利になる可能性もあったことから、両党での協議が難航したと言われています。

 玉木新党と呼ばれる新・国民民主党は、「話し合い」で代表を決めたと報道されています。この点、人数が少ないためか投票の形式を採らなかったということになるのでしょうが、ある意味で最も密室的な方法だったともいえ、透明性に懸念が残ります。実際に、国民民主党は14人で船出を迎えると報道されたにも関わらず、玉木氏が代表として結党するという点に納得いかなかったとして増子輝彦参議院議員が結党メンバーから外れるという出来事もありました。同党は年内にも地方議員や党員も含めた代表選を改めて行うとしていますが、今秋とも言われている衆議院解散総選挙に向けて焦りがあったことがうかがえます。

ネット投票はハードルが高いが、試験的導入もできたのでは

 立憲民主党の代表選では、インターネット上に突如現れた「合流新党代表選全国ネット投票」なるサイトも話題となりました。このサイトは投票方式について「1IPアドレス毎に1回しか投票できない形式」としており、主にSNSなどで拡散されるなど話題となりました。結果、枝野幸男氏が5,604票に対し、泉健太氏が39,174票と7倍以上の差をつけましたが、この「ネット選挙」の開催期間中には、立憲民主党公式アカウントが「ネットアンケートは行っていません」などと声明を出すなど混乱も見られました。また、最終的な党代表選の結果とネット投票との結果が逆転したことが、今後遺恨を残す可能性もあります。

 そもそもネット投票は、制度設計をきちんとしなければ「お遊びレベル」で終わってしまうものです。同一IPアドレス規制などのルールは、何もしないよりはまともなものですが、民主主義の代替としての選挙ツールとしては脆弱すぎて話にならないレベルです。2020年にもなって日本でインターネット投票が行われないのも、二重投票や投票内容の漏洩などといった諸課題のハードルが高すぎるからであって、簡単に「ネット投票すればいいじゃん」というものでもありません。自治体レベルではブロックチェーンやマイナンバーカードなどの技術を使った実証実験が始まっていますが、本来であれば公職選挙法の影響を受けない党代表選などでこのような取り組みを行うことが望ましかったのではないのでしょうか。

党首選出の結果が総選挙にどこまで影響がでるか

 結果的にグルーヴ感のない党首選出となった野党2党の支持率はどこまで上がるでしょうか。菅内閣発足から組閣人事まで、引き続きマスメディアは自民党ばかりを取り上げることになるでしょう。一方、立憲民主党は党役員人事も無難なものにまとめ、更に注目を集めるネタがありません。国民民主党も同様です。恐らく今週末には組閣された菅内閣に対する初の世論(情勢)調査が行われることになるでしょうが、これまで低空飛行だった野党2党の支持率が急上昇するとは考えにくく、安倍総理退陣表明前で立憲民主党が6〜8%、国民民主党が1〜2%だった支持率は、良くてそれぞれ数ポイント上昇、悪くて同レベルを維持に留まるでしょう。何より、「自分たちが選んだわけではない」代表率いる政党への愛着を失えば、長い目でみれば当初より支持率が下がる可能性すらはらんでいます。一方自民党は既に安倍総理退陣表明後に支持率が急上昇しており、今後の組閣人事などによってさらに上昇する可能性もあることから、結果的に与野党の支持率の差が開くことも考えられます。

チャンスを逃した野党が選挙に向けてやるべきことは何か

 これでは野党が厳しいという話で終わってしまうので、野党が来たる総選挙に向けて復調する方法はないのでしょうか。まずは旧立憲・国民と別れた後に作られていなかったシャドーキャビネット(影の内閣)を作ることで、政権交代選挙であることをしっかり示すことです。立憲民主には100名を超える議員が参加しましたから、人選はともかく人材はいるはずです。

 加えて次期衆議院選挙の焦点となるテーマや重要政策についての意見を党員や準党員からヒアリングする機会をきちんと設けることも重要です。これは政策についての意見反映なので、投票形式というよりは従来でいう地方公聴会やタウンミーティングに近い性質のものが望ましいでしょう。ビデオ通話会議システムなどを使ったオンラインミーティングや対話型集会は野党も党内で活用していますし、知見もあるでしょうからすぐにでも実施可能なはずです。何よりも、党員・準党員にとって次の選挙が「自分事」のように捉えてもらうための小さな小さなエンゲージメントづくりを急ぐことが、政権交代への大事な道のりであることを忘れてはなりません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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