W杯初戦でザンビアに5ゴール快勝。多彩な攻撃を可能にしたなでしこジャパンの強みとは?
【快勝スタート】
女子W杯のグループステージ第1戦で、なでしこジャパンがザンビアに5-0で快勝。大会の流れを左右する初戦で、理想的なスタートを切った。
90分間で放ったシュートは26本。相手のシュートはゼロに抑え、コッパー・クイーンズ(ザンビア女子代表の愛称)を沈黙させた。
14日のパナマ戦(5−0)と同じ先発メンバーで臨んだ日本は、立ち上がりからザンビアを圧倒。ボールを失ってもすぐに前からプレッシャーをかけて奪い、ワンサイドゲームに持ち込んだ。
ボールの動きに合わせて11人が細かくポジションを変える日本に対し、ザンビアはボールウォッチャーになる場面も。「(相手の)DFラインとGKの間のボールを狙っていくことはチームの狙いだった」という池田監督の言葉通り、左右から精度の高いクロスで効果的に決定機を創り出した。
ザンビアのエースストライカーは、東京五輪で2試合連続ハットトリックの記録を作ったバーバラ・バンダ。そのバンダと前線で組むFWクンダナンジは、スペインのリーガFで得点ランク2位の実績を持つ。この2人は警戒していたが、特にバンダに対しては、人数をかけてリスクマネジメントを徹底。初出場ながら、バンダとマッチアップした19歳のDF石川璃音が1対1で一歩も引かず、相手を苛つかせたことも大きかったように思う。
先制までに時間を要したが、「チャンスは絶対に来るから一点が遠くてもじれずにやろうと話していた」とDF南萌華は振り返る。その言葉通り、淡々とチャレンジし続け、前半43分に、右サイドのMF藤野あおばのクロスからMF宮澤ひなたのゴールが生まれた。
先制したことで精神的な余裕ができた日本だが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によって、51分までにFW田中美南のゴールが2度、オフサイドの判定で取り消しに。また、51分の藤野のPK獲得も直後に取り消されるなど、普段のリーグ戦ではなかなか起こらない事態にも直面した。その中でも動じることなくプレーできたのは、練習からあらゆることを想定して準備してきたからだろう。
55分には、中央からパスを繋ぎ、MF長谷川唯が左のスペースに展開。これを受けたMF遠藤純のクロスにスライディングで走り込んだ田中が“3度目の正直弾”でリードを広げた。
さらにその7分後には、スローインから田中がゴールラインギリギリで折り返し、走り込んだ宮澤が決めて3-0。「(カタールW杯のスペイン戦でゴールにつながった)三笘(薫)選手の1ミリがあったので、ギリまで粘るって大事だなと思って追いかけました」と田中が振り返るように、最後まで諦めないプレーがゴールにつながった。
71分の4点目も鮮やかだった。右サイドでDF清水梨紗から交代で入ったFW植木理子につなぎ、植木が落としたボールを長谷川がダイレクトで左に展開。走り込んだ遠藤が持ち前のスピードで一気にゴール前に持ち込み、左足で決めた。
池田監督はその後、MF猶本光、MF清家貴子、FW千葉玲海菜と攻撃的なカードを切り、終了間際には長谷川のスルーパスに抜け出した植木が相手GKカトリーヌ・ムソンダと交錯してPKを獲得。一度は外したものの、VARの判定で蹴り直しとなり、今度はしっかり決めて5-0とし、完勝を収めた。
【1試合ごとに成長していく強み】
結果はFIFAランキングの差(日本11位、ザンビア77位)がそのままスコアに現れたとも言える。ザンビアは7月上旬の親善試合で世界ランク2位のドイツを下したことが話題になっていたが、バンダにボールが渡らなければ、怖さはなかった。ここは日本の守備対策がはまったとも言える。
とはいえ、ザンビアは正GKや他の中心選手の離脱などのアクシデントがあったようで、それは差し引くべきかもしれない。
それでも、相手の弱点を的確に分析して、ペナルティエリア内に何度も進入することができたのは大きな収穫だろう。相手が自陣に引いた状況では、前線の田中、藤野、宮澤、両サイドの清水と遠藤が流動的にポジションを変えながら相手を引き出し、両サイドの裏のスペースを使う動きも効果的だった。
攻守の舵取り役をこなしたダブルボランチの長谷川とMF長野風花のバランスもよく、4ゴールに絡んだ長谷川が攻撃の起点となったが、長野は間延びしがちな中央のスペースをしっかりと埋めて守備から攻撃のリズムを作った。
「ザンビアは狙いがシンプルで、前のバンダ選手に目がけて蹴ってくるので、そのセカンド(ボール)を拾うことや、DFとサンドしてリスク管理するところは徹底しました。奪った後は前の選手がいいパスコースを作ってくれて、スムーズに攻撃できました」(長野)
昨年末からトライアンドエラーを重ねてきた3-4-2-1のフォーメーションは、攻守の切り替えもスムーズだった。
「ピッチに入ったら普段の1試合と同じように感じて、プレッシャーなくプレーできて、すごく楽しかったです」
試合後、長野は楽しそうに言った。
池田監督は試合後、チームへの信頼をこう口にしている。
「相手に対してどういうプランで臨むか、こちらの分析からのトレーニングを共有しながらも、そこで変化が起きた時に、その現象を見つけられる能力と、それを伝えられるコミュニケーション力が選手たちにはあります。それが今日の試合ではうまく機能したと思います」
変化を見つける能力ーー。それは、南のこんな言葉にも凝縮されている。
「試合中に、逆の対角が空いていると(長谷川)唯から声をかけてもらって、そこを狙えた場面がありました。自分では気づけないところも、コミュニケーションをとりながらチャンスを作れたのは良かったところです」
練習で、池田監督とコーチングスタッフが攻守の基本やセットプレーのオプションを複数提示。試合前には相手の分析や狙い、気をつけた方がいいポイントなどをわかりやすく映像を交えて共有する。
そして、いざ試合が始まれば、ピッチの中で選手たちが相手の出方を見て戦い方を変化させていく。それができる戦術眼やスキルを備えた選手が多いからこそ可能になる部分もある。交代で出た選手がスムーズに入れるのも同じことだろう。
今大会、オフの時間は開幕戦の映像などを全員で見て、気をつけるべき点やイメージを共有しているという。そのように共通理解を高め、妥協せずに細部まで突き詰めてきたことが血肉となっている。それが、このチームの最大の強みだと思うし、試合を重ねるごとに成長していく姿が見られるのが楽しみだ。
ベンチでの様子も国際映像でよく抜かれているが、そこにもチームの“温度”は感じられる。ゴール後の喜び方や交代時の選手表情などを見ていても、さまざまな発見がある。
一方、この試合から課題を挙げるなら、9回を記録したオフサイドの多さだろう。相手のレベルが上がれば上がるほど、数センチの差が明暗を分ける。その点は意識して次の試合に臨みたいところだ。
日本は、26日にグループステージ第2戦でコスタリカと対戦する。コスタリカは21日の初戦でスペインに0-3で敗れた。90分間を通じて46本ものシュートを打たれ、前半26分までに3失点したが、後半は無失点で凌いでいる。第2戦は背水の陣で向かってくるだろう。
試合間の回復と準備の時間は日本が1日少ない分、不利ではあるが、中3日でしっかりと回復し、グループステージ最大の山場となるスペイン戦に向けて、さらに一段階チームを前進させたい。