「代替SNS」がロシアフェイク拡散の標的に、その狙いとは?
「代替ソーシャルメディア」が親ロシアフェイク拡散の標的になっている――。
そんな報告が相次いで公開された。
米調査会社「グラフィカ」とスタンフォード大学は、「ギャブ(Gab)」「ゲッター(Gettr)」などの保守系代替ソーシャルメディアへの、親ロシアのフェイクアカウントの浸透を分析。
米NPO「カーターセンター」と米シンクタンク「マケイン研究所」は、動画共有サイト「オデッセー(Odysee)」「ランブル(Rumble)」を舞台としたロシア国営メディア「RT」の拡散を取り上げている。
主要ソーシャルメディアでは、違法・有害コンテンツ管理強化の取り組みが続く。
一方、代替ソーシャルメディアはなお限られた存在感だが、コンテンツ管理の緩やかなメディア空間に、親ロシアのフェイクアカウントが着実に足場を築いているようだ。
代替ソーシャルメディアに浸透する、フェイクアカウントの狙いとは?
●35の不正アカウント
米調査会社「グラフィカ」とスタンフォード大学インターネット観測所は、2022年12月13日に公開した報告書でそう指摘する。
ギャブは2016年、ゲッターは2021年、パーラーは2018年、トゥルースソーシャルは2021年にそれぞれ設立された保守系の代替ソーシャルメディアだ。
ゲッターは2020年米大統領選のトランプ陣営の上級顧問などを務めたジェイソン・ミラー氏、トゥルースソーシャルはトランプ氏自身が設立。パーラーは2022年10月、ラッパーのイェ(カニエ・ウェスト)氏による買収交渉が明らかにされたが、12月初めに交渉は不調に終わっている。
これらに共通して指摘されるのが、コンテンツ管理の緩さだ。
2021年1月の米連邦議会議事堂乱入事件で主要ソーシャルメディアのアカウントを相次いで停止されたトランプ氏がトゥルースソーシャルを立ち上げたように、これらの代替ソーシャルメディアは、通常のコンテンツ管理では許容されないユーザーの受け皿にもなっている。
同様に主要ソーシャルメディアによる排除対象となっているロシアの影響工作が、そのコンテンツ管理の緩さを利用して、代替ソーシャルメディアに浸透している、と報告書は指摘する。
2020年米大統領選をめぐっては、2016年米大統領選に介入したとされるロシアの業者「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」に関連する2つの偽装ニュースサイトの存在が明らかになっている。
一つはフェイスブック、ツイッターが公表した「ピースデータ」と名乗るリベラル系を偽装したフェイクニュースサイト。もう一つは「欧米市民のためのニュースルーム(NAEBC)」という保守系偽装のフェイクニュースサイトだ。
※参照:偽装メディアの「編集長」はAIが合成、ダマされたのはユーザーだけではなかった(09/03/2020 新聞紙学的)
この時、ギャブ、パーラーを舞台に「NAEBC」のコンテンツを拡散したフェイクアカウントが、現在も保守系代替ソーシャルメディアで浸透を続けている、と報告書は指摘する。
●主要SNSに「大ブレーク」する
報告書は、そう指摘している。
トランプ・ジュニア氏が共有した投稿は、22万件以上の「いいね」を集めている。ロイター通信のファクトチェックによれば、キッド・ロック氏のアカウントはそもそもゲッターには存在しなかった、という。
グラフィカ、スタンフォード大の報告書の検証によれば、この「偽キッド・ロック・ファンページ」のアカウントは、以前は偽装ニュースサイト「NAEBC」の編集者を名乗っていたという。
また、ゲッターのほかに、ギャブ、トゥルースソーシャルにも同じ経歴、プロフィール写真のアカウントがあり、まったく同じ内容を1日に5回、いずれも1分以内に投稿していたことが確認できたという。
元グラフィカの調査責任者で、現在はメタの影響工作対策の責任者を務めるベン・ニモ氏は、このような影響工作の展開について、6段階にわたる「拡散スケール」をまとめている。
それによれば、拡散は「単一プラットフォームで拡散なし(カテゴリー1)」「単一プラットフォームで拡散、もしくは複数プラットフォームに投稿されるが拡散なし(カテゴリー2)」「複数プラットフォームで複数の拡散(カテゴリー3)」「メディア横断の拡散(カテゴリー4)」「セレブによる増幅(カテゴリー5)」「政治的反響、もしくは暴力の喚起(カテゴリー6)」の6段階で評価できるという。
そして、トランプ・ジュニア氏による拡散は、大ブレーク一歩手前の「カテゴリー5」に位置づけられる。
保守系代替ソーシャルメディアの影響力は、主要サービスに比べるとなお限定的だ。
米ピュー・リサーチ・センターが2022年10月に米国成人を対象に行った保守系代替ソーシャルメディアの調査では、ニュース接触で日常的に各サービスを使用する割合は、トゥルースソーシャルで2%、ゲッター、ギャブ、パーラーがいずれも1%だった。
同センターによる同年8月の主要ソーシャルメディアの調査では、ニュース接触の使用でトップのフェイスブックが31%。以下、ユーチューブ(25%)、ツイッター(14%)、インスタグラム(13%)、ティックトック(10%)だった。
代替ソーシャルメディアとは、圧倒的な影響力の差がある。
またグラフィカ、スタンフォード大の報告書によれば、代替ソーシャルメディア上での影響工作ネットワークも比較的小規模なものだった。
ギャブでは影響工作の中核となるフェイクアカウントは19で、ネットワークを構成する実質的なアカウント数は3万3,000。ゲッターでは中核のフェイクアカウントは10で、フォロワー数の合計は約6万2,100だった。
一方、ピュー・リサーチ・センターの調査では、代替ソーシャルメディアのユーザーの多くはユーチューブ、フェイスブック、ツイッターなどの主要ソーシャルメディアを併用していることも明らかになっている。
これらの併用ユーザーが、代替ソーシャルメディアと主要ソーシャルメディアの「橋渡し役」になり得る。そこに、インフルエンサーが加わることで、一気に大ブレークにつながる。
親ロシアの影響工作において、保守系代替ソーシャルメディアは、この大ブレークにつなげる「培地(メディアム)」のような役割を担っているようだ。
●動画プラットフォームでの拡散
米カーターセンターのマイケル・ショルテンス氏と米マケイン研究所のペドロ・ピザーノ氏は、グラフィカ、スタンフォード大と同じ12月13日に公開した報告書で、ロシア国営メディアのRTによる、動画共有の代替サイトへの展開を分析している。
EUは2022年3月2日、RTとスプートニクがロシアによるウクライナ侵攻の推進に「重要かつ実質的な役割を担った」として、域内での放送・配信を禁止する措置を取った。
グーグル・ユーチューブは2月26日、RTなどのロシア国営メディアによる広告掲載禁止を表明。さらにユーチューブは、3月1日には欧州でのRT、スプートニクのブロックを実施した。これに続き同月11日には、その範囲を全世界に拡大している。また、グーグル・プレイでのアプリの配信や検索結果での表示も停止している。
ブロック前のRTは、ユーチューブチャンネルのフォロワーが470万超で、RTアメリカだけでも120万超のフォロワーを集める影響力を持っていた。
だが、今回の報告書によれば、RTは動画共有の代替サイトである「ランブル(Rumble)」「オデッセー(Odysee)」を舞台に、なおソーシャルメディアでの浸透を続けている、という。
ランブルは2013年設立で、保守派に人気のある動画共有のほかクラウドサービスもしており、トゥルースソーシャルのホスティングも手掛けているという。2020年設立のオデッセーも、コンテンツ管理の緩さで知られる。
RTは、ランブルのチャンネルでは7万7,000を超すフォロワー、オデッセーでは5万6,000を超すフォロワーを集めている。
ユーチューブに比べれば極めて限定的なフォロワー数だ。だが、報告書はこう指摘する。
代替ソーシャルメディアの影響力が限られている点は、動画共有サイトも同じだ。上述のピュー・リサーチ・センターの調査では、ニュース接触のための日常的な接触率で、ランブル、オデッセーはいずれも1%だった。
やはりフェイスブック、ツイッターでの拡散のための「培地」としての役割を担っているようだ。
●認知ハッキング
グラフィカ、スタンフォード大の報告書は、代替ソーシャルメディアにおける比較的小規模な影響工作ネットワークには、別の狙いもあると指摘する。
それが「認知ハッキング(Perception Hacking)」だ。
「認知ハッキング」はフェイスブックのセキュリティチームが名付けたもので、こう定義されている。
主要ソーシャルメディアのコンテンツ管理が強化され、大規模な影響工作が難しくなる中で、小規模な影響工作を「影絵」のように巨大に見せ、存在感を誇示するという手法のようだ。
グラフィカなどの報告書がその例として挙げるのが、プリゴジン氏が2022年11月7日に公表したコメントだ。
プリゴジン氏は「プーチンの料理人」と呼ばれる側近で、ウクライナ侵攻でロシア軍を支える民間軍事会社「ワグネル・グループ」の創設者。
2016年米大統領選に介入した「インターネット・リサーチ・エージェンシー」の実質的なオーナーと見られており、米司法省が2018年2月に起訴している。
※参照:ロシアの「フェイクニュース工場」は米大統領選にどう介入したのか(02/18/2018 新聞紙学的)
それまで関与を否定してきたプリゴジン氏が、コメントの中では、「我々はこれまでも介入したし、今も介入し、今後も介入し続ける」と、影響工作を誇示するかのような表明をした。
このコメント自体が、「認知ハッキング」の一環だった、と報告書は認定している。
●「ツイッター代替」マストドンの現状
代替ソーシャルメディアは、主要ソーシャルメディアから排除された保守系ユーザーの避難先だけではない。
2016年に開設された分散型ソーシャルメディア「マストドン」は、イーロン・マスク氏の買収で混乱するツイッターの「代替」として急速に注目を集める。
マスク氏のツイッター買収前には、マストドンのサーバー(インスタンス)数は3,600超、登録ユーザー数は340万超(月間アクティブユーザー数31万超)だったが、年明けには、サーバー数1万2,400超、登録ユーザー数610万超(月間アクティブユーザー数180万超)。
アクティブユーザー数では、3カ月弱で470%超の増加となっている。
※参照:「ジャーナリスト追放」「マストドン排除」マスク氏の「表現の自由」の意味とは?(12/17/2022 新聞紙学的)
マストドンはオープンソースの仕組みで、保守系代替ソーシャルメディアのギャブやトゥルースソーシャルも、そのシステムを利用している。
ただし、ギャブやトゥルースソーシャルは、マストドンのネットワークからは独立している。また、マストドンでは、コンテンツ管理の仕組みも機能しているという。
とはいえ、マストドンはNPOとして主に寄付とボランティアベースで運営されており、コンテンツ管理は1万を超えるサーバーごとに行われる。
今後さらに規模が拡大し、影響工作などにさらされた時に、どのようなレジリエンス(強靭性)を発揮できるか。その点は未知数だ。
(※2023年1月16日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)