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増え続ける学童保育待機児童〜放課後の「人・場所・金」の課題とは

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

〇学童保育の待機児童が継続して増加

「学童保育の待機児童:1万7,279人(前年比109人増)過去最多の人数」

厚生労働省の発表を受け、このような記事が昨年末に多くの新聞に掲載されていました。

学童保育(正式名称:放課後児童クラブ)を利用したくても利用できない方が増え続けています。待機児童数は、利用したいと申し出たにもかかわらず利用できなかった数ですので、そもそも諦めて申請をしないケースや、小学生なので家で留守番をしたり、習い事を繋いだりしてしのぐケースもあります。「良い学童保育があればぜひ利用したい」と考えている潜在的な待機児童数はさらに飛躍的に数が増え「30万人、40万人、いやいやそれ以上」と言われることがあります。いずれにしても学童保育が足りていない状況であり、課題は大きくなり続けています。

〇施設数は増加している

では、学童保育が増えていないのかと言うとそうではありません。

学童保育施設数:2万5,300カ所(前年比750カ所増)

このように増えています。

しかしそれ以上に利用者が増えています。

学童保育登録児童数:123万4千人(前年比6万3千人増)*厚生労働省資料

ちなみに5年前の2013年発表のデータと比べるとこのようになります。

画像

この5年間で2割の施設が増え、4割の児童数が増えました。国も現場も頑張っている成果だと思います。しかし、一生懸命施設を増やしてきましたが、それ以上の利用者増に追いつかないという状況がずっと続いています。

〇政府の方針

政府は昨年9月に「新・放課後子ども総合プラン」を発表し、下記の数値目標を打ち出しました。

学童保育受入児童数:今後3年間で25万人分増加し待機児童をゼロに、5年後の2023年度末までに30万人分増加(約152万人)

文部科学省と厚生労働省で協力して、このプランを進めていくことが打ち出されています。さてこのプランの現実味や達成のための課題はなんでしょうか?

〇課題は「人、場所、金」

企業では「人、物、金」という整理をすることがありますが、放課後の場合は「人、場所、金」という整理になると思います。順に見ていきましょう。

『1、人の課題』

「学童保育基準緩和 保護者らが反対の声」

「学童保育の質、守れるか 指導員の基準緩和に不安の声」

昨年末にこのような記事が新聞・テレビなどで報道されていました。これは昨年11月に、政府の地方分権改革有識者会議において、学童保育1カ所につき2人以上の職員配置を義務付けているものを、地方の人手不足に配慮し1人の職員の配置でも容認する方針が示されたことに反発する声です。

もともとこの基準は2015年に「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」として施行されましたが、4年間で緩和され、職員2人の配置は「従うべき基準」から「参考にすべき基準」に、つまり「職員2人の配置がマストからベター」になるのです。この発表を受けて「保育の質の低下につながる!」「児童の安全や安心が確保できなくなる!」と保護者や運営団体から強い反対の声があがっています。

一方で、この基準の緩和は全国知事会などが求めたもので、学童保育を作る側からの要望でありました。「待機児童問題を解決するために学童保育の数を増やしたい、だけど人が確保できない」という現状から出てきました。地方自治体からは「学童スタッフの募集をいくら行っても人が集まらない」「夫婦の扶養の範囲でしか働いてもらえない」「夏休みは特に人の不足が深刻」といった悲鳴も聞こえます。

小学生、特に低学年児童が40名程度いる現場を考えると、職員1名はおろか2名でもとても心もとない状況です。子どものことですので予想外のトラブルも起きますし、怪我や病気の対応などをしていると2名でもとても足りるとは思えませんが、それでもこのような要望が首長から出てくるところに苦しさがあります。

人が足りないのは、「職員のなり手がいない(人)」「雇用できるお金が足りない(金)」の問題に分解できます。これは保育士の問題と似ているし、もっと厳しい状況が学童保育にあるのです。

『2、場所の課題』

「新たに開設する学童保育の80%を小学校内で実施することを目指す。」

先ほど挙げた「新・放課後子ども総合プラン」にはこのように書かれています。学童保育の実施場所としては、学校内が期待されているわけです。学校内で実施することにも賛否両論がありますが、保護者の声は「やっぱり学校が安心」という声が多いように感じます。

実際に学校で開催する上での課題になることは何でしょうか?これは法律の問題よりは「心理的な課題」が大きい印象です。

法律上は学校教育法にも社会教育法にも、学校施設を様々に活用して良いことが書いてあります。そして実際に学童保育の約半分は学校内に既にあります。

ところが実際に学校を活用しようとすると先生方はあまり良い顔をしないことがあります。また学校を司る教育委員会の反応も様々です。そもそも学童保育は厚生労働省、学校は文部科学省であり、市区町村役場でもこの2つの所管が異なり、縦割りの弊害も起きてしまうケースもあります。

それに対し、昨年11月に政府の規制改革推進会議では下記の答申が出されていました(一部略)。

・文部科学省は、児童の放課後の居場所確保の重要性について「小学校施設整備指針」に明記する。

・小学校内で学童保育が実施される場合、実施主体は学校でなく、市区町村の教育委員会や福祉部局等であることを明確にする必要がある。このため厚生労働省及び文部科学省(以下両省)は、学校施設の管理運営上の責任の所在について、関係部局間での取決めが行われやすくするよう、参考となるひな型を地方自治体へ通知する。

・両省は、これまで取り組んでいる学童保育の学校内での設置促進に向けた手続の簡素化・弾力化や予算措置について周知を徹底する。

・両省は、小学校施設の徹底活用がなされている地方自治体の特徴的な取組の事例を他の地方自治体に周知する。

このように「学校活用できるよう意識を変えよう!」と両省とも躍起になっている状況です。

『3、金の課題』

「学童指導員の半数が年収150万円未満」

このような記事が時々報道され、学童保育職員の厳しい処遇が伝えられますが、なかなか改善されていきません。最終的に最も大きいのはこの「金」の課題であると言えます。全国学童保育連絡協議会の資料によると学童保育に対する年間の国庫補助金は年々拡大されて800億円程度が投入されていますが、保育園と比べると1桁少ない規模です。保育所の利用者数は学童保育の利用者数の概ね2倍ですので、それを考えてもいかにも学童保育への国庫補助金は少ないと言えます。「小学生になれば子どもだけで過ごせる」という昭和の時代の常識が色濃く残ってしまっていて、予算が回ってこない印象です。

今年の秋にいよいよ消費税が10%に増税されます。先の衆院選で新たな使途として「幼児・高等教育の無償化」などが示され、実際にこの秋より先行して「幼児教育の無償化」が行われます。しかし残念ながら増税した使途の先として放課後や学童保育の文字を見つけることは難しく、小学生の放課後に資金が回ってくることはいかにも後回しになりそうです。

〇まとめ

子どもたちの放課後から3つの間が失われたと言われて久しくなります。3つの間とは「時間・空間・仲間」です。昭和の放課後にあったゆったりした時間、たくさんの遊び場、多くの友達との遊び、そんな放課後の姿は見かけることが難しくなりました。そして共働きの保護者の増加や3世代同居の減少などにより、子どもたちの放課後の居場所が求められています。具体的には「人、場所、金」の具体的な解決が求められていますが、平成の放課後は一進一退というより「一歩進んで二歩下がる」ような状況で、刻々と課題が大きくなっています。

新しい時代には、保育園の問題と同様に小学生の放課後の課題にも社会全体で取り組んでいけるように頑張りたいと思います。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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