“ちょっとダメなイケメン”で脚光の中川大輔。初主演に「情けなさで存在感を出したい」
「MEN’S NON-NO」で専属モデルを務めるイケメンながら、ドラマ『花嫁未満エスケープ』の“お子ちゃま彼氏”などちょっとダメな男の役が続き、注目を集めた中川大輔。直木賞作家・万城目学のデビュー作が原作の舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』で初の主演を務める。デビューからのキャリアを振り返りつつ、この作品への取り組みや目指していくものまで聞いた。
自立してない役は素を活かして演じます
――中川さんは放送中のドラマ『パティスリーMON』では二枚目ポジションでしたが、わりとダメっぽい男の役が多いですよね。
中川 そうですね。同棲中の彼女に甘えているとか、ヒモとか、自立してなくて会社に行かないとか(笑)。『鴨川ホルモー、ワンスモア』の安倍も、(脚本・演出の)上田誠さんが「生気のない主人公」と言っていました。
――そういう役がハマる感覚は自分でもありますか?
中川 僕自身、『パティスリーMON』のツッチー(土屋幸平)よりは、そっち側の人間だと思っています。『花嫁未満エスケープ』でも『この素晴らしき世界』でも、素の自分を活かして演じられたのではないかと。
――『花エス』ではお子ちゃま彼氏、『この素晴らしき世界』では会社をサボって公園で暇を潰している役でした。
中川 たぶん自分は人から見たら、そんな雰囲気を持っているんだなと、そういう役がよく来ることで気づいた感じです。確かに「俺についてこい!」というタイプではないですね。
同性愛者の役をていねいに演じました
――これまでのキャリアでは、ご自身の代表作というと、どの辺を挙げられますか?
中川 よく話に出していただくのは『仮面ライダーゼロワン』や『花嫁未満エスケープ』、最近だと『コタツがない家』も反響がありました。自分の中で、空気感も含めて特に好きなのは『モアザンワーズ』です。
――男性同士で愛し合う役でした。
中川 僕はアートフィルム系の作品も好きなので、そういうお芝居をやらせていただけたことが嬉しかったです。同性愛者の方の考え方とか、いろいろ自分のものにするために時間がいちばん掛かって。その分、ていねいな役作りができたと思います。役の気持ちを知るために、監督から事前に渡された小説を何作か読んだり。イン前からロケ地の京都に入ったり。
――京都で1ヵ月撮影したそうですね。
中川 キャスト同士で京都を探索して、その時間が演じているときに活きた感覚がありました。『鴨川ホルモー』も京都の大学生の役なので、また京都に行っておきたいと思っています。物語に出てくる京都大学や鴨川デルタの空気を、肌で感じる時間が作れたらいいなと。
中高生時代に映画を毎日1~2本観ていました
――中川さんは「MEN’S NON-NO」のモデルオーディションでのグランプリから世に出ましたが、もともと俳優志向があったそうですね。
中川 映画が好きで、中高とも部活に入らず、近所のレンタル屋さんで名作を7泊100円とかで借りては観る生活をしていました。俳優になろうと決めていたわけでなく、漠然と作品制作に携わる仕事がしたいなと思っていた感じです。
――お父さんが映画関係の仕事をされていたとか。
中川 それもあって、小学生で『アラビアのロレンス』を一緒に観たり。そういう作品を子どもながら面白いと感じて、1人でも映画を観るようになりました。
――週に何本くらいのペースで観ていたんですか?
中川 1日に1~2本は観ていましたね。帰宅部で暇だったので(笑)。
『ダークナイト』の演技に衝撃を受けて
――中学生の頃から毎日1~2本というと、莫大な数の映画をご覧になった中でも、特に影響を受けた作品はありますか?
中川 「演技が凄いな」と思ったのは『ダークナイト』のヒース・レジャーさんです。それを父親に話したら、その前の『ブロークバック・マウンテン』も良いとお薦めされて。
――『モアザンワーズ』にも通じる同性愛者の話でした。
中川 ジョーカーとはまったく違う役でしたけど、どちらも凄い演技で「こんなことができたらカッコいいな」と。初めて自分で演技をやってみたいと思いました。
――それがいつのことだったんですか?
中川 中1か中2です。ヒース・レジャーさんはすごく役に入り込む方で……というようなエピソードも含め、中学生の自分は興味を持ちました。メイキングを観ると、カメラが回ってないところでもジョーカーになっていて。そんな役者に対する憧れを持ったんです。
――そこで、たとえば演劇部に入ろうと思ったりはしませんでした?
中川 なかったです。すごく恥ずかしがり屋だったので(笑)。
大学生になって他の道はちょっと違うなと
――高校時代は沖縄で過ごされたとか。
中川 そうです。高校時代も映画を観たり、あと、漫画も好きで描いたりしていました。
――美大の建築学科に入学したときは、建築の道に進むことも考えていて?
中川 「東京に出て俳優になるぞ」と思っていたわけではないですけど、沖縄よりチャンスはあるだろうと、何となく考えてはいて。「MEN’S NON-NO」は大学の同じ学部の卒業生の方がモデルをやってたことを知って、受けてみました。上京した時点で芸能事務所の入り方を調べて、ちょっと応募もしていたんです。それは全然ダメで(笑)、建築の道も漫画の道も考えてはいました。でも、どちらもちょっと違うなと思った瞬間があったんです。
――仕事にするのは違うと?
中川 そうですね。「MEN’S NON-NO」モデルから俳優になるまで、3年くらい事務所に所属してなくて。その間に、建築学科で我を忘れて模型作りに没頭している人を見ると、僕にはそこまでの熱量はないなと。漫画のアシスタントさんもそう。自分にはもっと向いている道があると思って、この仕事を始めることにしました。
『仮面ライダーゼロワン』は荒修行のようでした
――逆に言えば俳優には、中川さんはそれぐらいの熱を持っていたわけですね。
中川 自分の力を100%発揮できると思いました。建築も漫画も基本、ひたすら1人でやっていく作業で、僕はそこまでの孤独には耐えられなくて。俳優は家で作業する時間も、現場での共同作業の時間も両方あることが、自分に向いているように感じているんです。
――ずっと映画を観る側だったのが、自分で演技をしてみたら、思ったより難しかったりはしませんでした?
中川 難しかったですけど、今まで観てきた世界の中に自分が入れていることは嬉しくて。それと僕にとっては、努力の見返りがいちばん大きい気がしています。
――何かの作品で手応えを感じたりも?
中川 お芝居の基礎ができたのは、『仮面ライダーゼロワン』だと思っています。1年間、同じ役を演じさせてもらって、役者として荒修行のようでした。仮面ライダーシリーズから、あれだけたくさんの方が活躍されている理由がわかります。何十年もこの作品をやられているスタッフさんが多くて、ほぼ経験ゼロの俳優を鍛えてくれる。素敵な場所でした。
――中川さんが演じた迅は敵役のヒューマギアでしたが、ゼロワンに倒されて復活したあとは、立ち位置が変わったり。
中川 そこも勉強になりました。キャラクターがガラッと変わる展開で、同じ役でも演じ分けをしないといけなかったので。
二枚目役は息ひとつから奥が深くて
――今までで、特にハードルが高かった役はありますか?
中川 『パティスリーMON』のツッチーですね。やっぱりいつもの自分と違う二枚目の役なので、今までにないことをいろいろしたり、考えたりしました。カッコ良くなければいけないと、ビジュアルも普段より意識しました。
――普段の中川さんも十二分にカッコ良いですが。
中川 もっとこう、キラキラしなければいけないというか。現場でカメラが回ってないときから、ある程度クールにしていて、素の自分は抑え込みました。メイキングがSNSで流れてくると、自分で見ても、いつもよりクールだなと思います(笑)。
――二枚目ならではの演じ方もあるものですか?
中川 キュンとするようなシーンは奥が深いと思っています。ひと呼吸の入れ方や仕草のちょっとした不自然さで、途端にキュンとしなくなってしまう。頭ポンポンとかもそう。河原(瑶)監督にすごく細かく演出していただいて、ありがたかったです。
狂気を持つ役は自分の好きな映画を参考に
――『合理的にあり得ない』での金髪にした有田浩次はどうでした?
中川 あの役もハードルが高かったです。裏社会のリーダーで、みんなから尊敬されているという設定が魅力的すぎて、どう表現すればいいのか。天海(祐希)さん、松下(洸平)さんと絡んでいく役でもあったので、インの日は緊張しました。
――怖い雰囲気も出していました。
中川 そこも自分にないところで難しくて。でも、そういう空気をちゃんと作り出せる俳優になりたいです。狂気の部分だと、『ボイスⅡ』もそうでしたけど、『ダークナイト』のヒース・レジャーさんを参考にしました。瞳孔が開いてしまっている感じとか、動きが気持ち悪いとか。
――映画をたくさん観てきたことが、自分の演技で身になっているんですね。
中川 そうですね。好きな作品のテイストやお芝居の仕方が、俳優になる前から自分の中にあったのは良かったと思います。
ヨーロッパ企画さんの舞台は純粋に笑えて
――『鴨川ホルモー、ワンスモア』は初主演になりますが、舞台は二度目ですね。
中川 前回の舞台は終始出ている役ではなかったので、感覚としては初舞台に近い気がします。
――舞台を自分で観に行くことはありました?
中川 知り合いの出る舞台は、よく観に行っていました。上田さんの作品では、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』を(鈴木)仁が誘ってくれて。
――上田さんが主宰するヨーロッパ企画の評判も聞いていて?
中川 知ってました。何回かご一緒させていただいた元メンバーの本多力さんがすごく面白い役者さんで、その方が所属していた劇団なら、きっと面白いんだろうなと。実際にヨーロッパ企画さんの舞台は面白くて、笑えて。こんな舞台に出てみたいと、観劇後はプライベートでもラジオでも言っていました。
ハードルが高くても面白い作品にできれば
――ジャンル的にコメディも好きなんですか?
中川 基本的にハッピーな作品が好きなので。ウッディ・アレンさんの作品とか、インテリっぽいコメディも好きですけど、今回は上田さんがコメディの上を行く“巨メディ”と言っていて。ハードルが高くなっている中で、それくらい面白い作品にできたらいいなと思います。
――山田孝之さんが主演した映画版は観たんですか?
中川 もともと観たことがありました。ただ、記憶は薄れていて。京都の市街でたくさんの小さな鬼が走っていたとか、断片的には覚えていましたけど、山田さんはどう演じられていたんだろうと、改めて観てみました。
――上田さんの脚本だと、ブラッシュアップしたところも出てくるでしょうけど。
中川 『ワンスモア』なので。原作だとメインで描かれているのは3~4人で、今回は十数人います。ヨーロッパ企画さんの舞台としては特に多いそうなので、原作通りにはならないだろうと勝手に思っています。
カッコ悪く演じていきたいです
――安倍役は演じやすそうですか?
中川 そうですね。二枚目でもないし、狂気をはらんでいるわけでもない(笑)。どちらかというとカッコ悪い男。僕はそっちのほうが演じやすいのかなと。
――2浪して京大に入ったという役どころです。
中川 それだけでも、ちょっとひねくれていそうですよね。2歳下の芦屋に足蹴にされたり、そういうところをカッコ悪く演じていきたいです(笑)。
――会見では、上田さんが中川さんについて「安倍から滲み出る人柄、繊細なイメージと重なった」と話されていました。
中川 僕の素を見てもらって、当て書きみたいな形になると思うので、楽しみでもあり、怖さもあります。自分がどんなふうに見られているんだろう、って。
――事前に上田さんと顔合わせをして、キャスティングされたんですか?
中川 初めてお会いしたのは、お話が来てからです。マネージャーさんからは、以前出演した『ラフな生活のススメ』を観てくださったと聞きました。濃いキャラクターたちに振り回されて右往左往する役だったので、それで安倍役をいただけたのは腑に落ちました。舞台でも、そういう役回りになるんだろうなと。
――役作り的なことは要らなそうですか?
中川 難しいことは考えず、安倍の好きなものを自分に取り入れていく作業をしようと思っています。さだまさしさんの曲を聴いたり、京都の料理を食べたり。
卒業制作の模型は自分で叩き割りました(笑)
――上田さんは京都での大学時代、「演劇サークルの打ち上げの2次会では鴨川沿いへと繰り出した」といったコメントをされています。中川さんは大学生の頃の青春的な思い出はありますか?
中川 建築学科での制作は思い出に残っています。2~3ヵ月、ひとつの課題のことを考えて、提出期限の1週間前は寝ずに模型を作っていました。それを教授たちは1分くらいの講評でパパッと見て終わり(笑)。その虚しさだったり、逆に出来が良い参考作品に選ばれて嬉しかったり。自分が一生懸命作ったものを、冷静に順位付けされる経験は初めてで、青春なのかわかりませんけど、すごく感情が動きました。
――公園や公共施設のジオラマ的な模型を作るんですよね。
中川 4年間の集大成の卒業制作では、明大前駅を改修するという課題を自分で設定して、周辺の模型も作って看板とかも再現しました。3ヵ月掛けて、寝る間も惜しんで没頭しましたけど、評価を全然得られなくて。講評が終わった瞬間、その模型を膝で真っぷたつに叩き割りました(笑)。
――えーっ⁉
中川 自分でも納得いってなかったんです。そういう突飛なことを安倍もしそうなので、そこも近いと思います。
――ともあれ、仕事をしながら4年間で卒業したんですね。
中川 『仮面ライダーゼロワン』を撮影していて、16話で迅が一度退場して復活するまでの間が、たまたま卒業制作の期間だったんです。運命を感じました。何かが仕事と学業を両立させようとしてくれたのかなと。
台詞は道を歩きながらブツブツ言って覚えます
――『鴨川ホルモー、ワンスモア』の本番までに、課題になりそうなことはありますか?
中川 周りの皆さんに負けないように、主役としての存在感を出していきたいです。安倍の情けない部分を押し出して、魅力が伝わるようにできれば。
――やり直しのきかない舞台で、主役だと台詞も多いですよね。
中川 台詞を覚えるのに困ったことは、実はあまりないんです。レコーダーに自分の台詞を入れたものと、自分の台詞だけ抜かしたものの2パターンを録って、ひたすら交互に聴いて、ブツブツ言いながら歩いて覚えています。
――部屋で覚えるのではなくて?
中川 そうです。事務所のレッスンの帰りとか、覚えるために家まで1~2時間歩きます。僕的には歩いていると脳みそが回転していて、頭に入りやすいし、いろいろなアイデアも浮かぶので、効率的だなと思って。運動にもなるし、一石三鳥です。
――すれ違う人に振り向かれたりもしません?
中川 そこもひとつ練習で、台詞を自然に言えていたら電話していると思われて、振り向かれることがないんです。人混みの中で変な奴に思われたくないので(笑)、必然的に良い練習になっています。
――その覚え方は早くからしていたんですか?
中川 おととし、『モアザンワーズ』を撮ったときからです。リアリティが求められる作品だったので、あえてそういう練習で台詞を覚えました。
個性を活かして、てっぺんを獲りたいです
――主演は目指していたことではありました?
中川 この仕事をしているので、いつかやりたいと思っていました。今回の舞台を成功させて、今後も主演を張れるような俳優を目指していきます。
――目指す俳優像としては、ダメな男役の第一人者みたいな独自のところですか?
中川 今は「そういう役なら中川大輔で行きたい」と、制作の方に思ってもらえるような役者が目標です。二枚目路線ではない自分の個性を活かして、てっぺんを獲っていきたいです。
――てっぺんを目指す野心はあるんですね。
中川 あります。主演は今回が初めてですけど、何度も経験を重ねるごとに成長していくものだと思うので、どんどん演技を磨いていきたいです。
根拠のない自信で楽観的にいきます
――今までの現場で、主演の役者さんから学んだこともありますか?
中川 僕が参考にしたいと思ったのは、『舞いあがれ!』での福原(遥)さんです。「私についてきて」というタイプではないですけど、人柄とやさしさでみんなを包み込んでいくような主演像は、僕も目指したいなと思いました。
――監督や先輩に言われて刺さったとか、指針になったような言葉もありますか?
中川 いろいろな方から「中川は大丈夫だよ」と言われるんです。それは自信になっていて。僕には「MEN’S NON-NO」や『仮面ライダー』出身、同じ事務所の俳優と、比べやすい対象が多いんですね。そういう存在は励みになりますけど、日々考えるところもあって。そこで、別々の先輩方から同じように「中川は行ける」と言ってもらえると、根拠はなくても楽観的に頑張っていきたいと思います。
Profile
中川大輔(なかがわ・だいすけ)
1998年1月5日生まれ、東京都出身。2016年に「MEN’S NON-NO」のモデルオーディションでグランプリ。2019年に『俺のスカート、どこ行った?』でドラマ初レギュラー。主な出演作はドラマ『仮面ライダーゼロワン』、『花嫁未満エスケープ』、『モアザンワーズ/More Than Words』、『この素晴らしき世界』、『パティスリーMON』など。
『鴨川ホルモー、ワンスモア』
4月12日~29日・サンシャイン劇場 5月3~4日・サンケイホールブリーゼ
原作/万城目学 脚本・演出/上田誠(ヨーロッパ企画)
出演/中川大輔、八木莉可子、鳥越裕貴、清宮レイ(乃木坂46)、佐藤寛太ほか
2浪して京大に入学した安倍が、怪しい先輩の誘いと同級生へのひと目ぼれに任せて入った「京大青竜会」は、千年の昔から続く謎の競技「ホルモー」をするサークルだった。当惑とときめき、疑いつつ練習、そして、この世ならざる「奴ら」と邂逅して……。