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熱中症のハイリスクな場所は自宅!?

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
自宅も熱中症の温床(写真:アフロ)

熱中症の搬送者数

8月に入り、熱中症で搬送される人が急増しました。最近で言えば、8月17日〜8月23日の1週間で12,799人の方が救急搬送された様です(総務省消防庁調べ)。昨年の同時期と比べても、倍以上の人が搬送されております(令和元年8月17日〜8月23日の救急搬送人員は5,566人)。

年々患者が増えているかといったら、必ずしもそういうわけではなく、熱中症の患者数は気候に大きく左右されます。7月いっぱいまで梅雨が明けず、8月は梅雨が明けてから連日猛暑日が続いており、最近の熱中症患者数増加につながったのだと思います。実際、昨年の熱中症での救急搬送数のピークは7月後半でした。今年は7月までは熱中症による救急搬送が少なく、8月になり増加してきましたが、おそらくシーズン通した患者数にはそこまでの差は出ないのではないかと考えております。

令和2年 都道府県別熱中症による救急搬送人員 合計搬送人員 前年との比較 8月17日から8月23日 総務省消防庁HPより
令和2年 都道府県別熱中症による救急搬送人員 合計搬送人員 前年との比較 8月17日から8月23日 総務省消防庁HPより

熱中症の姿を知ろう

毎年この時期になると、熱中症の啓発がなされます。今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するマスク着用が熱中症リスクになるのではないかという議論もあり、熱中症予防に関して例年よりも着目されたのではないかと思われます。しかし、結局例年通り熱中症で救急搬送される人が大勢いらっしゃいます。熱中症で救急搬送されることを防ぐには、正しく熱中症の姿を知ることが大事です。

熱中症で救急搬送されるパターンとして、外で運動していたり、外で作業していたりという状況を想像するかもしれません。もちろん屋外作業場などから搬送される方も多いのですが、熱中症の発生場所は意外なことに住居が半数弱を占めます。自宅から搬送される方も非常に多いのです。

令和2年 熱中症による発生場所別総搬送人員 8月17日から8月23日 総務省消防庁HPより著者作成
令和2年 熱中症による発生場所別総搬送人員 8月17日から8月23日 総務省消防庁HPより著者作成

住宅からの搬送の中には、自宅の庭でガーデニング中に搬送されるなど、屋外で熱中症発生という状況も含まれます。ただ、屋内からの搬送も大変多いです。屋内での熱中症予防のポイントは冷房です。東京都で今月17日までに熱中症で亡くなった103人のうち、84人が冷房なしの部屋で過ごしていたり、冷房があっても使っていなかったりすることが報告されています(https://www.tokyo-np.co.jp/article/49856)。

冷房の重要性は、過去の事例を見てもわかります。2003年にヨーロッパを熱波が襲った時、フランスで甚大な被害がでました。元々、フランスではそこまで暑くなることがなく、空調を整えている施設がなかったのです。集中治療室においても、空調設備が乏しく、死亡リスクを上げることに寄与していたと考えられています(Misset B, et al. Crit Care Med. 2006; 34:1087-92.)。

熱中症対策の基本は冷涼な環境

高齢で冷房が苦手な人も多いかもしれません。でも、冷房を使って欲しいのです。COVID-19の流行で、今年は特に換気と冷却の両立が推奨されています。窓を開けると熱気が入り込んできますから、都度、部屋の温度を下げる様に気にかけていただければと思います。

経済的な問題から難しい場合、代替手段としては、扇風機か水風呂という手もあります。重篤な熱中症患者さんが搬送されてきた場合、我々は血液を直接冷却する方法を取ることもありますが、古典的には扇風機や水風呂で冷やしています。COVID-19対策の一環で、今期は接触感染リスクを軽減するために扇風機や水風呂の出番が少なくなっているかもしれませんが、ご家庭において使用する分には、簡便かつ効果的です。冷やしすぎに注意しながら、上手に利用したいところです。とは言え、やはり冷房で調節するのが適切です。医師として、憲法に謳われる「健康で文化的な最低限度の生活」には、空調設備が整った空間で生活することも含まれて然るべきと考えます。

まだまだ残暑厳しいです。どうかみなさまご自愛ください。そして、ご高齢の家族親戚友人知人がいらっしゃいましたら、特に気を遣っていただければ幸いです。

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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