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女子柔道暴力問題。なぜ戒告の大甘処分なのか。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

これが戒告処分で済まされることになるとは…。監督“続投”とは驚いた。女子柔道のトップ15選手(引退選手含む)が、強化合宿などでロンドン五輪の女子日本代表の園田隆二監督やコーチから暴力やパワハラを受けていたと日本オリンピック委員会(JOC)に集団告発した問題である。

全日本柔道連盟(全柔連)は30日、暴力行為を認め、園田監督とコーチらを戒告処分とした。女子柔道選手たちの集団告発は異例中の異例である。よほどひどい状態だったのだろう。女子選手たちの要望は「指導者の刷新」もあるのに、今のところ、選手たちの願いは聞き入れてもらえなかった。

スポーツ界の「体罰問題」が社会問題となっている。だが全柔連の問題意識は一般常識からかい離しているのではないか。もちろん園田監督の実績は評価するにしても、今回の暴力行為に対する対応は別問題である。  

どだい、なぜ女子選手たちがJOCに告発したのかを理解しないといけない。全柔連ではもみつぶされると考えたからこそ、その統括組織であるJOCへの告発に踏み切ったのだろう。選手たちは「代表から外される」リスクも負う。

なのにJOCは問題の解決を全柔連主導で進めようとしている。市原則之専務理事はこの日の会見で、「全柔連は解決する能力を持っていると思います。全柔連の中で真剣に取り組んで解決してもらいたい」と話した。

これはないだろう。この日の処分を聞いて分かる通り、全柔連は古い体質から脱していない。選手たちは全柔連に自浄能力がないと判断したから、覚悟を持って思い切った行動に出たのである。市原専務理事はこれから被害を受けた選手側のヒアリングを全柔連主導でやって、対応を協議したい意向を示した。「ヒアリングの結果で、選手と指導者に信頼関係が残って、選手が付いていけるかどうかも重要なことになっていくのではないか。よく聞き取りの内容を調査していきたい」と 。

会見で、処分の追加指導の可能性を聞いたら、市原専務理事はこう、答えた。「まあ、自分なりの思いも考えもありますけれど、これは全柔連のことですから。こうしなさい、ああしなさい、とは言えません」と。

女子選手たちは今の指導体制を信用していない。いまだ全柔連に実名を知られることを嫌がっている選手もいるという。ならば、JOC主導で選手たちのヒアリングを行い、名前を伏せて、その内容だけを全柔連に伝えればいいのではないか。

問題はこのほか、対応の遅さである。女子選手たちが集団でJOCに告発したのが昨年の12月4日という。もう2カ月近くが経った。しかもJOCとしては問題の公表を控える方針だったそうだ。「スピード感を持ってやらないといけないと思っていました」と市原専務理事は言う。「ただ年末年始をはさんで、いろんなことがあって。公表はしないで解決させたいと思っていました。選手の立場に立って考えると、公表すると選手が不安を持つだろうと…」

これでは全柔連もJOCも隠ぺい体質と指摘されても仕方なかろう。この種の暴力問題はスポーツ界の「氷山の一角」の可能性が大きい。ならば、公表して、きちんと迅速に厳格に対応することが再発防止、「体罰・暴力撲滅」への啓発になるはずである。

なぜスポーツ界の体罰、暴力はなくならないのか。もちろん指導者の環境改善も必要だろうが、まずは問題意識を共有し、チェック機能を高める仕組みを作らなければならない。時代とともに指導者は指導法を変えないといけない。メディアも、もう「見て見ぬふり」をしてはならない。

繰り返す。この体罰・暴力問題は、JOC主導で女子選手たちのヒアリングを実施し、JOCは全柔連に処分の見直しと再発防止策、体質改善を求めるべきである。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビーPlus)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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