オートバイのあれこれ『平凡バイクの番狂せ。ZEPHYR』
全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。
今日は『平凡バイクの番狂せ。ZEPHYR』をテーマにお話ししようと思います。
日本のオートバイの歴史において、「衝撃的!」と表現される出来事はいくつかありますが、今から35年前の出来事も、我々オートバイファンに大きなインパクトを与えたといえるでしょう。
カワサキ『ゼファー』の登場です。
ゼファーは、80年代に過熱の一途を辿ったレーサーレプリカブームを瞬く間に鎮静化してしまいました。
この出来事において目を見張るポイントは、“スゴくない”バイクが“スゴい”バイクたちを蹴散らしたことです。
レーサーレプリカモデルは、その名のとおりWGP(世界グランプリ)等で活躍するレーシングマシンのような作りで、スペックも装備も最新最強のものが与えられていました。
一方ゼファーは、スペックも装備も凡庸、いやむしろ「平均以下」といっても過言ではないくらいのパッケージで生まれてきました。
レプリカブームの下でスペック至上主義が幅を利かせるなかにあって、特筆すべき強みを持たずに出てきたゼファーは、当時の流れからすると完全に時代錯誤のバイクだったといえます。
ゼファー発売のニュースを見聞きした二輪業界の人々も、
「こんな平凡なバイクが売れるわけがない」
という意見でおおよそ一致。
(ゼファーを作った張本人であるカワサキでさえ、ゼファーのリリース時は内心ビクビクだったと言われています)
しかし、フタを開けてみると…。
想定外の大ヒット。
ゼファーは1989年(平成元年)4月に発売されたのですが、発売直後から一気に売り上げを伸ばして89年度の400ccクラスにおける販売台数ランキングでいきなり2位を獲得したのです。
そして翌90年には、なんと販売数トップを記録。
ゼファーは80年代を席巻したレプリカ勢を一撃で駆逐し、誰の手にも負えなくなっていたレプリカブームを何食わぬ顔で葬り去ってしまいました。
何の凄みも無いゼファーが、大方の予想を裏切って最先端レプリカを一発KO。
バイクの歴史において「ドンデン返し」「番狂せ」という表現が最もシックリくるのは、このゼファーの大ヒットを差し置いて他に無いように思います。
ここでゼファー爆売れの背景を説明しておくと、実はレプリカブーム期に、行き過ぎたスペック競争に対して閉口していたバイクファンが意外と多く、ゼファーはそうした層を独占的に囲い込むことができたのです。
ゼファーは、レプリカブーム全盛期の頃から一歩引いた立ち位置で、常にブームの動向を冷静に見ていたカワサキだからこそ作ることのできたオートバイだといっていいでしょう。