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『ジョジョの奇妙な冒険』のカーズは、火山の噴火で宇宙まで飛ばされたが、そんなコトがあり得るのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ジョジョの奇妙な冒険』の魅力的なキャラクターのなかでも、トップクラスに印象的だったのが、第2部『戦闘潮流』に登場したカーズだ。

2千年の眠りからよみがえり、その時点でもモーレツに強かったけど、探し求めていた「赤石」を手に入れると、ついに「究極の生命体」となった!

そのとき作品中には、カーズの図解が描かれ、「カーズが赤石によって変身した完全生物とはッ!」という解説も載っていた。

そこには、こんなスゴイことが書かれている。

ひとつ 無敵なり!

ふたつ 決して老いたりせず!

みっつ 決して死ぬことはない!

よっつ あらゆる生物の能力を兼ね備え しかも その能力を上回る!

最初の3つがすさまじいので、4つ目が地味に感じられますな。

でもカーズは、腕を猛禽の翼に変えて飛び回ったり、背中の羽をピラニアに変化させたり、足を大ダコに変えたり……と、いろいろな生物の能力で攻撃してきて、ぜんぜん地味ではありません。

それだけではない。知能も突出しており、そのIQは400だという!

IQ400とは、4300000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000人に1人という、あまりの天才である。

こういうヒトをジョセフ・ジョースター(ジョジョ)がどうやって倒したかというと、なんと火山の爆発で宇宙に吹き飛ばした!

カーズもすごいが、対処法もモノスゴイ! まあ、不老不死だから、地球から追い出して、2度と戻ってこないようにするしかない……というのはナットクである。

しかし宇宙まで飛ばすとは、いったいどれほどの噴火だったのだろうか?

◆カーズが宇宙へ行くまで

ジョジョも、最初から噴火で倒そうと思っていたわけではない。

一度はカーズを火山の火口に落とし、「ついにカーズを!やっつけたぞォォォォォ!」と歓喜の声をあげた。

だが、カーズは全身を泡状のプロテクターで覆って生きていた。

逆襲に転じると、ジョジョの左腕を切断! カーズの圧倒的な力の前に、ジョジョも自分の死を受け入れかけた。

そのとき、ジョジョがかざした赤石が「波紋」のエネルギーを増幅し、それによって火山が大噴火を起こす!

2人の乗った岩盤が、宙に押し上げられる。

しかも、切断されたジョジョの左手が、偶然にもカーズの喉元に食い込んで、それに気を取られたカーズには、火山礫(れき)が多数命中。

カーズの体はさらに押し上げられて、ついに宇宙へ放り出されたのである。

ジョジョは左手を切断されたおかげで、人類を救ったのだ。これもオドロキの展開。『戦闘潮流』は本当にびっくりが詰まったすごい作品であった。

◆どんな噴火だったのか?

火山が噴火すると、噴煙が地上数十kmの成層圏に達することもある。

だがそれは、細かい火山灰が上昇気流で舞い上がったもの。それより大きな火山礫(直径2mm以上)や火山弾(64mm以上)は、上空数kmまでしか上昇しない。

体重120kgほどと見られるカーズが宇宙にまで飛ばされるとは、よほど激しい噴火だったということだ。

しかも真上に打ち上げられた物体は、速度が秒速11.2km以下なら、いつか落ちてくる。それを超えると、地球の重力を振り切って太陽を周回し始める。カーズが飛ばされた速度は、秒速11.2kmを超えていたことになる。

カーズにこの速度を与えたのは「岩盤の上昇」と「火山礫の直撃」だ。

ここでは、両者の貢献度が半々、つまり岩盤の上昇で秒速5.6kmになり、火山礫の直撃で秒速5.6km加速して、秒速11.2kmに達した……と考えよう。

直撃した火山礫は、どれも直径5cmほどで、重さを計算すると60gである。

コマの描写から、全身を直撃した火山礫が20個だとしたら、合計1.2kg。これがぶつかって体重120kgのカーズを秒速5.6kmから11.2kmに加速したとすれば、火山弾の速度は秒速565kmだ。速い!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

現実の火山礫は、飛距離が5kmを超えることはないという。ここから計算すると、噴出速度は最大で秒速220m。その2550倍も速かったカーズ直撃火山礫は、通常の火山礫の650万倍ものエネルギーを持っていたことになる。

さすが波紋の増幅が引き起こした大噴火!

こんなすごい噴火が起こって、地球は大丈夫だったのか?

20世紀最大の噴火を起こしたフィリピンのピナツボ火山は、110億tの溶岩を噴出し、2400兆kcalの熱を放出したが、それぞれの650万倍だと、噴出した溶岩は6京1500兆tで、地中海が軽々と埋まってしまう(地中海の容積の7.6倍)! 発生した熱は155兆×1億kcalで、全地球の気温が1万4800度も上昇する!

人類が滅亡するくらいのウルトラ大噴火でなければ、この究極の生物は倒せないということだ!

◆カーズはいまどこに?

ところで、この戦いが起こったのは1939年で、カーズが宇宙に飛ばされたのは2月28日であることがハッキリわかっている。ちょうど83年前のことなのだ。

そして、前述のようにカーズは「決して死ぬことはない!」のだから、いまも生きたまま宇宙をさまよっているはずだ(作中にもその旨が書いてある)。

彼はいま、宇宙のどこらへんにいるのだろうか?

火山の噴火が起こったのが正午で、太陽に向かって飛ばされたとしたら、どうなるか?

速度が秒速15kmだった場合、地球の公転速度が加わって、地球軌道から太陽側に26.7度の角度で、秒速33.4kmで打ち出される。

その後、長大な楕円軌道を描いて、公転周期556日で太陽を周回することになる。

そして2022年2月18日の位置を計算するなら、その後カーズは太陽を53周して、地球の真昼の地点から見て東の地平線のやや下3億3600万kmを、秒速15.5kmで接近中!

えっ、接近中!? カーズは地球に接近してんの!?

こ、これはマズイのではないでしょうか!?

決して死なない究極の生命体が、いつか地球にぶつかるかもしれず、そうなってもカーズは死なないから、その後の人類はいったいどうなってしまうのか……?

考察した結果、さらにビックリが増えてしまいました。やっぱり『戦闘潮流』はすごいな。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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