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コロナ禍の今こそ、新しい教育の仕組みや学校・教育のあり方を創出するチャンス

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
自宅でオンライン教育を受ける児童(写真:アフロ)

 文部科学省中央教育審議会の初等中等教育分科会である「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」は、第9回会合を6月11日、WEB会議で開催した。同会議で、文科省は、現状の新型コロナウイルスの感染リスクを踏まえた、学校教育の対面指導とオンライン授業の関係等の課題や問題を整理した検討用資料を提示した。

 教育新聞2020年6月11日号(Web版)の記事「対面指導とオンラインのハイブリッド化 文科省が提示」によれば、同資料には、「感染症が収束していない「Withコロナ」段階では、教師による対面指導とオンラインとの組み合わせによる新しい教育様式を実践する一方、感染症が収束した「ポストコロナ」段階では、教師が対面指導と家庭や地域社会と連携したオンライン教育を使いこなし、ハイブリッド化したかたちで協働的な学びを展開する姿を描いた。特に、高校では同時双方向型のオンライン授業について、単位数の算定要件など制度的な見直しを行い、対面指導と融合したハイブリッド型の授業を可能とする方向性を明確に打ち出し」ているという。

 これは、コロナ禍の現状を踏まえて、今後の教育の方向性を提示する理に適ったものと考えることができる。

 他方、緊急事態宣言が解除され、自粛が解禁されるなか、学校は、差異もありながらも、徐々に再開が始まっている。そのこと自体は望ましいことであり、それに伴いその数か月で起きた教育の遅れをはじめとする諸種の問題や課題が早く解決されていくことを期待している。

 しかしながら、筆者自身は、そのような流れの中、別の意味での教育における問題や課題を危惧する。

 

 それは、コロナ禍で学校が閉鎖されている間、遠隔(オンライン)教育の重要性が指摘され、文科省もICTを最大限活用して遠隔で対応することが極めて効果的という通知を自治体などに出したりしていたが、一方で電子機器の整備やWi-Fi環境に関して未整備や不十分である地域や学校・家庭もあり、遠隔教育は教育格差を生んでしまうなどの別の論点等と混同した議論が行われ、大学などではかなり普及したが、文部科学省が4月16日時点で臨時休校すると答えた1213の自治体に対し、約2万5000校の公立小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校などでの取り組みを聞いた調査によれば、オンラインで同時双方向型での指導を取り入れているのは5%に過ぎないという現実も生まれているのである。

 また、2018年度遠隔教育システム導入実証研究事業の遠隔教育システム活用ガイドブック第1版の遠隔授業実証校のアンケートによれば、遠隔事業を実施した教員の9割を超える多くは児童生徒の学びに役立つと回答しており、遠隔授業を受けた児童生徒も、遠隔授業に対して、いつもの授業より、やりがいや満足を持てたと、8割以上が回答している。

 これらの事実やデータだけをみると、文部科学省や教員・生徒はICTなどによる遠隔教育の推進にどちらかといえば積極的だが、学校組織やそれを支える自治体(含教育委員会)が、一部は積極的だったが、全体として消極的なのではないかということができる。

いずれにしろ、小中高で、教育の危機的状況をも惹起したともいえるコロナ禍の下においてさえも、なぜ遠隔教育(特にオンライン教育)が進展していなかったあるいはしていないかについて検証し、考える必要があるだろう。

 今回、コロナ禍という特殊事情のなか、遠隔教育が注目された。だが、世界における教育の潮流である、STEAM教育(注1)やEdtech(注2)、ICTなどを活用したミネルバ大学、カーンアカデミーやMOOCなどの新しい教育システムなどをみればわかるように、オンライン教育などは、単なるコロナ禍対策の問題ではなく、新しい授業や新しい教育機関の可能性を模索するコンテクストの中で考えられるべき問題だと考える。その意味では、筆者は、今般のコロナ禍の問題と引き離して、このオンライン教育の問題を、日本の教育の今後の可能性の中で考え、推進すべきことであると考えている。

 筆者は、そのような視点から、東京新聞 サンデー版2020年6月7日号「遠隔教育(No.1460)」の中で、コロナ禍の現状も踏まえて、今般の状況を、オンラインでも対面でも学べ、教えられる「これからの教育」を創出する機会にしていくための提言をおこなったが、それをここでもう少し敷衍しておきたい。

○前提:

・デジタルプロアクティブ(先進的な取り組み)

 今後の教育の中で、オンライン教育活用を前提にして、子どもが主体的になれるように積極的に対応していく。

・従来の延長ではない

 教師が一方的に対面で教えるという発想を変え、学校や教員の役割を再定義し、新しい授業や教育機関構築を目指す。学校がより社会に開かれたものであり、教員が情報の一方的な伝達者である役割を変えていく必要がある。

・できることからはじめる

 オンライン教育は新しいこと。実施すれば、当然に問題・課題は生まれる。そのことを前提に、はじめから完璧を目指すのではなく、オンライン教育を推進していくことを目指して、できることからはじめ、問題等を解決しながら、推進していく。

○具体的には:

・複数のアプリとの組み合わせ、双方向や反転授業(アクティブラーニング)や児童生徒が教えることで学習(リバースメンターや相互学習)  

 今生まれつつあるAIネイティブ時代においては、若い世代の方が教員よりリテラシーが高いこともありうる。そこで、生徒同士が教えたり、逆に教員が生徒に教えてもらうことで、生徒が学ぶこともありうる。教師は並走し、生徒が学ぶのをサポートするイメージである。

・一括対応から個別対応へ  

 ICT活用で、異なる家庭、児童生徒の学習の取り組み状況、個別の習熟度を把握し、対応していくことが可能になる。従来のように、ある対象を基準に教育する一括的で、統一的な対応でない教育が可能になる。

・AI(人工知能)なども活用し世界からも学べる状況をつくる  

 AIなどを活用すれば、言語的なバリアや様々な障害などのハードルを下げた教育が行われるので、世界中のコンテンツを教育で活用することができるようになる。

・eラーニング(ICTを活用した学習)や「学校・子供応援サポーター人材バンク」などの活用で、教員負担軽減  

 それらの仕組みを活用することで、教員が同一のものを提供するための時間や手間を抑えたり、現役教員が教育における人的サポートを獲得でき、教員が教育においてより創造的な活動が行えるようになる。

・家庭と協力し、スクリーン(電子機器等)から離れる時間や身体を動かす時間をつくるなど、心身の健康にも配慮

 オンライン教育は、家庭内で、同じ画面を同じ姿勢で時間を過ごすことになりがちだ。それは、エコノミック症候群、視力低下、ストレスなどを生む原因にもなるので、家庭と協力して、様々な工夫をする必要もある。

・不適切画像流入などの情報セキュリティーの強化   

 オンライン教育は、外部からのアクセスによって情報上の様々な問題が起きたり、内部的にオンライン上の問題・課題が起きることもあるので、その点でも配慮や対応も必要である。

・家庭の環境(機器整備などを含む)への配慮や働き方改革と適切に組み合わせ、親もより関われるように

 特にコロナ禍により、家庭等で仕事をする人や機会も増えた。その新たな状況とオンライン教育は、上手くマッチする部分とフリクションが生じる部分があるので、その両者の適切なマッチングを考えると共に、オンライン教育で家にいることで、親が子供の教育により頻繁に関われる可能性が高まるので、その点を教育に活かせる工夫も必要である。

・学校・教員および家庭への技術的サポート体制の整備  

 学校、教員、家庭は、電子機器の整備やWi-Fi環境状況等において、すべてが整備され、十分な状況にあるわけではない。またたとえ環境は整っていても、関係者がすべて問題なく活用できるわけではない。それらの意味からの技術的サポート体制の整備が必要である。

○将来的には:

・オンラインと対面教育をうまく組み合わせ、推進する

 オンライン教育も対面教育も、プラス面とマイナス面がある。両者のプラス面を組み合わせて、より有効で新しい教育の仕組みを構築していく。

・いつでも、どこでも、だれでもが学んだり、教えたりできるように

 オンライン教育を活用すれば、これまで時間的あるいは空間的に制限を受けていた、学びや教えることの機会や可能性は飛躍的に高まるので、その可能性を有効に活かしていく。

・オンライン教育の定着のため、オンライン授業日の設置  

 コロナ禍の問題が解決しても、オンライン教育を進めていくために、各学期の何日かあるいは一週間とかは、オンライン授業の日とする。

・オンライン化推進での問題発見で新サービス、製品等をつくり、日本発の新教育システムを創出する

 このような新しい試みを進めていく上で、現在の教育やオンラインの仕組みにおける問題や課題を解決したり、それらの動きに政府等も財政支援なども行い、日本発の新しい教育システムを創出したり、新しい教育ビジネスを生み出していく。

 

 皆さんにも、機会があれば、同紙記事全体も読んでいただきたいと共に、日本の教育を時代に即したものに更新し続けていくための、議論をしたいと考えている。

(注1)「STEAM」とは、サイエンス(Science/科学)、テクノロジー(Technology/技術)、エンジニアリング(Engineering/工学)、アート(Art/芸術)、マセマティックス(Mathematics/数学)の頭文字を取った造語で、「児童生徒が数学・科学の基礎を身につけた上で、技術や工学を応用して、問題に取り組む「STEM(ステム)」にアートの感覚、具体的にはデザインの原則を用いたり、想像力に富み、創造的な手法を活用したりすることによる問題解決を奨励すること。このために必要な能力を統合的に学習することが「STEAM教育」である」(出典:知恵蔵)

(注2)Edtechは、Education[教育]とTechnology[テクノロジー]を組み合わせた造語で、進歩を続けるテクノロジーの力を使って教育にイノベーションを起こすビジネス領域である。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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