オゾンホールが観測史上最小に その背景に突然昇温
世界で最も成功している環境条約と称されるモントリオール議定書は、オゾン層の破壊物質の削減や廃止を定めたものです。先進国のみならず、途上国を含めた190か国が締約国となっているほど、オゾン層を守ることは世界的な責務としてとらえられています。
言わずもがな、オゾン層に開いた穴は「オゾンホール」と呼ばれていますが、この度、このオゾンホールが観測史上最小になっていることが明らかになりました。NASAとNOAAの報告によると、今秋のオゾンホールの面積は約1,000万平方キロで、1980年代に初めてオゾンホールが発見された時よりも小さくなったそうです。
通常は9月から10月にかけてが、一年で最も南半球のオゾンホールが拡大する時期で、この時期の平均の面積は2,000万平方キロだそうです。こうした時期にオゾンホールが観測史上最小になったということを受けて、NASAの研究者は「素晴らしいニュースだ」と述べています。
オゾン層とは…
オゾン層は地上10~50キロメートルの「成層圏」と呼ばれる高層に存在し、太陽からの有害な紫外線を吸収して、生態系を保護する役割を持っています。オゾン層が1%減ると、地上に届く有害な紫外線量が2%増えて、皮膚がんの発症率も5%以上増えるという統計もあります。
このオゾン層の減少を世界で最初に発見したのは、第23次南極観測隊員であった忠鉢繁(ちゅうばちしげる)さんと言われています。
観測史上最小となった理由
しかし一体なぜ、今秋オゾンホールが観測史上最小になったのでしょうか。
それは私たちがモントリオール議定書を遵守し、フロンガスなどの破壊物質を排出しないようにしてきた努力が実を結んだからなのでしょうか。
残念ながら、それだけが原因とは言えなさそうです。その背景には、成層圏で起きている、ある現象が関係しています。
成層圏の突然昇温
今年8月、南極の上空で数日間のうちに気温が上昇する「成層圏の突然昇温」という現象が発生しました。今回の突然昇温は、数日間で50℃以上も上昇し、南半球の観測史上最大規模ともいわれています。
この成層圏の突然昇温が起きると、オゾン層を破壊する働きのある「極成層圏雲」と呼ばれる、微細な粒子から成る雲が減少し、結果的にオゾンホールが小さくなることが知られているのです。
実際、同じように成層圏の突然昇温が起きた1988年と2002年にも、オゾンホールが縮小しました。これが原因によるオゾンホールの減少は一時的なため、残念ながらオゾンホールは再び大きくなることが予想されています。
しかしながら専門家は、オゾン層の破壊物質の削減に伴って、オゾンホールの大きさが2070年には1980年頃のレベルに戻るのではないかと見ているようです。