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全国旅行支援「旅行スキル」が高い人ほど有利? 実際に泊まってみた

山口健太ITジャーナリスト
名古屋中心部の夜景(筆者撮影)

観光需要の喚起策「全国旅行支援」の延長が決まり、年明けは1月10日から、割引額の上限を引き下げる形で継続されます。

うまく使えばおトクに旅行できる施策とはいえ、思い通りのプランを予約するには一定のスキルが求められるようです。実際の旅行で試してみました。

予約するにも「スキル」が必要?

10月に始まった全国旅行支援の盛り上がりが続いています。筆者も自分で書いた記事を参考にしつつ、日曜日や祝日を狙い、自治体割引と「併用」したプランで何度か旅行をしてみました。

特に「併用」の効果は絶大です。たとえば愛知県名古屋市が実施している「シャチ泊」は、居住地の制限なく、愛知県の全国旅行支援(いいじゃん、あいち旅キャンペーン)と併用することができます。

こちらは実際に泊まったホテルの例です。朝食込みの合計料金1万5100円に対し、割引として旅行サイト独自クーポンで1510円、シャチ泊で5000円、全国旅行支援で40%(3436円)が引かれ、支払金額は5154円となりました。

名古屋市の「シャチ泊」と全国旅行支援を併用したプランの例(楽天トラベルより、筆者作成)
名古屋市の「シャチ泊」と全国旅行支援を併用したプランの例(楽天トラベルより、筆者作成)

この金額には朝食料金の2300円と、地域クーポンの3000円分が含まれていることから、これらを差し引くと「-146円」となり、実質無料と考えることもできます。

居住地などの条件付きによる自治体割引はさらに多くの種類があり、東京都の「もっとTokyo」(東京都民のみ)や、北海道千歳市の「ようこそ・ちとせ割」(新千歳空港発着便の利用者のみ)は大きな割引を期待できます。

こちらは東京都内のホテルで、8000円相当のディナーが付いたプランの例です。朝食料金や地域クーポンを考慮すると、何かの間違いではないかと思うほどの安さになります。

東京都の「もっとTokyo」と全国旅行支援を併用したプランの例(楽天トラベルより、筆者作成)
東京都の「もっとTokyo」と全国旅行支援を併用したプランの例(楽天トラベルより、筆者作成)

問題は、これほどおトクなプランを予約するには、それなりのハードルを越える必要があるという点です。

たしかに、旅行サイトで検索したときにこのプランが出てくれば、あとはボタンを押すだけで予約は成立します。運が良ければ、そういう場合もあるでしょう。

しかし、全国旅行支援は都道府県ごとに予算が分かれており、たびたび「売り切れ」が発生します。予算が追加されると「販売再開」されますが、そのタイミングは旅行サイトごとに異なります。

楽天トラベルでは「終了」「再開」「延長」など目まぐるしく状況が変化している(Webサイトより)
楽天トラベルでは「終了」「再開」「延長」など目まぐるしく状況が変化している(Webサイトより)

自治体独自の割引を併用する場合は、全国旅行支援とは別の枠となるため、両方に空きがあるタイミングを狙う必要があります。

割引の適用には最低金額が設定されているため、場合によってはあえて「高い」プランを選んだほうが、併用によって安くなる場合も出てきます。

本来の料金は上のプランのほうが安いが、最低金額に満たないため全国旅行支援が適用できない(楽天トラベルより、筆者作成)
本来の料金は上のプランのほうが安いが、最低金額に満たないため全国旅行支援が適用できない(楽天トラベルより、筆者作成)

価格自体にも注意が必要です。「便乗値上げ」とまではいかなくとも、宿泊客が増えれば部屋の価格は上がるものです。その値上げ幅が許容できる範囲かどうか、気を配ることになります。

普段の旅行と比べて、全国旅行支援では考慮すべき「変数」が増えているわけです。その中で思い通りのプランを予約するには、「旅行スキル」とでも呼ぶべき能力が求められます。

そのため、実際に全国旅行支援を楽しんでいるのは、普段から旅行サイトをよく使っており、旅慣れている人が多いのではないかという印象を受けます。

旅行でも「デジタル化」が大きな課題か

旅先でも、いろいろと疑問に感じるところはあります。宿泊施設に着いてみて気になるのは「紙ベース」で運用されているという点です。

チェックインの際には、全国旅行支援を利用するための紙に記入し、地域クーポンも紙で渡されます。「もっとTokyo」独自の申込書も紙でした。こうした印刷物で溢れかえり、混乱に陥っているホテルもありました。

地域クーポンの手渡しと利用方法の説明のために、専用のスタッフとカウンターを設けているところもありました。説明に時間がかかるのか、クーポンを受け取るために待たされるところもありました。

本来であればホテルにメリットの大きい施策のはずですが、SNSにはホテル関係者とみられる人から悲鳴の声も投稿されており、必ずしも歓迎ばかりではないようです。

こうした仕組みは、最短で支援策を実施するために現状ではベストな方法だったと信じたいところですが、いざ体験してみると、日本のデジタル化の遅れを感じずにはいられません。

地域クーポンについて、良い点としては、使える店がそれなりに充実しており、有効期限がある「クーポン」なので、現金よりも気前よく使うことができます。

たとえば名古屋のひつまぶしは、個人的には「並」で十分とは思いつつも、クーポンがあるので「特上」にしてみました。

クーポンを利用した食べた名古屋名物の「ひつまぶし」(筆者撮影)
クーポンを利用した食べた名古屋名物の「ひつまぶし」(筆者撮影)

ただ、クーポンの仕様は都道府県ごとにバラバラで、「紙」だけのところもあります。キャッシュレス普及を後押しする意味でも、ここはデジタルを基本にしてほしかったところです。

愛知県の地域クーポンは紙。左はシャチ泊、右は全国旅行支援のもの(筆者撮影)
愛知県の地域クーポンは紙。左はシャチ泊、右は全国旅行支援のもの(筆者撮影)

一方、東京都や大阪府では電子クーポンが導入されているものの、地域通貨アプリ「region PAY」の使い勝手には大きく改善の余地があるように思います。

このアプリは全国旅行支援以外のクーポンにも活用されており、複数の都道府県に1つのアプリで対応できる点は優れています。

しかし対応店舗を探すためのマップ機能は誤動作が多く、絞り込み機能も弱いようです。筆者はWebブラウザーから自治体のサイトを直接開いて探すことにしました。

region PAYのマップ機能。多数の店舗から絞り込むのは難しい(アプリ画面より、筆者作成)
region PAYのマップ機能。多数の店舗から絞り込むのは難しい(アプリ画面より、筆者作成)

また、実際にクーポンを使う際には、QRコードの読み取りでエラーが発生する不具合に何度も遭遇しました。アプリを立ち上げ直すなどの操作で回避できますが、スマホに慣れていない人には難しそうです。

旅行を楽しむためのアプリが旅行中の体験を阻害するというのは、なんとも本末転倒な事態です。この点については、PayPayのように多くの人が使い慣れている仕組みに乗っかったほうが良かったのではないかと思います。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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