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マンションのバルコニー、子供の転落事故を誘発する手すりがある……というちょっと怖い話

櫻井幸雄住宅評論家
透明の素通しガラスで、外の景色がよく見えるバルコニーの手すりは……。筆者撮影

 マンションにおいて毎年のように起きてしまう、小さな子供の転落事故。多くはバルコニーの手すを乗り越えることによって生じる。この痛ましい事故を防ぐため、手すりのそばに踏み台となる家具や箱などを置いてはいけないことはよく知られている。

 小さな子供だけでバルコニーに出ないよう、窓の施錠をしっかりする。手すりの高さにも注意して……転落防止のための注意がいくつも考えられている。

 マンションを開発する設計チームも同様。不動産会社、建設会社の設計者は安全な手すりをつくるため、知恵を絞っている。

 そのなか、発想の新しさに驚く仮説を聞かされた。それは、「子供にとって、よじ登りたくなる手すりと、そんな気持ちになりにくい手すりがあるのでは」というもの。実験や過去事例の分析等によって実証されているわけではないので、あくまでも仮説となるのだが、説明を聞くと、なるほど、そうかもしれないと思えてくる。

 仮説の中身を解説したい。

透明ガラスの手すりは転落事故を防ぐ?

 まず気になるのは、「子供がよじ登りたくなる手すり」だ。

 「よじ登りたくなる手すり」の場合、子供は登る工夫を凝らしてしまう。踏み台となる椅子や箱を探してしまう。だから、「よじ登りたくなる手すり」にしなければ、転落事故を根本的になくすことができるだろう。

 では、「よじ登りたくなる手すり」とはどんなものか。

 それは、「背の低い子供にとって、外の景色が見えない手すり」ではないかと考えられている。具体的には、半透明ガラスの手すりや鉄筋コンクリートの壁になっている手すりだ。

半透明ガラスを用いたバルコニーの手すり例。手すりの上から景色が見ることができない子供は、手すりの上に身を乗り出したくなる。そのとき、大きな鉢や椅子などがあると……。筆者撮影
半透明ガラスを用いたバルコニーの手すり例。手すりの上から景色が見ることができない子供は、手すりの上に身を乗り出したくなる。そのとき、大きな鉢や椅子などがあると……。筆者撮影

 一般的な手すりの高さは120センチ前後。近年は130センチを超える高さの手すりもある。そのくらいの高さならば、大人は手すり越しに景色を眺めることができる。しかし、身長が140センチに満たない子供の場合、半透明ガラスやコンクリート製の手すりによって視界を塞がれてしまう。すると、子供は手すりの上に顔を出し、その先を見たくなってしまうのだ。

 実際、バルコニーに出ると、抱っこをせがむ子供がいる。それは、手すりの先を見たがっているのだ。

 抱っこをしてくれる大人がいればよいのだが、子供が1人のときに外の景色を見たいと思ったら……転落事故の危険が生じる。

 これに対し、転落事故が起きにくいと考えられるのが透明の素通しガラスが入り、小さな子供でも景色がよく見える手すりだ。

素通しのガラスを用いたバルコニーの手すり。眺望を楽しむための手すりで、この場合、リビングのソファに座った状態でも窓越しに眺望を楽しむことができる。筆者撮影
素通しのガラスを用いたバルコニーの手すり。眺望を楽しむための手すりで、この場合、リビングのソファに座った状態でも窓越しに眺望を楽しむことができる。筆者撮影

 素通しのガラスならば、身長が140センチに満たない子供でも景色がよく見えるので、その上に顔を出したいという気持ちが起きにくい。景色がよく見えることで、怖いという気持ちが生まれれば、手すりを乗り越えようとする気持ちも起きないだろう。

 透明のガラスだけでなく、金属柵で構成される手すりも「見通し」がよい。これも、よじ登りや乗り越えを抑止する効果が期待できそうだ。

 一方、「外の景色が見えない手すり」だと、高さへの恐怖心が生じにくいこともあり、よじ登ってしまう……この仮説、たしかに、と頷いてしまう部分がある。

 そのため、バルコニーの手すりはできるだけ透明の素通しガラスにしよう、という動きが生じている。

鉄筋コンクリート製の手すりに、のぞき穴を設ける工夫もある。のぞき穴があれば、小さな子供も外の景色を見やすい。ただし、「穴に足をかけて登ってしまう子供がいる」という指摘も出てくる。筆者撮影
鉄筋コンクリート製の手すりに、のぞき穴を設ける工夫もある。のぞき穴があれば、小さな子供も外の景色を見やすい。ただし、「穴に足をかけて登ってしまう子供がいる」という指摘も出てくる。筆者撮影

マンション中庭は、「見通せない」ほうが喜ばれる

 小さな子供は好奇心旺盛である。だから、「見えない」と逆に見たくなる……この心理は子供が喜ぶ中庭づくりにも応用されている。

 子供が歓声を上げて走り出すのは、先に何があるか分からない中庭だ。学校のグラウンドのように、広く見渡せる場所だと、おもしろがらない。植栽や築山で眺望が遮られ、先に何があるのか分からない……そういう場所でこそ、子供はワクワクする。

 マンションの中庭は、そのような子供の気持ちを考えて設計される。あえて、先が見通せない設計にするのだ。

 バルコニーの場合、この心理が逆に作用し、視界を遮る手すりは子供の好奇心を煽りがち。それは危険ではないかと考えられるようになったわけだ。

 しかしながら、世の中には「小さな子供には外の景色が見えない」というバルコニーの手すりが多いのも事実だ。それには理由がある。

あえて眺望を遮る手すりも

 マンションのバルコニーで、「小さな子供には外の景色が見えない」手すりを設けるのは、外部からの視線を遮るためだ。

 公道に面したマンションの場合、道行く人が建物を見上げると、バルコニー内がよく見えてしまうことがある。

 そのようなとき、住戸のバルコニー、特に低層階のバルコニーには鉄筋コンクリート製や半透明のガラス手すりを設けることが多い。

外からの視線を遮るバルコニーの手すり例。筆者撮影
外からの視線を遮るバルコニーの手すり例。筆者撮影

 つまり、バルコニー内のプライバシーを守るため、あえて「小さな子供には外の景色が見えない」手すりを設置する住戸があるわけだ。

 だったら、「小さな子供には外の景色が見えない」手すりの一部に透明ガラスを設置。のぞき穴のようにすればよい、という意見も出そうだ。

 しかし、半透明ガラスの一部に透明ガラスを組み込むことは技術的にむずかしいし、できたとしても費用が高くなる。さらに、マンション外観に及ぼす影響も無視できない。一部の手すりにツギがあたっているように見えて、見栄えがわるいのだ。

 マンションではあえて「小さな子供には外の景色が見えない」手すりが採用されることがある。その場合、子供の好奇心に注意する必要がある。

 子供は、手すりの向こうを見たがるものと意識し、バルコニーには足がかりになる箱や家具を置かない、そして小さな子供だけでバルコニーに出ないようにする……広く知られる注意を徹底する心構えが必要なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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