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久しぶりにTVを見て感じた「食べず嫌い」とスポーツニュースの変化

大島和人スポーツライター
21日の卓球日本選手権を制した伊藤美誠選手の活躍は大きく報じられた。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

大きく動いたシェア

筆者は先週の木曜日からインフルエンザとなり、外出が一切できなかった。幸か不幸か急ぎの締め切りもなく、時間がとにかく余る。結果的にテレビの視聴時間が普段の数倍に急増していた。

久しぶりに番組をじっくり見て気づいたのは、スポーツ報道の「シェア」がはっきりと動いていることだ。一言で説明すると扱う競技が分散し、多彩になった。

ただ1月は特別な時期で、プロ野球とJリーグがシーズンオフ期間。プロ野球のキャンプもまだ自主トレの段階で、全体練習に入っていない。加えて今年は冬季オリンピックの平昌大会が2月9日に開幕するため、ウィンタースポーツの扱いは必然的に例年より多くなる。

一方でそんな時期も「とりあえず野球」を貫き通していたのが日本のスポーツ報道だった。今年も清宮幸太郎の日本ハム入り、大谷翔平の渡米といったトピックがある。だから彼らの一挙手一投足をしつこく追うという報道があるのかな?と思っていた。しかし、そうはなっていなかった。

先週末のニュースショーやワイドショーで繰り返し報じられていたのが横綱・稀勢の里の負傷と去就だった。その直前には貴ノ岩への暴行事件、貴乃花親方の「反乱」が手厚く扱われていて、21日の夜には大砂嵐の無免許運転問題が浮上してきた。いずれも芳しくない話なのだが、スポーツビジネスは得てして「バッドニュースが肥やしになる」業界でもある。ニュースは視聴者の心のネガティブサイドを「憤り」「嘆き」といった形に上手く導き、発散させてあげる娯楽。そう考えると相撲には「昼下がりのスタジオ番組」との親和性がある。

今週末の主役は卓球

日曜の晩にはNHK『サンデースポーツ』、フジテレビ系『スポーツLIFE HERO'S』といったスポーツニュース番組を視聴したが、こちらの主役は卓球。21日に決勝が行われた日本選手権がトップ項目になっていた。

日本の卓球界は若手が急激に台頭し、世界の「一強」である中国を追い上げている。今大会は石川佳純、水谷隼という有力選手が敗れ、女子は伊藤美誠(17歳)、男子は張本智和(14歳)という年少の王者が登場した。「みうみま」と張本は既に国民的な知名度があり、視聴率という数字も持っている人気者。サンデースポーツではインタビューも含めて尺(放送時間)の3分の1を二人に割いていた。

NHKは卓球に続いて大相撲初場所、女子ジャンプW杯、男子モーグルW杯、Bリーグ、全国男子駅伝の一報を伝えていた。またカーリング男子・両角友佑と藤川球児(阪神タイガース)の特集企画があった。

フジも女子フィギュアスケートの坂本花織、女子ジャンプの伊藤有希、メジャーリーグベースボール、女子マラソンに尺を長く割いていた。

変わるスポーツ報道のカルチャー

以前はテレビのスポーツニュースに対して「シーズンオフの種目を無理やり取り上げるより、シーズン中の種目をやればいいのに」というフラストレーションを感じることが多かった。

1990年代まではプロ野球、特に読売ジャイアンツがスポーツエンターテイメントの「一強」として君臨していた。日本テレビはもちろんTBS、フジといったキー局はプロ野球に資本参加しており、それを扱うインセンティブも強かった。プロ野球は365日のうち200日以上で「ネタ」を提供してくれる供給力の高いエンターテイメント。製作者目線で見ても「扱い慣れた素材」「作り慣れたレシピ」となる。しかも高いニーズがあるとなれば、そこに依存するのは当然だろう。

しかし今は我々がWebを通してスポーツに限らず幅広い目配りができる時代。「供給側の作りやすさ」を押し通せる時代ではなくなったし、娯楽はどうやら「狭く深く」という方向に進んでいく。テレビはマスメディアとしての普遍性は維持しつつ、素材の選択を広げ、丹念に掘り下げることが求められる。

テレビ局といってもスポーツ報道が使えるカメラの台数、クルーの人数には制約がある。経営体力の低下によりアメリカに人とカメラを出して大谷やダルビッシュ有に密着する、ヨーロッパでサッカー男子日本代表の「海外組」を追うための予算は獲れないという事情があるのかもしれない。ただ各テレビ局は限られたリソースを生かして、それなりに上手く「料理」をしている。それが一視聴者として自分の持った感想だった。

ルールを分からない人間がその競技の醍醐味を伝えることはできないし、予備知識のない取材者がいいコメントを引き出すことはできない。「普通の報道」という段階に至るまでの努力、工夫があったのだろう。

もう一つ強く感じたことは女性アスリートの扱いが大きくなっていること。スポーツはどちらかといえば男文化で、「大きく強いものが勝つ」というマッチョな世界だった。しかし卓球やフィギュアスケート、ジャンプといった競技は繊細で、また違う味わいがある。箱根駅伝もそうだが、昭和とは違うスポーツの世界観が「受ける」時代になっているように思う。

スポーツの醍醐味は選手が戦いの場で何を考え、どう実行したかというプロセス。イベントへの参加、練習といった「本番以外」から見える意外な顔もあるが、野球やサッカーの試合がないなら別の「旬」を切り取ればいいのに……。それは自分が強く長く感じていたスポーツ報道に対する苛立ちだった。結果として自分はもうこの10年くらい、スポーツニュースをロクに見ていなかった。しかし今こうして見ると自分は「食わず嫌い」になって、美味を食べ損なっていたのかもしれない。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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