【インタビュー後編】ジ・オーシャン:プログレッシヴ〜ポスト・メタルの新しい地平線へと向かう意志
2018年11月にニュー・アルバム『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』を発表したドイツのプログレッシヴ〜ポスト・メタル最重要バンド、ジ・オーシャンのロビン・スタップスへのインタビュー後編。
前編に続いて、その世界観をさらに掘り下げるのと同時に、その原点、そして向かっていく未来について語ってもらおう。
<クルーやデザイナー、SNS担当...すべてがひとつになったアート集団がジ・オーシャンだ>
●アルバムのレコーディングはいつ、どこで行ったのですか?
今年(2018年)2月、アイスランドにあるシガー・ロス所有のスントロイジン・スタジオでドラム・トラックを録ったんだ。当初考えていたスタジオが押さえられなくて、ワン・ウェン(Wang Wen)でやっている友人のシー・ユガン(Xie Yugang)がスントロイジンのことを教えてくれた。彼らが新作『Invisible City』をレコーディングして、すごく良かったってね。実際やってみて、素晴らしい音を捉えることが出来て、正しい選択をしたと思う。大自然に囲まれて、凍った滝がスタジオの裏にあったりして、別世界のような環境だった。レコーディング中、3日間吹雪で外に出られなかったり、大変なこともあったけどね(苦笑)。バンドの本拠地のベルリンではレコーディングしたくなかった。日常から離れたかったんだ。その結果、6日でほとんどのトラックをレコーディングしてしまった。さらにスントロイジンで『第一部』だけでなく、『第二部・第三部』のドラム・トラックも録ってしまった。とても生産的なセッションだったよ。その後、ベルリンの自宅でギターとベースを録って、ヴォーカルは4月、スペインの海岸にあるオーシャンランド・スタジオで録った。ここは子供の頃からバカンスを過ごしてきた場所なんだ。今回、ロイク(ロセッティ)のヴォーカルには時間をかけた。だいたい5〜6週間かけたよ。最初にラフなガイド・ヴォーカルを俺が入れて、それにロイクが独自の解釈を加えて歌ったんだ。それが俺の書いた歌メロとはかなり異なっていて、しかも最高の出来だった。彼は素晴らしいシンガーだというだけでなく、クリエイティヴでもあるんだ。
●ロイクはどこ出身なのですか?母国語は?
ロイクはスイス出身で、父方のロセッティ家はイタリア系だけど、母国語はフランス語なんだ。俺が話すドイツ語もスイスの公用語のひとつだけど、ロイクは話せない。だからいつも英語で話しているよ。コミュニケーションというのは難しいね(苦笑)。それでもマシな方だよ。2009年に彼がバンドに加入したとき、英語もほとんど話せなかったんだ。前のバンドで英語で歌っていたのに、会話は出来なかったんだよ!
●あなたは数年前からバンドをThe Ocean Collective(集合体)と呼んできましたが、アルバムのジャケットにはずっとThe Oceanと記載してきて、The Ocean Collective名義で記載するのはこれが初めてです。どんな変化があったのでしょうか?
ジ・オーシャンはただロック・バンドというだけでなく、アート集団なんだ。クルーやグラフィック・デザイナー、SNS担当、すべてがひとつになったのがジ・オーシャンだ。これまではアルバムは音楽の部分を表現するものと捉えてきたけど、実際にはすべての要素を総括するものだし、Collectiveとして発表するのが適切だと考えた。例えばニューロシスも、ライティング担当をメンバーとしているよね。彼らのライヴを初めて見たのは『タイムズ・オブ・グレイス』(1999)に伴うツアーだったけど、ステージ後ろのスクリーンに映像を映して、幻想的な効果を出していた。部分的には彼らからの影響もあると思う。
●ニューロシスはスクリーン映写を止めてしまいましたね。
うん、でも彼らは音楽だけでも十分凄いからね!
●現在のジ・オーシャンの音楽面のメンバーはあなたとロイク、そしてポール・ザイデル(ドラムス)、マティアス・ハガーストランド(ベース)、ピーター・ヴォイクトマン(シンセサイザー)ということになりますか?
その通りだ。実はピーターはもう“コレクティヴ”の一員になって4年になる。楽器ではなく、照明を担当していたんだ。『顕生代〜』からバンドの一員となるよ。
●アルバムのアートワークを手がけたノルウェーのアーティスト、マルティン・クヴァンメも“コレクティヴ”の一員でしょうか?アートワークのコンセプトについて教えて下さい。
マルティンはジ・オーシャンだけでなく、いろんなアーティストのアートワークを手がけているんだ。ファントマズとか、a-haとかね。でも彼は我々と同じ価値観を持ったアーティストであり、“コレクティヴ”の一員だと考えているよ。彼は『Precambrian』のアートワークも担当しているし、今回も起用するのが自然な行為だった。『顕生代〜』のアートワークは、『Precambrian』との関係が明らかなんだ。泡のような穴を通して、過去が見える...というものだ。『Precambrian』では溶岩が見えた。『顕生代〜第一部:古生代』では灰色のバックに、穴の向こうに緑が見えるというデザインになっている。顕生代は植物・樹木が急成長を遂げた時代だからね。すごく凝ったものになっている。『第二部・第三部』も穴のある変形ジャケットになるよ。どんなものになるか、期待して欲しいね。
●海外盤レコード/CDのアートワークがもの凄い凝りようですね。
うん、レコード/CDのパッケージはいつも3次元の作品として考えているんだ。俺たちにとってアルバムは単なるデータではなく、手に取ることが出来る“物”だよ。だからジ・オーシャンのアルバム・ジャケットは製造が大変で、印刷所から「こんなの出来ません」って言われるんだよ。まあ、毎回どうにか説得して作ってもらっているけどね。前作『Pelagial』の10インチアナログ盤ボックス・セットを製造したときは何色も異なったアクリル板を中国から取り寄せて、我々自身が倉庫で組み立てた。大変な作業だったけど、楽しかったよ。
●「デボン紀/新たなる創生」にカタトニアのヨナス・レンクスがゲスト参加していますが、彼との付き合いは長いのですか?
彼らの『グレイト・コールド・ディスタンス』(2006)が好きなんだ。『Precambrian』と同じ時期に出たアルバムで、その頃からヨナスとは友達で、音を送り合ったりしていた。マイケル・オーカーフェルトに紹介してくれたのもヨナスだよ。それで2008年にジ・オーシャンがオーペスのツアー・サポートをやることになったんだ。それから数年連絡が途絶えたこともあったけど去年(2017年)、ルーマニアで一緒にショーをやって、共演する話が具体化した。「デボン紀/新たなる創生」のラフ・トラックを送って、ヴォーカルを入れてもらったけど、既にその時点で95%完成していたよ。彼はアルバムに大きな貢献をしてくれたし、とてもハッピーだ。
●ミックスを手がけているイェンス・ボグレンはメタル系の作品で引っ張りだこのプロデューサー/エンジニアですが、彼と作業することにしたのは、どんなアーティストの作品を聴いてですか?
どのアーティストというより、イェンスの多様性が好きなんだ。彼はエクストリームなメタルからオーペス、ウィッチクラフトのようなバンドまでを手がけている。モダンなメタルのサウンドを得意とするだけでなく、チャレンジする精神を持っているんだ。『Pelagial』でもミックスをやってもらったから、その才能は判っていた。彼は俺たちをミキシング・ルームから追い出して、1人で作業をするんだ。そして再び扉が開くと、最高のミックスが出来上がっているわけだ。そんな彼のやり方を尊重したよ。1人で集中して作業をしたい気持ちは、俺にも判るからね。ヨナスは素晴らしい耳をしている。今回、レコーディングが完成するまで彼にはまったく何も聴かせなかったんだ。先入観がなく、新鮮な耳でアルバムに初めて触れるようにして欲しかった。結果として、最高にビッグなサウンドになった。あまりに完璧なんで、いったんアナログ・テープに落として、少しラフなサウンドにしてからリリースしようかと考えたほどだ。最終的にデジタル・マスターをそのまま使ったけどね。
<音楽は言葉で定義できないのが面白い>
●ドイツはプログレッシヴ・ロックの先進国といわれますが、プログレッシヴのバンドで影響あるいはインスピレーションを受けたものはありますか?
実はプログレッシヴ・ロックを昔から聴いていたわけではないんだ。むしろ最近、聴くようになった。カンが好きになったのは2年ぐらい前だよ。ドイツのプログレッシヴ・ロックには世界的に知られているバンドが幾つもあるし、これから掘り下げようと考えている。少年時代からずっとヘヴィ・ロックやハードコアを聴いてきたし、プログレッシヴ・ロックは自分よりひと世代前の音楽という認識だったんだ。
●どんな音楽を聴いて育ったのですか?
俺は1979年生まれだけど、最初にギター・ミュージックに接したのは12歳か13歳の頃、ガンズ&ローゼズだった。それから1990年代初めにノイズ・ロックを聴くようになったんだ。アンセイン、ヘルメットとかね。その後、ハードコアも好きになった。シック・オブ・イット・オールのライヴも見に行ったし、アンブロークンやグラウンドワーク、さっき(前編)も話したブリーチ...その頃、自分でもギターを弾くようになって、すぐにオリジナルの曲を書くようになったんだ。
●共感をおぼえる同世代のアーティストはいますか?
うーん、難しい質問だな。一緒にツアーするバンドすらなかなか見つからないのに(苦笑)。バンド内のメンバーだってそれぞれが異なった音楽を聴いているんだ。ただ俺たちの周りに、エキサイティングなバンドはたくさんいる。俺がやっている『ペラジック・レコーズ』にも良いバンドがいるよ。デンマーク出身のLLNN、ベルギー出身のブリックヴィル(Briqueville)、オーストラリア出身のイルヴァ(Ylva)、ニュージーランド出身のスプーク・ザ・ホーセズ、それからもちろん日本のMono...いや、自分のレーベルの宣伝をしたいわけじゃないよ。むしろ俺が好きなバンドだから自分のレーベルから出すんだ。ジ・オーシャンのツアーでは11月からロゼッタ(Rosetta)とアラブロット(Arabrot)とヨーロッパを回るんだ。彼らもお気に入りのバンドだよ。あと単に“好きなバンド”というのだったらマストドンやバロネス、それに今でもニューロシスの大ファンだ。ヘヴィなバンドではなくてもエレクトロニック・ミュージックも聴くし、最近のお気に入りはウォーヴンハンド(Wovenhand)だよ。あのバンドはどうやって形容すればいいのかな...ヘヴィ・カントリー?音楽は、言葉で定義できないのが面白いんだ。ジ・オーシャンの音楽も定義しづらいと思うよ。
●あなたが運営している『ペラジック・レコーズ』のコンセプトについて教えて下さい。
『ペラジック』 は2009年、ジ・オーシャンの作品を出すために作られたんだ。既存のレコード会社に介入されず、自由な表現をするためだった。そもそもは『Fluxion』(2004)を再発したかったんだよ。オリジナル盤を出した『メタル・ブレイド』レーベルに相談したらあまり興味がなさそうだったんで、だったら自分たちで再発しようと考えたんだ。最初はディストリビューション業者が倒産したり、いくつか問題はあったけど、なんとか軌道に乗って、今に至る感じだ。ゴッド・イズ・アン・アストロノートの作品も出したよ。今ではドラマーのポールを含め、専従スタッフが4人いる。2019年1月に出るMonoの『Nowhere Now Here』は『ペラジック』の125作目のリリースとなるんだ。レーベルの規模は拡大しているけど、アンダーグラウンドならではの妥協のない姿勢は維持したいね。Monoとは一緒にヨーロッパ・ツアーをやったし、スプリットEPも出した。日本の音楽リスナーは、Monoを通じて俺たちのことを知った人がいるんじゃないかな。彼らと俺たちは音楽性が異なるけど、新しい地平線へと向かっていく意志は共通していると思う。
●今後の予定を教えて下さい。
11月、ヨーロッパからツアーを始めて、2019年は世界をサーキットしたいね。アメリカ、南米、もちろん日本もだ。『Pelagial』ツアーでは300回ぐらいショーをやったんだ。『顕生代〜』では同じぐらいの回数、ライヴをやるつもりだよ。アルバムは『第一部』と『第二部・第三部』の間に少しばかり時間を入れたいんだ。あまり一気に聴いてしまうのではなく、じっくり『第一部』を味わいきってから続きを聴いて欲しいからね。だから『第二部・第三部』は2020年のリリースになると思う。バンドにとって、今はすごくエキサイティングな時期だよ。この瞬間を楽しんでいるし、スリルを感じているんだ。
【アルバム情報】
タイトル:顕生代~破壊と創生 第一部:古生代 / Phanerozoic I:Palaeozoic
アーティスト:ジ・オーシャン / THE OCEAN
レーベル:P-VINE
品番:PCD-25272
発売日:2018年11月14日(水)
日本レーベル公式サイト http://p-vine.jp/news/20181025-101400