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【猫の殺処分を減らしたい】夏場に拾われた子猫の驚きの変化とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

意外と知られていないのですが、猫殺処分数は、幼齢猫が成猫より多いのです。環境省は、2020年度に全国の保健所で殺処分された猫が1万9705匹、その内訳は、幼齢猫※が1万3030匹で、猫の殺処分数全体の約66%と発表しています。

したがって、幼齢猫をしっかり育てて成猫にすることが課題になっています。

※幼齢猫とは、離乳食が終わっていない子猫です。

野良猫を少しでも減らしたいという思いは、年々高まっています。今日、ご紹介する野良の子猫は猫好きの人に保護され、感動的な変化を起こした話です。夏場に子猫を保護したときは、どうすればいいのかもお話します。

野良の子猫を診てもらえますか?

野良の子猫が当院にやってきたのは、雨が降って晴れた翌日の暑い日のことでした。野良の子猫は、大きな捕獲器に入っていて、筆者が近づくとファーと威嚇していました。保護主は「捕獲するとき、この子、暴れたんですよ。よく顔を見ると、目ヤニがひどいので、診てほしい」といって来院しました。

子猫が目ヤニや鼻水が出てグチャグチャの顔をしている症例は臨床現場でよく目にします。治療は、いろいろとあります。外の子は栄養状態が悪い子が多いので、その点も合わせて診察します。

しかし、困ったことがありました。この子猫、触らせてくれるのか?ということです。子猫の体重を測定して、それに合わせた注射をする必要があるからです。触ることの難しい子猫は、治療が難しくなります。

診察を嫌がる猫に有効なある技とは?

撮影は筆者 保護された子猫
撮影は筆者 保護された子猫

私たちが取った行動は、瞳孔が開いて興奮気味の子猫のために、まず部屋を暗くします。そして、捕獲器の出口のところに、大きめの洗濯ネットを覆い被せてゆっくり捕獲機を立てて、子猫を洗濯ネットに誘導します。子猫が洗濯ネットに入ったことを確認して、捕獲器をすみやかに取って洗濯ネットのファスナーを閉じました。

それまで、ファーファーと威嚇していた子猫が、洗濯ネットに入った途端、あまり怒らなくなりました。子猫は洗濯ネットに包まれているので、隠れていると思っているのでしょう。

一般的に猫は、洗濯ネットに入れるとおとなしくなる子が多いです。そのまま体重を測定し約600gでした。以下の治療をしました。

ノミの駆除

撮影は筆者 猫用ノミ、マダニ、消化管寄生虫の駆除薬
撮影は筆者 猫用ノミ、マダニ、消化管寄生虫の駆除薬

野良の子猫は、外にいたので、ノミがたくさんいました。

健康状態もそれほど悪くないので、ノミ、マダニ、消化管内の寄生虫の駆除薬を首の辺りに垂らしました。

保護主さんが、自宅で世話をしてくれるので、夏場はノミ、マダニの駆除は必須です。家でノミ、マダニがわかないようにする必要があります。

猫かぜの治療

写真のように、目ヤニが出て目の粘膜が腫れているので、その補液などの対症療法をしました。

高栄養

外の子なので、栄養状態が悪い子が多く高栄養の総合栄養食の缶詰めを出しました。

野良の子猫に驚きの展開が

撮影は筆者 猫のFIVとFeLVの検査キット
撮影は筆者 猫のFIVとFeLVの検査キット

子猫は、翌日は、捕獲器ではなくキャリーバックに入ってやってきました。まだ人間不信かもしれないと、ケャリーバックを覗き込むと、子猫は、まだ目の結膜は腫れていましたが、「私、大切にされています」といいたげ、もう飼い猫のようにおっとりしていました。

筆者が子猫の首の後ろを持って治療をしていると、喉をゴロゴロと鳴らして上機嫌でした。外を駆け巡っていた子猫が、こんなに短時間で人に懐くのかとびっくりしました。

これなら、血液検査ができると思い、頸静脈から採血してFIV(いわゆる猫エイズ)とFeLV(猫白血病ウイルス感染症)の検査をしました。

子猫は、どちらのウイルスにも感染していませんでした。保護主さんは、他にも猫を飼っているので、この子猫は、目が健康になれば譲渡会に出すそうです。

保護主さんは「近所にこんな暑い日に、猫かぜをひいている子猫の姿を見て、気になって仕方がなかったのです。捕まえようとしたら、逃げるしね。人が入れない路地に隠れるんですよ。それで、保護猫活動をしている人に連絡して、捕獲器を借りて捕まえるのを手伝ってもらって、ほっとしています」と言いました。

子猫は、そんな保護主さんの気持ちが理解できたのか、筆者が注射しても威嚇することもなく我慢してくれていました。

夏場に子猫を拾ったときの注意点

夏場に子猫を保護したら、ノミがついている子が多いので、必ず子猫の様子をみながら、ノミやマダニの駆除をしてもらいましょう(弱っている子に、駆虫薬を使うと弱ることがありますので、注意が必要です)。

そのうえ、暑いので脱水などを起こしている子が多いので栄養状態が大丈夫かしっかりチェックしましょう。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

猛暑のなか、懸命に生きている子猫がいます。

この子猫は、ノミだらけで母猫からちゃんと母乳をもらえていなかったし、十分なキャットフードも食べられず、人間の姿を見ると逃げまわっていました。

猫の殺処分を少しでも減らしたいと、このような活動をしている人もいます。猫は、繁殖能力の強い動物なので早い子は生後4カ月で発情して交配し生後半年には、出産する子もいるのです。そんな猫の特徴を知って、望まない命を生み出さないように、不妊去勢手術をしましょう。

人間が生み出したこの野良の子猫は、心ある人によって、保護されました。これは、幸運なケースで、人知れず猛暑のなか、命を落とす子もいることを忘れてはいけないのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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