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貴重なレトロゲームの資料を守れ!「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」の取組み【ゲームアーカイブ】

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
バンダイナムコ研究所の兵藤岳史氏(往年の名作「パックマン」をバックに筆者撮影)

日本でも産学官を挙げての本格的な取り組みが始まった、ゲーム(デジタルゲーム)、および関連資料の収集・整理・保存・活用を目的としたアーカイブ活動。今回は「産」、すなわちゲームを開発・販売するメーカー側の活動状況をお伝えする。

お話を伺ったのは、バンダイナムコ研究所の兵藤岳史氏。同氏は拙稿、「日本が世界に誇るゲームを後世に 国もバックアップを始めた保存活動【ゲームアーカイブ】」でもご紹介した、旧ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)製のゲーム開発・関連資料の整理や保存を目的とした、「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」を2015年から手掛けている。

さらに本プロジェクトは、その内容や成果を社外秘とせず、今年2月にSKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザで開催された、「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」などの発表の場を利用して、積極的に公開していることも特筆に値する。

「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」会場にて発表を行う、バンダイナムコ研究所の兵藤岳史氏(中央)(筆者撮影)
「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」会場にて発表を行う、バンダイナムコ研究所の兵藤岳史氏(中央)(筆者撮影)
「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」会場には、1983年に発売された往年の名作「ゼビウス」の貴重な開発資料も展示されていた(筆者撮影)
「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」会場には、1983年に発売された往年の名作「ゼビウス」の貴重な開発資料も展示されていた(筆者撮影)

散逸、廃棄のおそれがあった膨大な開発資料の整理、保存に成功

兵藤氏によると、「プロジェクトを始めた当初は、多くの資料が段ボールに詰められたまま劣悪な状況で倉庫に置かれ、廃棄される寸前でした」という。さらに会社の急激な組織拡大や、引っ越しなどの過程で行方不明になった資料もあったそうだ。

そこで、兵藤氏は当時の上司を説得し、350万円の予算を組んでプロジェクトを始めた結果、現在では段ボール約300箱分にも及ぶ膨大な資料を整理し、ラベリングとエクセルデータ化を実現した。また、これらの資料は空調が入った部屋で保管する環境も整備され、「参考資料として必要となった際には、ナンバーを指定することで任意の資料を取り寄せることができるようになりました」(兵藤氏)とのことだ。

「ゲームの開発には、ものすごく手間が掛かります。過去の資料を保存することが会社の利益につながるのか、という話は常について回るのですが、その開発プロセスも研究することによって、また新たな価値が生み出せるのではないかと思っています。古い資料であっても、何かのヒントになることが必ずあると思いますので、若い開発者たちにもぜひ見てもらいたいですね」(兵藤氏)

整理、ナンバリング化された資料が保存された段ボール(筆者撮影)
整理、ナンバリング化された資料が保存された段ボール(筆者撮影)
アーカイブ化された資料の一部。ファイルには、「エアーコンバット」「ワギャン3(ワギャンランド3)」など、レトロゲームファンには懐かしい名前が見られる(筆者撮影)
アーカイブ化された資料の一部。ファイルには、「エアーコンバット」「ワギャン3(ワギャンランド3)」など、レトロゲームファンには懐かしい名前が見られる(筆者撮影)

会社の垣根を越え、業界全体としての取り組みへ

およそ4年の時間を費やし、膨大な開発資料の保存体制を作り上げた「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」。では、今後はどのような目標を設定したうえで活動を続けていくのだろうか?

兵藤氏によると、今年の8月に京都の立命館大学で開催される、DiGRA2019(※)などのゲームに関連した学会の会期に合わせて、企画書などの展示企画を実施する予定だという。

※筆者注:DiGRA(ゲーム研究に関する非営利の国際学会)主催の国際会議のこと

また、今期も引き続き資料の整理を重点的に実施するとともに、「他国のゲーム所蔵館はどのような状況になっているのかを調査したいですね。ナムコのIP、特に80年代のゲームは海外でも人気がありますので、海外での展示ですとか、出版などにも協力ができないかとも考えています」(兵藤氏)とのこと。国内のみならず、海外での活用も視野に入れているのだ。

さらに、兵藤氏は今年の1月から、他社にも開発資料のアーカイブを進めてはどうかという呼び掛けも始めている。

「セガゲームス、タイトー、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、カプコンの4社を訪問しまして、『我々はこうやっていますが、御社の状況はどうですか?』などとお話をさせていただきました。特に、セガゲームスさんとタイトーさんにはご賛同をいただけましたので、9月に開催されるCEDEC2019(※)で、3社合同による資料やゲームなどの展示企画を実施する予定です」(兵藤氏)

※筆者注:CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が主催する、ゲーム開発者向けのカンファレンスのこと

大手メーカー3社による、合同展示企画がもし実現すれば、ゲーム産業史上に残る画期的な出来事となることだろう。

「古いゲーム開発資料のアーカイブ活動は、文化的にも産業的にも価値があると私は確信しています。これまでは、外に出てこないままどこかに散逸してしまう状況が続いていましたので、イベントなどの形でオープン化したりするムーブメントを作っていきたいなと思っています。自分たち1社だけではなくて、業界全体でできるようになるといいですよね」(兵藤氏)

バンダイナムコ研究所1社だけにとどまらない、メーカーの垣根を越えたアーカイブ活動がいよいよ始まった。これを機に、すべてのメーカーがアーカイブ活動に賛同し、やがて日本が世界に誇る、貴重なゲーム関連資料を恒久的に保存、活用できる仕組みが出来上がることを願ってやまない。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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