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日本が世界に誇るゲームを後世に 国もバックアップを始めた保存活動【ゲームアーカイブ】

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
ゲームアーカイブの討論も行われた「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」(筆者撮影)

昨年から相次いで開催され始めたゲームアーカイブ活動

日本でこれまでに発売された、歴代の家庭用やPC、アーケードなどのゲーム(デジタルゲーム)、および関連資料の収集・整理・保存・活用を目的としたアーカイブ活動が、産学官の各方面において最近活発に行われるようになっている。

昨年11月23日には、バンダイナムコスタジオの「ナムコゲーム開発資料アーカイブプロジェクト」による、「『パックマン』『マッピー』とナムコ・アーカイビング小展~ゲーム研究の基盤整備のために」と題した、古いゲーム開発資料の展示と講演が、明治大学アカデミックフェスの一環として行われた。

今年の1月6日には、国内外からゲームアーカイブに関する豊富な研究実績を持つ有識者が集まった、「国際デジタルゲーム保存会議2019」が立命館大学で開催された。本会議は、「平成30年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」の一環として、立命館大学ゲーム研究センターと文化庁が主催したものである。

さらに1月9日には、「ゲームアーカイブ推進連絡協議会(仮)準備会合/セミナー」が、同じく立命館大学ゲーム研究センターと文化庁の主催によって開かれた。また、2月23日には埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザにおいて、「遊ぶ!ゲーム展ステージ3:デジタルゲーム ミレニアム」(※こちらは埼玉県が主催)の関連イベントとして、ゲームアーカイブをテーマにした「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」も開催された。

デジタルライブラリやアーカイブ、メタデータを研究する、筑波大学の杉本重雄教授による講演より(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
デジタルライブラリやアーカイブ、メタデータを研究する、筑波大学の杉本重雄教授による講演より(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
同じく、杉本氏の講演より。なお講演の原題は「Game Digital Archives from the viewpoints of Digital Preservation and Metadata」である(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
同じく、杉本氏の講演より。なお講演の原題は「Game Digital Archives from the viewpoints of Digital Preservation and Metadata」である(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
独・ライプツィヒ大学のマーティン・ロート教授による、「データ中心のゲーム研究インフラストラクチャー」の講演より(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
独・ライプツィヒ大学のマーティン・ロート教授による、「データ中心のゲーム研究インフラストラクチャー」の講演より(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
同じく、ロート氏の講演より。研究を始めた動機は、なんと「日本のゲームがやりたいから」とのことだった(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)
同じく、ロート氏の講演より。研究を始めた動機は、なんと「日本のゲームがやりたいから」とのことだった(「国際デジタルゲーム保存会議2019」にて筆者撮影)

なぜ、これらのゲームアーカイブ活動が相次いで行われるようになったのだろうか? しかも文化庁、すなわち国も立て続けに主催するようになったのは、いったいなぜなのか?

文化庁の担当者に伺ったところ、「今回主催したのは、ゲーム分野でこれまで積み上げてきた国際的な関係構築のマイルストーンとして行う会議で、各組織と協調して目録の形式標準化、目録で用いられる統制語彙の統制、そしてウェブサイトやグループウェアの構築など、継続的体制づくりを進めることで、海外ゲーム所蔵組織との連携を実現させていく取り組みのひとつであるためです」とのことだった。

では、そもそも産学に官(国)も加わってまでゲームアーカイブ活動を行う必要があるのだろうか? その答えは、「大いにあり」だと筆者は断言したい。なぜなら、このままでは多くのゲームと、それにまつわる文化がやがて世の中から失われ、二度と利用できなくなってしまうという危機的な状況にあるからだ。

問題は山積み状態、海外に比べても大きく出遅れているのが現状

言うまでもなく、デジタルゲームは機械である以上、経年劣化の問題を避けて通ることができない。よって、ゲームを恒久的に保存するためには、ただ現物を収集するだけでなく、膨大な量の文化資源を保存できる場所の確保や定期的なメンテナンスの実施、あるいはエミュレーション(※異なる環境のコンピューター上で動くようにすること)などの対策が必要となる。

また、携帯電話やスマホ、PC、アーケード用のネットワーク対応型ゲームの場合は、たとえ正常に動作するデバイスがあったとしても、配信元のメーカーや通信事業者がサービスを終了してしまうと、以後同じ環境下で遊べる機会は永遠に失われてしまう。アーカイブを進めるうえでは非常に厄介な問題だが、今のところは具体的な解決策がないのが現状だ。

当のゲームメーカー側も、収益に直接つながらないこともあって、アーカイブ活動への関心は必ずしも高いとは言えない。事実、「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」を手掛ける、バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏によると、「2015年にプロジェクトを始めた当時は、段ボールに詰められたまま倉庫に眠っていて、廃棄される寸前だった」資料もあったという。『パックマン』をはじめ、今なお世界的に有名な旧ナムコ製ゲームの開発資料が、かくも杜撰な状態で放置されていたという事実は、これらのゲームのファンにとってはそれこそ泣きたくなるような話だろう(※その後、これらの資料は整理されて保存できる目処が立ったそうだ)。

筆者のようなメディア側の人間にとっても、過去作の現物や資料が残されていないと何かと困ってしまう。実際、メーカーに資料の請求や、記事の記載内容のチェックをお願いした際に、「古いゲームの資料は手元にない」「資料がないからチェックできない」などと言われたり、開発元(ディベロッパー)が倒産して資料の保管場所や権利保持者が不明となったため、事実の確認ができないケースが過去に何度もあったからだ。

アーカイブを進めるうえでの問題点がこれだけ存在する以上、もはや国のサポートは必要不可欠であると言えるだろう。

「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」を手掛ける、バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏(中央)の発表(「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」会場にて筆者撮影)
「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」を手掛ける、バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏(中央)の発表(「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」会場にて筆者撮影)

現在、日本の教育・研究機関において、最もゲームアーカイブの実績を上げているのが、1998年から活動を開始した立命館大学のゲームアーカイブプロジェクトである。前述の「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」に登壇した、同大学教授の中村彰憲氏によると、同プロジェクトでは現在、家庭用ゲームソフトを9,200本、家庭用ハードと関連機器を200点、書籍・雑誌などの関連資料を4,200点所蔵しており、並行して目録作業も実施しているとのこと。ものすごい所蔵点数だが、それでも歴代の全ゲームソフト・ハードがそろっているわけではない。

また、国立国会図書館でも書籍・雑誌と同様に納本制度によるゲームソフトの収集を行っているが、筆者が問い合わせたところ、現時点での所蔵タイトル数は5,416本とのことだった。収集を始めたのは2000年からということもあり、国内最大規模の図書館といえども、まだ歴代の全タイトルを所蔵するには至っていないのだ。

ゲームアーカイブプロジェクトにおける活動状況を説明する、立命館大学の中村彰憲氏(左から3人目)(「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」会場にて筆者撮影)
ゲームアーカイブプロジェクトにおける活動状況を説明する、立命館大学の中村彰憲氏(左から3人目)(「あそぶ!ゲーム展シンポジウム」会場にて筆者撮影)

一方、海外ではゲームを常設する博物館や関連施設が、すでにいくつも存在する。アメリカのストロング遊戯博物館、スタンフォード大学図書館をはじめ、イギリスのナショナルビデオゲームミュージアムや、ドイツのライプツィヒ大学などがその代表例で、国内外から膨大なゲームと関係資料の収集・保存だけでなく、来場者への閲覧や催事イベントなどの利活用を行っている所もある。ゲーム大国と言われるようになって久しい日本だが、ことゲームアーカイブ活動に関しては、これらの施設を持つ国に比べて大きく遅れを取っている。

このままでは失われてしまう、日本が世界に誇るゲームの文化資源を後世に残すためには、誰が、どこで、どのようにしてアーカイブをするのか? その体制作りが、遅まきながらもいよいよ本格的にスタートした。実は筆者も、以前からゲームアーカイブ活動にはオーラル・ヒストリー(口述歴史)の収集を中心にして、微力ながらも参加させていただいている。今後も自身の実体験も交えた取材を通じて、各方面でのゲームアーカイブ活動の現況や課題などを、この場をお借りしてお伝えしていきたい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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