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永野芽郁、安藤サクラ、2018年朝ドラヒロインの潮流。19年、広瀬すず、戸田恵梨香はどうなる。

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
安藤サクラは「まんぷく」のヒロイン役で演技の幅が広がったと感じる(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2017年の朝ドラヒロインは「脱・元気」、18年は……

毎日朝ドラレビューを書いて、来る2019年には丸4年となる私は、17年の暮れ、その年に放送された朝ドラ『べっぴんさん』(16年10月〜17年3月)、『ひよっこ』(4月〜9月)、『わろてんか』(10月〜18年3月)の傾向を鑑みて「脱・元気」という記事を書いた。

『べっぴんさん』は自分の考えをはっきりしゃべれない内向的な主人公・すみれ(芳根京子)、『ひよっこ』の主人公・みね子(有村架純)は自分のことより周囲に気を使う性分で、『わろてんか』のてん(葵わかな)夫亡き後も夫の夢である寄席を守っていく主人公だった。『べっぴんさん』は口数が少ないだけで主人公が自分で会社を興していくが、『ひよっこ』と『わろてんか』は自分がこれをしたい! と突き進むタイプではなかった。みね子はやや毒づくことももあったが、てんは最後まで上品に微笑み続けていた。

これまで、朝ドラというと「明るく・元気に・さわやかに」が三原則とされてきた。

それが「脱・元気」に変化してきているのは、そんなに頑張りすぎなくていいよ、というメッセージではないか。ということでこのまま、18年も脱・元気の流れが続くかと思いきやーー違っていた。

一転して、18年のヒロインは騒がしかったのだ。

賛否両論のヒロインたち

バブルから現代までを描いた北川悦吏子のオリジナル脚本による『半分、青い。』(4月〜9月)の主人公・鈴愛(永野芽郁)は左耳にハンディキャップがあるが、決して内向することはない。あまた降りかかる世の理不尽に不屈の闘志で立ち向かっていく。夢を捨てられない夫から離婚を切り出されたときには、「死んでくれ」と言って、視聴者たちをざわつかせた。

口だけでなく行動も乱暴で、巨匠漫画家の原画を外にばらまこうとするなど限りなくやんちゃだった。彼女は、漫画家、100円ショップ、おひとり様メーカーと移り変わっていき、最終的には幼馴染と共に体に優しい扇風機を作る。回り道をしながら中年になってようやく花開いてドラマは終了した。その言動と生き方に眉をしかめる視聴者もいれば、爽快だと応援する視聴者もいて、激しい賛否両論を生んだ。

次の『まんぷく』(10月〜)は、実在の人物で、インスタントラーメンを発明した安藤百福の妻・仁子をモデルにして戦中、戦後、高度成長期までを描くもので、主人公・福子(安藤サクラ)は発明家・萬平(長谷川博己)を信じて支え続ける。

社会に出る前に英語を母から習わされていたという先進性もありながら、基本、主体性は感じられず、常に萬平ありきなので、17年の脱・元気系ヒロインのようにも見えるが、何かと「萬平さ〜〜ん」、「え〜〜」と大声を出したり、母親の言うことをちゃちゃっとあしらったり(母親も母親でかなりマイペースなのだが)、タイトルバック映像では大股ではしゃぎまわったり、何かにつけあたふたしている様は、ドタバタ漫画のキャラクターのようで、これまた、うるさく感じる視聴者と、楽しく感じる視聴者に分かれている。

また、福子がつらいときに無理して笑っていたら、母親・鈴(松坂慶子)に「不気味」と言われてしまう場面があった。心配からとはいえ、娘に(主人公に)「不気味」という表現を使うとは解釈が分かれるところだと思う。

クセの強いヒロインはなぜ続くのか

このように、「明るく・元気」ではあるが、「さわやか」かというとそうは言い切れないし、「明る過ぎる」「元気過ぎる」というどこか過剰な方向に進んでいるのが17年の朝ドラヒロイン。鈴愛も福子も、千鳥のネタを借りると「クセが強い」ヒロインだ。

ではなぜ、このように「クセが強い」ヒロインになったのか。

それには2点考えられる。

ひとつは、17年のヒロイン像から読み取れる、”がんばらなくてもいいよ” というメッセージは、”そのままでいいよ”ということでもあって、その意味では18年のヒロインも”ありのまま”だ。

ふたつめは、ドラマのバラエティー化だ。

放送時間が変わった10年の『ゲゲゲの女房』、映画のような趣のあった11年の『カーネーション』、ツイッターをはじめネットで盛り上がった13年の『あまちゃん』を経て、朝ドラの視聴者が多様化したことによって、従来の、主に主婦、それも高齢者を超えた視聴者が流入してきているため、内容を多様化する必要が出てきた。それで近作は、かなり、ツイッターの反応を狙ったネタを入れてきていることが多い。私もこのYahoo!個人記事で以下のようにたびたび書いている。

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ネタが豊富でにぎやかな内容に対応できるヒロインとなると、どうしても個性の強さが求められるのだろう。

永野芽郁も安藤サクラもよく対応していると思う。

2019年はどうなる?

さて、2019年も、ツイッター対策可能なヒロイン像という傾向が続くのだろうか。

4月は、大森寿美男脚本、広瀬すず主演の『なつぞら』、10月は、水橋文美江脚本、戸田恵梨香主演の『スカーレット』。どちらもオリジナルで、演技力に定評のある俳優が演じる主人公が手に職をもって自立していく物語のようだ。クセの強いキャラ化は一旦止まって、主人公の感情の機微をじっくり見せる、どちらかといえば『ひよっこ』のようなドラマになるのではないか。

いずれにしても、18年大晦日の『NHK紅白歌合戦』では、広瀬すずが紅組司会、永野芽郁と安藤サクラが審査員と、朝ドラヒロイン俳優が3人も参加するし、明けて19年も朝ドラを楽しませてもらえるに違いない。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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