大河ドラマ「べらぼう」ってどういう意味?主人公の蔦重(横浜流星)は「べらぼう」と言うより言われるほう
「べらぼう」は生き方を象徴する言葉。
「枠からはみだし、人と違うことをすることによって、ものごとをいい方向に動かしていく」 〜横浜流星インタビュー
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合 日曜よる8時〜ほか)がはじまる。
蔦重こと蔦屋重三郎は江戸中期、浮世絵や黄表紙などをプロデュースし「江戸のメディア王」と呼ばれた人物で、「親なし、金なし、画才なし…ないない尽くし」であった青年が、喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴、東洲斎写楽などの才能を見出していく。
蔦重を演じる横浜流星さんは、24年の6月、京都でクランクイン。エネルギーあふれる若々しい蔦重を演じていると評判も上々だ。
今回、その横浜さんに会見後、個別にインタビューする時間を得た。打てな響く明晰で聡明なひとだった。
選んでいただけたからには、責任と覚悟を持って届けたいと思っています
横浜さんは今回、異例の大抜擢。大河ドラマでは過去、NHK作品に貢献した者が起用されることが多いが、NHKに出演経験がないまま、いきなり大河主演をやることになって「自分でも驚いています」と言うほどなのだ。
「なぜ自分を選んでいただけたのか、いまだに疑問ですが、選んでいただけたからには、責任と覚悟を持って届けたいと思っています」と横浜さんは意欲を見せる。
「これまでの大河には珍しい江戸中期を舞台にした町人もので、新たな大河ドラマになっています。合戦はありませんが、商人同士の商売における戦いが描かれますし、展開がスピーディーで痛快なエンターテインメント作品になっていると思います」
横浜さんは自信をのぞかせながら、蔦重の魅力をこう語った。
「誰もが知る人物ではないと思います。ただ彼は多くの功績を残して江戸を豊かにし、江戸のメディア王として出版ビジネスを行いました。いまでいう出版社の社長でありプロデューサーであり、営業も行っていました。出版に関するあらゆる業務を全て自分で行う、本当に多彩な能力の持ち主だと思っています。彼はつねにいまの世の中に疑問をもち、新たな挑戦をし続け、たとえ失敗してもへこたれないメンタルの持ち主と、いろいろな良い面がありますが、僕の思う蔦重の一番の良さは、自分ではなく誰かのために動けることです。そうすることで結果的に協力も得られ、何倍もの力にもなります。蔦重の生き方に影響され、僕自身も誰かのためにも頑張れるような人間でありたいと思います」
ただ、あくまでも蔦重は蔦重で、自身と重ねることはあまりないという横浜さん。自分は蔦重のように明るく人を引っ張っていくタイプではないが、演じるときは「自分を消して、森下佳子さんの描く世界を全力で生きて、森下さんの描く蔦重を忠実に演じようと思っています」と真摯だ。
ドラマのなかでの蔦重は、明るくエネルギーに満ち溢れている。
「現代は情報が多いゆえに流され、自分が持てない人が多いと思うのですが、それと比べると当時は、身分制度やいまより激しい経済格差などによって不自由ではあるものの、現代のように情報が錯綜していないし、みんなそれなりに自分を持って、周囲の人々との交流を大切にしています。それに戦もない。いい時代なのではないかと思います。自分が実際に生きて見ていない時代なので、想像の範囲でしか分からないですが、少なくとも森下さんの描いたこの物語のなかではいい時代だと感じています」
べらんめえ調の江戸言葉や地口が難しい
詳しく知らない江戸中期の生活様式。横浜さんは町人髷を結い、着物に草履で軽快に走り回る。着物の色は若い時代はグリーンを選んだ。彼の出世作である戦隊もののときの役のカラーも緑で、縁(えん)のある色だ。
横浜さんは着物の襟や裾のさばきがさりげなく決まっていて、所作の勉強をしっかりしたのだなと感じさせる。当時の所作などを専門の先生などから学んで取り組むなかで難しかったのは江戸言葉だとか。
「べらんめえ調は難しいです。コテコテな方言ではないですが、ちょっとしたニュアンスの出し方が難しくて。江戸言葉監修の方々の協力を得ながら、自然に話している感じが出るように努力しています」
とりわけ慣れないのは地口という文化だ。いわゆるだじゃれで、第1回のサブタイトルになっている「ありがた山の寒がらす」の「ありがた山」が地口である。ありがたいに山をつけることで、まじめに「ありがたい」を言うのではなく笑いに転じる、独特の話法だ。
「蔦重は地口をよく使うので、それをいかにナチュラルに言うか、なかなか苦労しました。誰かに向かって言うときはまだしも、一人のときも言うんです。一人のとき、どうやって言おうか悩みました(笑)」
言葉といえば、タイトルになっている「べらぼう」。第1回からさっそく蔦重は「べらぼうめ」と勇ましい。この言葉の印象を横浜さんはこう語る。
「蔦重の生き方そのもののように感じます。蔦重は安牌に生きていないんでです。もともとはそうではなかったけれど、いろいろな人達と出会って、彼は枠に囚われない人間に変わっていきます。例えば、やがて寛政の改革で松平定信に取締を受けますが、それでも蔦重は人々に『楽しい』を届けようとと立ち向かっていきます。枠からはみだし、人と違うことをすることによって、ものごとをいい方向に動かしていく。『べらぼう』はその生き方を象徴する言葉だと思います」
番組公式サイトで、制作統括 藤並英樹チーフ・プロデューサーは「べらぼう」の意味をこう説明している。
けたはずれな行動をとる蔦重はどちらかといえば「『べらぼうめ』と言われるほうなんです。めちゃめちゃ言われます」と横浜さんは笑った。
「蔦重が言うこともあります。蔦重が言うときは、基本的に怒りの感情で言っています」
たぶん、人々を枠にはめてしまうような狭量な世の中に「べらぼうめ!」と言いながら突破していくのだろう。
「第1回のラストのほうで、田沼意次(渡辺謙)に意見を言う場面がありますが、いまでいうと、一国民が総理大臣に向かって意見を言うようなもの。そんなことできる人間、なかなかいないですよね。そういう行動力の強さが魅力的です。僕は蔦重をとてもリスペクトしています」
長谷川平蔵、平賀源内、蔦重を取り巻く個性豊かなキャラクターたち
さて、この江戸中期、蔦重はプロデューサーなので裏方的な存在だから超有名人ではない。彼のプロデュースした喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴、東洲斎写楽など綺羅星のようなクリエーターたちが活躍し、ほかに田沼意次、平賀源内、鬼平こと長谷川平蔵宣以など、時代劇で人気の人物も活躍する。横浜さんが注目しているのは平賀源内だ。エレキテルを発明した天才的なアイデアマンである。
「蔦重は源内の生き方にすごく影響されていると思います。安田顕さんがとても魅力的に源内を生きているので、共演シーンはすごく楽しみながらやってます。森下先生の描く源内はもちろん知性は高いのですが、それよりも自由さとか常識はずれな部分に重きを置いて描かれています。蔦重は源内のいい意味でのわがままさに強く影響されていく。蔦重は当初、どちらかというとまっすぐな道を生きてる人間なのですが、おりにつけ源内にいろいろな言葉をかけてもらうことで、源内のような自由な生き方があることを知って、自分の道が開けていくんです。何者でもなかった蔦重がメディア王になっていく大きなきっかけになるのが源内です」
源内をはじめとして、蔦重はいろいろな人たちと出会い成長していく。
「蔦重はひじょうによく動きまわるので、多くの出会いを経験します。まず、吉原が舞台で、そこには登場人物がたくさん登場し、蔦重と絡んでいきます。なんなら一週ごとに共演者が変わるというような構成なんです。今週は源内パート、今週は平蔵(中村隼人)パートと思いきや、来週は親父様(高橋克実)パートみたいな感じで、毎回新鮮な気持ちでやっています」
「鬼平犯科帳」でおなじみの長谷川平蔵宣以を演じるのは、中村隼人さん。横浜さんとは舞台「巌流島」(23年)で宮本武蔵役(横浜)と佐々木小次郎役(中村)で共演している。
「舞台の共演から仲良くさせてもらっていて、舞台が終わってからまたすぐ共演できることを非常に嬉しく思いました。長谷川平蔵はこれまで多くの方々が演じていて、ある種、完成されているイメージがありますが、今回の平蔵はそのイメージができあがる前が描かれます。蔦重も平蔵も、まだ何者でもない時代で、そんな2人の絡みは面白いものになっていると思います」
「巌流島」では横浜の格闘技系のアクションと中村の様式的な殺陣のやり取りのぶつかりあいがとてもヒリヒリして迫力があったが、今回、アクションはない。
「蔦重は会話コミュニケーションにひじょうに長けていて。そのスキルをうまく使って、自分に都合よく話しを進めていきます。それがこのドラマのおもしろさのひとつで、表面的に商談をしているのではなく、裏でいろいろ策を練りながら話す、そういう掛け合いのシーンがとても楽しいです」
田沼意次役の渡辺謙さんは大河ドラマ主演の先輩となる。
「謙さんのお芝居からたくさんのことを勉強させていただいています。謙さんとは、『国宝』(25年公開予定)では父子役で共演し、そのときに食事に行っていろいろとお話をさせてもらって、謙さんが『独眼竜政宗』(87年)で大河の主演をしたとき、いまの僕と同じ年頃だったというお話や、とにかく真っ直ぐ全力でやればいいという力強い言葉をいただいたので、その言葉を信じてやっています。今回、共演シーンはあまり多くはないですが、貴重な共演シーンの時間を大切にしています」
ほかにも、吉原を仕切る「忘八」と呼ばれる人々(高橋克実さん演じる駿河屋、安達祐実さん演じる大黒屋の女将など)たちは蔦重にプレッシャーを与えてくる厄介な存在だ。
「最初に想像していた忘八の人々とは、現場で演じてみたら、いい意味で雰囲気が違って、彼らは厳しさの中に優しさがある。もちろんその圧を加えてくるけれど、その中に愛や優しさがあるから、蔦重もなんでも言えるし、彼が自由にいられるのも忘八たちのおかげなのかもしれないと感じるようになりました。このように、現場で変化していくことも作品づくりの醍醐味だと思います」
花の井(小芝風花)など女郎たちもいてほんとうににぎやかな物語になりそうだ。
◯取材を終えて
取材会や個別取材など、横浜さんは「べらぼう」がはじまるにあたり、たくさんの取材を受けている。取材会で印象的だったのが、蔦重のメディア王にかけて、横浜さんは◯◯王になりたいかという質問をした媒体に「王になったらそれで終わってしまうので、僕は王にならず、いつまでも上を目指したいなと思っています。大河ドラマの主演でも高みを目指します」と答えたこと。蔦重に自分は似ていないと言っていた横浜さんだが、現状に満足しない姿勢はもしかして似ているのかもしれない、と思った。
profile
横浜流星 Ryusei yokohama
1996年9月16日、神奈川県生まれ。2011年、俳優デビュー。主な出演作品にドラマ「初めて恋をした日に読む話」「あなたの番です-反撃篇-」、映画「嘘喰い」「線は、僕を描く」「ヴィレッジ」「春に散る」「正体」、舞台「巌流島」など。第49回報知映画賞演男優賞受賞。特技は空手
べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~
2025年1月5日(日)スタート
[総合]日曜 午後8:00 / (再放送)翌週土曜 午後1:05 [BS]日曜 午後6:00 [BSP4K]日曜 午後0:15 / (再放送)日曜 午後6:00
【作】森下佳子
【制作統括】藤並英樹、石村将太
【プロデューサー】松田恭典、藤原敬久、積田有希
【演出】大原 拓、深川貴志、小谷高義、新田真三、大嶋慧介
【出演】横浜流星 安田顕 小芝風花 宮沢氷魚 中村隼人 石坂浩二 片岡愛之助 高橋克実 里見浩太朗 渡辺謙ほか