バズる朝ドラ『半分、青い。』ヒロインの劇中漫画も大活用。『一瞬に咲け』を描いたなかはら・ももたとは。
“朝ドラ”こと連続テレビ小説『半分、青い。』は、幼い頃左耳を失聴した主人公・鈴愛(永野芽郁)が、
ハンディキャップを想像力で明るく前向きに乗り越えていく姿を描いている。
現在、鈴愛が東京でプロ漫画家として活躍するエピソードを放送中で、鈴愛の師匠・カリスマ漫画家・秋風羽織(豊川悦司)の描く漫画は、『いつもポケットにショパン』や『チープスリル』など、くらもちふさこの漫画が使用されている。
では、鈴愛の漫画は? というと、高校生のときはじめて書いた『カセットテープの恋』から単行本になる『一瞬に咲け』まで、すべてなかはら・ももたの描き下ろしだ。
なかはらは朝ドラと縁が深く、『あまちゃん』のときは“あま絵”と呼ばれるファンアートを描き、『マッサン』ではコミカライズを担当した。そして、今度はついに「中の人」こと制作スタッフのひとりとなり、さらに『半分、青い。』のスピンオフ漫画の連載もウェブメディアではじめた。
「マグマ大使」の時代考証、月9「ロンバケ」のパロディなど本編の内容や、「もう数字(視聴率)はいいんじゃないか」をはじめとした脚本家・北川悦吏子のTweetもネットでの盛り上がりに寄与しているが、劇中漫画もネットでの宣伝戦略のひとつに加わった。
朝ドラの制作にはじめてかかかわったなかはらさんにその心境をインタビューした。
ファンアートから中の人へ
ーー今回、劇中漫画を担当することになったいきさつは?
なかはら「北川悦吏子さんは私が二十代の頃からのお知り合いなんです。北川さんと仲の良いカトリーヌあやこさんと私がサッカー好きというつながりでまず友達になったことから紹介してもらって、よく北川さんとカトリーヌさんの飲み会に参加していました。それで、北川さんが朝ドラを書くことになったとき、カトリーヌさんや私がドラマ好きだったので、朝ドラはこういうものだっていう話を北川さんにしていたんです。そのときはまだ劇中漫画を描くとは思ってなかったですが、主人公が漫画家になる話になって具体的に漫画を描く場面を北川さんが脚本に書く段になって、漫画の描き方に関する聞き取りをされました。でもそのときもまだ協力する話はなく、そうこうしているうちに劇中漫画を描かないかと打診されました。たぶん、身近で少女漫画をやっていて、かつ、べらぼうに忙しくなく長期的なスケジュールが取れるのが私だったのだと思います(笑)。北川さんは、一時期、私が描いていた出版社が潰れたりして仕事がなくなった時、仕事の心配をしてくれていたんですよ(笑)」
ーー優しい人なんですね。
なかはら「そうなんですよ、優しいんです。私とは10歳年が離れていて、鈴愛ちゃんと私がちょうど同じ年の生まれの設定だったので、それもちょうどよかったのだと思います」
ーー朝ドラファンから、一躍“中の人”になって、テロップにも出るお気持ちってどうですか?
なかはら「出るんですかね?」
ーー出るでしょう(☆この取材は、テロップ登場前に行われた)
なかはら「出たら考えようと思います(笑)」(☆出たときの気持ちは連載「半分、青っぽい。」に書かれている)
ーーはじめて出たら、SNS は盛り上がるでしょうね。
なかはら「ドラマが盛り上がっていれば…ね。作品によってはSNSであまり盛り上がらないものもありますから。私もクレジットチェックをあまりしない作品もありますよ」
劇中漫画はこう描く
ーーさて。鈴愛の漫画部分には原作があるんですか?
なかはら「台本に書かれている台詞や場面など断片的な部分を統合して考えました。スタッフの方からも意見をいただきながら…。ドラマのなかでは全部は出てこないので、台本に書かれた部分があればいいのでしょうけれど、
前後がないと“らしく”見えないので、最初から最後まで考えて短編漫画として成立するように描きました。それを見て、広報プロデューサーの川口さんから、あとあと全編が世に出るようにしていいですか? と提案されました(動画サイト「NHK1.5チャンネル」等で公開された)」
ーーすごいですね。
なかはら「鈴愛がデビューして単行本にもなる『一瞬に咲け』は、北川さんのドラマ『運命に、似た恋』(16年)の登場人物・つぐみとカメ子のサイドストーリーのようになっているので、スタッフさんからドラマの彼らのシーンだけ抜いて編集したものを送っていただいてそれを参考にしました。ただ、このふたりはメインの登場人物ではなく、シーンも少ないのでほとんど創作です。そこにどうにかして主人公に“一瞬に咲け”と言わせることが現場の意向でした」
ーーそういう縛りがあるとは大変そうですね。
なかはら「いやでも、私はこれまでもそういう仕事をよくやっているんです。『マッサン』もそうですが、原作ものを漫画化するような仕事を。逆に、“北川さんっぽく”とかお題を出されるとがぜんやる気になります。もともと、『あま絵』など、パロディを描くのが好きですから、こういう仕事は性に合っています」
ーー永野芽郁さんが描く漫画であるってことは考えました?
なかはら「彼女が実際に描くわけではないから、彼女に合わせて絵柄を変えるというようなことは考えてはいないです。
それよりはいかに北川さんの世界ぽいものにできるか考えました。ただ、鈴愛が高校生ではじめて描いたものと、プロとして活躍しているときの絵柄の差はつけました。最初はちょっと下手に描いていて、途中からは完全に私の絵柄になっています。だから、初期の漫画『カセットテープの恋』の絵を見て、なかはら・ももたってこんなに下手なんだと思われたら困ります(笑)。これが鈴愛の最後の漫画というのは全力で描きました!」
ーードラマ上では『一瞬に咲け』は何冊も単行本になっている設定ですが、どれくらい描いているんですか?
なかはら「最初は16ページくらい描いて、あとから追加で描いたので、何ページかわかりません(笑)。鈴愛ちゃんが何本か描いた中で一番枚数を描きました。あと、単行本の表紙の絵も描いています。秋風ハウスのセットを見学したとき、それが表紙になった単行本の小道具が置かれていて嬉しかったです(笑)」
'''ーー90年代の漫画だとアナログで描いたのですか?
'''
なかはら「そこはデジタルで描いて、線画を原稿用紙にコピーしたものに俳優さんがベタを塗ったりトーンを貼ったりしているところを撮影しています。昔だったらコピーした原稿だと見る人が見たらコピーだってわかっちゃうけれど、カメラを通してみたら、トナー感というか印刷感がなかったと勝田プロデューサーは言っていました。『ひよっこ』のとき劇中漫画を描かれていた海老原さんは多分アナログで描いていて、その仕事量のほうが私よりも数倍大変だったと思います」
ーー朝ドラの劇中漫画を描くってどういう気持ですか。
なかはら「台本を先に読めるのが嬉しかったですね。決定稿の前の準備稿を読ませていただけたんですよ」
ーーそれは貴重ですね。
なかはら「あと、いちばんすごいと思うのは、北川さんがいいって言ってたのでたぶん打ち上げに呼んでもらえるんじゃないかってことです。朝ドラの打ち上げに行くって完全にゴールじゃないですか(笑)。『あさイチ』に出るか打ち上げか。朝ドラとは関係ないけれど、海野つなみさんが『あさイチ』に出たのも漫画家としてある種のゴールだと思うんです(笑)。とはいえ、撮影が終わる頃には漫画家編はとっくに終わっていますから、劇中漫画ってなんだっけ?と思われそう(笑)」
どうしたらネットでバズるか
'''ーー実際、オンエアされてみて、ご自分の絵を見てどうですか?(ここだけ、オンエア後に追加質問しました)
'''
なかはら「はじめ、まあ、ちょっと緊張しましたけど、Twitterでわたしより早くフォロワーのみんなが『名前でた!』
『でたぞ!』みたいに言ってて、なんか和みました(笑)。たしかに画面にマンガが映るとオッと思いますが、それがちゃんと意図したものが伝わってるかをリアルタイムでの反応をまず確かめてるので(笑)普通に見てる人の倍くらい自分の関わったところは客観的に見てます。あっ、親戚からすごく電話かかってくるようになりました(笑)」
ーー一回辞めてもいつかもう一度描くってことはないんですか?
なかはら「漫画を辞めた人の気持ちは、自分が辞めてないからわからないですね。辞めちゃったら二度とペンを持たないものなのか、あるときまた描きたくなるものなのか…ドラマのなかで鈴愛がどっちに転ぶものなのか…」
ーー最後は聞かされてないんですか?
なかはら「だいたいの流れみたいなものは聞いていますが、それをどういうふうに描くか道筋はオンエアを楽しみに
しています。朝ドラは放送のスパンが長いから制作に関わっている人すら、話がどこに向かうかわからないってことが面白いですよね」
ーー漫画家編が終わっても、スピンオフ漫画を連載されています(現在cakesで配信中)。
なかはら「『マッサン』のようなコミカライズではなく、もっとライトな、朝ドラスピンオフサイドストーリーな感じのものを描きます。『あまちゃん』のときにやっていたような、ドラマが放送した直後にみんなでそれについてSNSで盛り上がっているときに、その話題に合ったものを提供することが大事な気がしていて。そうするとバズるじゃないですか。それを何回も積み上げていけば大きな盛り上がりになるかなあと」
ーー私が続けている毎日レビュー(エキレビ!で毎日朝ドラレビューを連載している)もそういう即話題にという感覚に近いです。『半分、青い。』はどういう話題がネットで受けると思いますか?
なかはら「鈴愛と律のカップルにかかっていると思います。SNSだと、『あまちゃん』のアキとユイとか、勉さんとミズタクとか(これは私だけ?)同性のカップリングに萌える人が多くて、男女のカップルだと当たり前過ぎて萌えないこともあるんです。でも『マッサン』のマッサンとエリーはすごく萌えたんですよ。鈴愛と律はそうなる気がしています」
なかはら・ももた
1971年石川県生まれ、千葉県育ち。91年、集英社の少女マンガ誌「ぶーけ」でデビュー。『のんdeぽ庵』
『おかわり のんdeぽ庵』『あかねSAL☆』などのほか、朝ドラ『マッサン』のコミカライズも手がける。『半分、青い。』では主人公の描く漫画を担当した。Cakes で『半分、青っぽい。』を連載中(毎週土曜更新)。