パナマに5-0で快勝。女子W杯初戦まで4日、なでしこジャパンが現地入り
ニュージーランドとオーストラリアの共催で7月20日に開幕するワールドカップに出場するなでしこジャパンが16日、ベースキャンプのクライストチャーチ(ニュージーランド)に入った。日本は22日にグループステージ初戦のザンビア戦、26日に第2戦のコスタリカ戦、31日に第3戦のスペイン戦を戦う。
14日には、ユアテックスタジアム仙台で行われた壮行試合でパナマと対戦し、10,206人の観客が見守る中、5-0で快勝した。FIFAランキングは日本の11位に対してパナマは52位。グループステージ第1戦のザンビア(77位)、第2戦のコスタリカ(36位)を想定した90分間となった。
日本はこれまで通り、3-4-2-1のフォーメーションを採用。左サイドにMF遠藤純、1トップにはFW田中美南が入り、3バックの一角でDF石川璃音が初先発した。
守備では中盤からのブロックを敷き、背後へのボールに対しては5バックで手堅く対応。本番を見据えたカウンター対策を徹底する中で、立ち上がりは自陣を固めたパナマの守備を打開するのに苦労した。だが、時間とともに守備のスタート位置を上げ、相手を攻略していった。最前線で守備のスイッチ役となった田中は、その好変化をこう明かす。
「最初はパナマの距離感が良くてプレスがかけづらかったのですが、飲水タイムに前から限定してかけていこう、と話をして、高い位置で狙い通りに奪えた場面がありました。そこから奪ってカウンターにつなげたり、ボールを動かしながら前を向いて受けられるシーンも増えました」
選手間のスムーズなコミュニケーションで主導権を握り、日本が一方的に押し込む展開に。
33分にMF長谷川唯のロングフィードを受けたDF清水梨紗がループシュートを沈めて先制。さらに、37分には長谷川が田中のスルーパスに抜け出してリードを広げた。
後半、池田太監督はFW植木理子とMF清家貴子を投入。攻撃的なカードを切って攻勢を強めると、60分にMF宮澤ひなたが左サイドをスピードで切り裂き、折り返しをMF藤野あおばが決めて3-0。その1分後には長谷川がペナルティエリア手前から右足を振り抜き、相手に当たったボールがゴールに吸い込まれて4点目。さらに、後半アディショナルタイムにもDF南萌華が決めて5-0とし、完勝を収めた。
【若手選手の経験値アップが収穫に】
全体的に1対1で勝つ場面が多く、パナマのカウンターも精度を欠いていた。
攻撃面では多彩な形から5ゴールを決めたが、パナマが集中力とスタミナを維持できていた時間帯を考えれば、複数の選手が関わった37分の2点目が理想的な形だった。
ポジションを流動的に変えながらサイドを崩し、田中を追い越した長谷川が冷静にフィニッシュ。ザンビアやコスタリカなど、自陣で守備を固めてくることが予想される相手に対しては、そのようなテンポと精度が鍵になりそうだ。
「(ロングボールを)蹴られても後ろが(1対1で)勝てる状況だったので、ある程度マンツーマンのようになってもいいように、しっかり後ろが跳ね返してくれてこぼれ球も拾えていました。試合の中で相手に合わせてしっかり戦い方を変えることができたと思います」
2ゴール1アシストと好パフォーマンスを見せた長谷川は、チームの守備と修正力に手応えを見せた。一方、「自分たちがうまくプレッシャーをかけることができていない場面でもボールを取れてしまうことがありました。本大会ではもっと速い選手や、もっとボールの回し方がうまいチームと対戦することになると思います」と、本番との強度のギャップにも言及。
日本は昨年末からスペイン(FIFAランク6位)やイングランド(4位)、アメリカ(1位)やカナダ(7位)など、強豪国との対戦から成長のヒントを掴んできた。しかし、大会直前の強化試合は、実力的にかけ離れたパナマとの1試合のみ。ケガ人を出さず、万全の状態でW杯に臨むことを優先させたようにも見えるが、グループステージの対戦国は、6月から3〜4試合こなしてきている。スペインは6月末の親善試合でパナマと対戦し、開始7分で先制。前半だけで6点を奪って試合を決定づけた(最終結果は7-0)。
「大会で相手のレベルが上がると、高い位置からプレスをかけるのが難しくなるかもしれません。そういう相手がマンツーマン気味にきた時に、(味方同士の)距離が遠くなると厳しい戦いになるので、そこをしっかり詰めていきたいです」
田中はそう言って、表情を引き締めた。
目に見える収穫としては、初先発となった石川と代表初ゴールを挙げた藤野の19歳コンビがスタメンで活躍し、ケガ明けのDF高橋はながピッチに立つなど、チーム全体の経験値が増したことが挙げられる。
この半年間でメキメキと代表で存在感を表し、レギュラー候補になった藤野は、この試合で待望の代表初ゴールを決めた。これまではパスの出し手として光るプレーが多かったが、試合を重ねるごとにゴールへの期待値も高まっていたようだ。ゴールが決まった瞬間のベンチメンバーの歓喜にも、チームの一体感が表れていた。
「(長谷川)唯さんが『今日は絶対決めよう』と話してくれて『やらなきゃいけない』と割り切れました。自分のゴールをみんなが喜んで祝福してくれたのはすごく嬉しかったです」
試合後、藤野はそう言って屈託のない笑顔を見せた。
初先発の石川も積極的にボールに関わり、存在感を残している。
「自分の長所は1対1や守備なので、ビルドアップはシンプルに味方につけて、乗ってきたら前のスペースを見ようと考えていました。『ボールを受けたくない』と思ったらいいプレーができなくなるので、もう「(パスが)来い、来い!」って思いながらプレーをしていました」(石川)
スピードや強さなど、国内でもピカイチの身体能力を誇る新世代の2人が世界の扉を開くことができるのか、今大会の見どころの一つでもある。
大会ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)も適用されるが、WEリーグではまだVARが導入されておらず、実戦で経験がない選手もいる。そこで、今大会に向けて日本サッカー協会のレフェリーによる講習を行うなど、対応策を練ってきたという。
この試合でセットプレーからのゴールは生まれなかったが、相手の意表を突くような工夫が随所に見られ、得点の匂いを感じさせた。MF猶本光、遠藤、長谷川、藤野ら、キッカーは左右で蹴れる人材が揃っているが、ゴール前の高さでは敵わない相手も多い。練習でも相当な時間をかけてきているだけに、一つ、結果が欲しいところだ。
【開催地のニュージーランドは冬】
今大会は2カ国共催だが、日本はグループステージから準決勝までをニュージーランドで戦う。オーストラリアに行くのは、決勝に進んだ場合のみとなる。
ニュージーランドと日本の時差は3時間。南半球は現在冬にあたる。出場国の多くは北半球に位置するため、調整のためにかなり早い段階からベースキャンプ地に入り、調整を進めてきた国もある。
筆者は現在、開幕戦が行われるオークランドにいるが、試合が行われる夕方の風はそこまで冷たくなく、予想していたよりも寒さは感じない。連日30度超のコンディションでトレーニングをしてきた日本の選手たちにとっては理想的な涼しさで、調整はスムーズに進んでいるようだ。
初戦まで残すところ4日。池田ジャパンのチーム作りはラストスパートに入った。