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阪神大震災から29年、置き去りにされた猫たちから学んだこと

いわさきはるかサイエンスライター
地域猫へのエサやり活動(提供:神戸にゃん太の会)

能登半島地震から始まった2024年。地震のあとのSNSには助けを求める人々の声と並び、家族の一員であるペットを探してほしいという投稿が多くありました。運よく一緒に避難できても、避難所にペットの持ち込みを拒否され、車中泊や壊れた家に留まることを余儀なくされるケースもあるようです。

現在、国は災害時のペット同行避難を推奨しています。災害時のペット対策が始まったきっかけは29年前の阪神・淡路大震災です。阪神・淡路大震災の被災動物は9300匹に及び、仮設住宅での無計画な動物飼育も問題になりました。

ペットの災害対策がない状態で起きた阪神・淡路大震災で、動物たちはどのような状態にあったのでしょうか。当時保護活動に携わり、後に保護猫団体「神戸にゃん太の会」を立ち上げた橋本まさ子さんにお話を伺いました。

避難所にいた猫は1匹だったが……

阪神・淡路大震災直後、橋本さんが出会ったのは避難所の入口付近で猫を抱っこしている女性でした。当時はまだ「たかが犬猫」という時代、猫を連れた状態で避難所の奥には入りづらかったのでしょう。冷たい風が吹きすさぶその場所に段ボールをしいて座っている女性に、橋本さんはたまらず声をかけたといいます。

「よかったら猫ちゃん、あずかりましょうか?」

橋本さんの家は幸いにも地震の被害が少なく、ライフラインなども問題がありませんでした。猫を1匹飼っていたので、エサなどの物資もあります。最初は注意されると身構えたのか怪訝な顔をしていた女性ですが、すぐにほっとした顔になりました。

驚いたのは橋本さんの声を聞きつけて、その女性以外の人も集まってきたこと。

「うちの猫もあずかってほしい。」

避難所につれてこられず泣く泣く倒壊した家に猫をおいてきたという人が何人もいたのです。残念ながらすべての猫をあずかることはできませんでしたが、橋本さんは取り急ぎ3匹の猫をあずかりました。

当時は猫の保護はやったことがなく不安だったそうですが、あずかった猫たちはとてもおとなしく、すぐに橋本さんの家に慣れてくれました。

「猫たちは飼い主の危機をちゃんとわかってたんじゃないでしょうか。」

ケージもなく脱出対策などもできないまま始まったあずかり生活でしたが、何もトラブルは起きませんでした。長い子では飼い主さんの生活が落ち着くまでおよそ1年間あずかったといいます。

震災後にも根深く残る被災猫の問題

TNRのようす(提供:神戸にゃん太の会)
TNRのようす(提供:神戸にゃん太の会)

震災から7年あまり経ち、仮設住宅が取り壊され人間たちが復旧に向けてたとき、新たな被災猫の問題が顔を出しました。

仮設住宅の跡地にたくさんの猫たちが取り残されていたのです。

震災で家を失った多くの猫たちは仮設住宅に集まり、エサをもらっていました。仮設暮らしの不安やさびしさから猫に際限なくエサを与えてしまうという問題は東日本大震災でも起こっています。

猫たちはエサが安定してもらえる仮設住宅に集い、次々子猫を産んで、数を増やしていきました。しかし、仮設住宅の住人の多くはペット不可の公営住宅に引っ越していったため、猫は連れていけません。その結果、仮設住宅の跡地には50匹以上の猫がおいていかれたのです。

橋本さんは仮設住宅跡のTNR(猫を捕獲し避妊/去勢手術をして元の場所に戻す活動)を依頼されたものの、あまりの数の多さに何から手をつけていいかわからず、市へ相談に向かいました。市の担当者は60匹分の避妊/去勢手術の無料券を準備してくれ、協力してくれる大きな保護猫団体も紹介してくれました。

とはいえTNRは一朝一夕で終わるものではありません。1匹でも漏れてしまうと、猫はどんどん増えていきます。このときTNRの対象となった猫たちは、エサやりボランティアさんに支えられながら今も地域猫として暮らしています。

「エサやりさんたちは猫たちが地域住民から嫌われないように糞などを掃除したり、これ以上猫が増えないようTNRしていない猫をみつけたら保護したりと、ルールを守ってお世話をしてくれているんです。」

このように地道な管理を続けたことで、最初は50匹以上いた野良猫も今は15匹程度まで減少しています。しかし、阪神・淡路大震災から30年近く経った今でも、被災猫たちの問題がまだ続いているというのは驚きです。

猫だけでなく、地震で飼い主から離れてしまった放浪動物たちはエサをもらったり、ゴミをあさったりしながら、何代にも渡って生き抜く可能性があります。飼い主が一緒に避難したり、一度はぐれても再会することができれば不幸な動物を増やさずに済むのです。

このような背景から災害時のペット対策が重要さが認識され、現在のペット同行避難の推奨へとつながっています。

保護猫活動を通じて被災地へ伝えたいこと

神戸にゃん太の会保護部屋にて(撮影:いわさきはるか)
神戸にゃん太の会保護部屋にて(撮影:いわさきはるか)

今年起きた能登半島の地震でも多くのペットが被災していますが、道路の寸断などの理由から他県の保護猫団体はあまり入ることができていません。にゃん太の会のみなさんも「何かできることがないか」と頭を悩ませていました。

橋本さんは自分が阪神・淡路大震災のとき猫をあずかった経験を振り返り、次のように話してくれました。

「地震が起こった地域でも私の家のように運よく被害を受けずに済んだ場所があるのではないでしょうか。そういうおうちがそれぞれ1匹でも2匹でもいいから被害を受けたおうちの猫をあずかることができたら、とても大きな助けになると思います。」

実際に能登半島地震では被害が少なかった家や旅館がペットの一時あずかりやペットと一緒の避難を受け入れると呼びかけているSNSの投稿が複数ありました。こういった取り組みが広がり、その情報をSNS以外でも周知できる仕組みができれば、ペットを連れていることで避難所に入りづらい人たちの大きな手助けになるでしょう。

取材後記:今わたしにできること

これまで「災害時に自分の猫をどうするか」ということばかり考えていましたが、今回橋本さんにお話を伺って気持ちが変わりました。

大きな災害があったとき、飼っているペットとはぐれてしまうのはどんなに準備をしていてもありえることです。それなら最悪の事態ばかり考えるのではなく、もし自分の家が無事だったときに、自分の猫だけでなく他の猫の助けになるような準備をした方がいいのではないかと思うようになったのです。

猫のエサを多めにストックする、使わないトイレやケージを捨てずにとっておくなど、ちょっとしたことで助かる命があるかもしれません。

猫を飼っている人たちそれぞれが「いざというとき1匹でもあずかれる」ことを目指せば、きっと保護団体以上の力になります。まずは我が家も「いつでも1匹猫をあずかれるおうち」を目指していこうと思いました。

取材協力

神戸にゃん太の会

HP:にゃんたフェKOBE

ブログ:猫の幸せが私の幸せ

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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