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楽天は猛反発「ふるさと納税ポイント禁止」 総務省の狙いは?

山口健太ITジャーナリスト
楽天市場のトップページでも署名を呼びかけている(楽天市場のWebサイトより)

総務省がふるさと納税におけるポイント付与の禁止を発表したことで、大きな話題になっています。

7月3日時点で、楽天市場では大型セール「お買い物マラソン」の告知よりも優先して、反対の署名を呼びかけています。こうした状況を総務省はどう受け止めているのか、聞いてみました。

行き過ぎた「ポイント・返礼品目当て」を是正

総務省による発表を受け、ポータルサイト事業者による最初の反応はこちらの記事にまとめました。その後、総務省は改正した告示と、具体的な例を挙げて説明するQ&AをWebサイトに掲載しています。

これを見ると、ポイント以外に「マイル」や「コイン」などを含むのはもちろん、いわゆるポイントサイトから遷移する方式のポイント付与も対象とするなど、ポイントを包括的に禁止する勢いが感じられます。

7月2日に開かれた松本総務大臣の記者会見(動画)では、ふるさと納税の寄付者が返礼品によって大きな経済的利益を得ていることを指摘。ポイント付与の禁止に理解を求める姿勢を示しています。

また、開始時期が来年10月となっている点については、ポータルサイト側のシステム改修に時間がかかることを考慮したとのこと。事業者との話し合いを踏まえて規制に至ったことを強調しています。

ポイント付与を禁止することで、自治体がポータルサイトに支払う手数料は安くなるのでしょうか。この点について総務省に聞いてみたところ、来年10月から各事業者が手数料を引き下げるような確約があるわけではないといいます。

それでは何が狙いなのかというと、ポイントや返礼品目当ての競争があまりにも過熱していることから、制度本来の趣旨への適正化を目的として挙げています。そのため、来年10月からはポイントの付与だけでなく、「返礼品を強調した広告」も規制されます。

ポイント付与(ロ)だけでなく、返礼品を強調した広告(ハ)も規制される(総務省提供資料より)
ポイント付与(ロ)だけでなく、返礼品を強調した広告(ハ)も規制される(総務省提供資料より)

自治体にとって、手数料が高いと感じるなら必ずしもポータルサイトを利用する必要はないものの、現実的には独自にECサイトを構築・運用するのは難しく、集客やセキュリティなどのコストを考慮しても、専門の業者に任せるのが無難といえます。

総務省としては、ポータルサイトと自治体の間の契約に介入することはできず、ポータルサイトを直接規制することもできないとのこと。そのため、自治体に対して「そういうポータルサイトを使ってはいけない」という規制になっています。

もし違反した場合にどうなるかというと、罰則を受けるのは自治体です。ポータルサイト側が規制に「抜け穴」を見つけたとしても、自治体が危ない橋を渡れない以上、無理はできないとみられます。

一方、楽天はポイント経済圏を強みとしているだけに、反発するのは当然です。ポイントは配ったら終わりというものではなく、その一部は次の寄付に使われます。ポイントの付与が急になくなると、思わぬ悪影響が出てくる可能性があります。

たとえば楽天市場では、商品を検索すると、通常の商品とふるさと納税の返礼品は区別されることなく検索結果に並ぶという仕様になっています。

楽天市場で「ホタテ」を検索した結果。通常の商品とふるさと納税の返礼品は区別されることなく検索結果に並んでいる(楽天市場のWebサイトより、筆者作成)
楽天市場で「ホタテ」を検索した結果。通常の商品とふるさと納税の返礼品は区別されることなく検索結果に並んでいる(楽天市場のWebサイトより、筆者作成)

もし、ふるさと納税の返礼品にだけポイントがつかなくなれば、消費者が受ける印象は大きく変わってしまいます。総務省による「適正化」の結果、自治体にもマイナスの影響が及ぶ可能性があるというわけです。

ポイント付与がなくなることで楽天ユーザーも不利益を被ります。ただ、楽天が先頭に立って反対を呼びかけると、楽天の利益を守るための行動に感じる人も多いようです。実際にポイントの恩恵を受けている自治体や生産者からの声があれば、印象は変わってくるかもしれません。

こうした楽天の動きについて総務省は把握しているものの、現時点で告示を見直す予定はないとしています。

楽天に続く事業者は現れるか

ふるさと納税の返礼品は精肉や魚介類などの特産物が多く、「通販」と揶揄されることもあるようですが、現地で使える体験型の返礼品が増えてきたり、キャッシュレス決済の導入などDXを後押ししたりと、地方活性化という意味で面白い動きがあることはたしかです。

たとえば寄付先の地域で使える「PayPay商品券」は全国で588の自治体(7月3日時点)が導入しているとのこと。この商品券は地場産品の基準を満たした商品やサービスに使えますが、現地に行けば他にもお金を落とすことになるため、それを上回る経済効果を期待できます。

災害支援にもふるさと納税は活用されています。ふるさとチョイスによれば、令和6年能登半島地震について、ふるさと納税を通して20億円以上の寄付があったとのこと。地震や豪雨のような災害支援の場合、ポータルサイト各社は手数料なしで寄付を受け付けています。

ふるさとチョイスにおける災害支援の寄付実績(トラストバンク提供資料)
ふるさとチョイスにおける災害支援の寄付実績(トラストバンク提供資料)

楽天のように反発する事業者がある一方で、ふるさとチョイスはこれまでの流れから想定の範囲内と受け止めているようです。必ずしもポータルサイト各社が一枚岩ではないのも興味深いところ。楽天に続いて反対派に加わる事業者が出てくるのかも注目といえます。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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