キャリア経済圏 次のターゲットは「若年層の株主」か
携帯キャリア各社から株式を分割するとの発表が相次いでいます。狙いの1つには、株を買いやすくすることで、経済圏に若年層の株主を呼び込みたいとの思惑があるようです。
経済圏は若年層の株主を呼び込みたい
最近では「ポイ活」をきっかけに投資を始める人が増えており、携帯キャリア各社の料金プランにもポイ活や投資を促すものが増えています。
新NISAを追い風に株取引を始める人も増えており、これから始める人に向けて、株式の分割により1株あたりの価格を下げ、買いやすくする動きが出てきています。
NTT(日本電信電話)は2023年6月末に株式を1:25の比率で分割したことで大きな話題になりました。それに続き、ソフトバンクは2024年9月末に1:10の分割を実施。KDDIも2025年3月31日を基準日として1:2に分割することを発表しています。
各社の株はどれくらい買いやすくなったのでしょうか。12月6日の終値を用いて、分割前の株価と分割後の価格を比較してみました。
ソフトバンクの場合、これから投資を始める若年層を想定し、最低投資金額が2万円程度が適していると考えているようです。分割によって、たしかにその水準まで下がっていることが分かります。
株主の数は多ければ良いものではないという考え方もありますが、経済圏には好影響を期待できる面もあります。株主になれば一般の利用者より理解度が深まり、サービスを使いこなしたり、周囲の人にすすめたりする効果を期待できるからです。
ただ、そのためには短期の売買ではなく、長期保有を促す必要があります。そこで各社は株主優待を受け取るための条件として、NTTは2年以上、ソフトバンクとKDDIは1年以上、株式を保有することを求めています。
株主優待の中身も経済圏を意識したものになっています。株主優待を新設したソフトバンクはPayPayマネーライト(当初のPayPayポイントから変更)を進呈。KDDIは株主優待の内容を変更し、「Pontaポイント」を選べるようになっています。
なお、経済圏争いで優位に立つ楽天グループは事情が異なります。2023年には株主優待をそれまでの楽天キャッシュから楽天モバイルのSIMに変更。今年も継続することを発表しています。保有期間の条件もなく、株を買ってすぐに楽天モバイルを体験してほしいという意図が感じられます。
株主の「若返り」も期待されています。かつて株取引をするのは中高年男性が中心でしたが、ネット証券の口座開設者の属性をみると、ポイ活から投資を始めた女性を含む若年層が増えていることがうかがえます。
若年層が投資に回せるお金は限られており、市場に与える影響は軽微でしょう。しかし若いうちから投資を始める人は将来有望ともいえるだけに、経済圏に早めに囲い込みたいという思惑が感じられます。
そういう意味では、KDDIの株価は「2分割」後でもまだ高い印象を受けます。資金が限られている若年層は、買いやすいNTTやソフトバンク、あるいは保有期間の条件なく株主優待をもらえる楽天グループを先に検討するのではないでしょうか。
この点についてKDDI広報は、「東証が望ましい投資単位の水準とする50万円未満を意識した」と説明しています。このちょっとした金額の違いによってKDDIが経済圏競争で遅れをとることにならないか、気になるところです。
株主が増えることで社会も変わる?
2024年を振り返ると、8月の急落を除けばおおむね相場が好調に推移していることもあり、世の中には「投資をすれば儲かる」といったポジティブな見方があふれている印象を受けます。
実際には、投資をしたからといって儲かる保証はありません。2022年のように1年間にわたって株価の下落傾向が続くことがあれば、投資を取り巻く空気が一変する恐れもあります。
相場の上下を予想することはできないものの、ZOZO創業者として知られる前澤友作氏が始めた新サービスの「カブアンド」が話題になっているように、株に関心を持つ人が増えること自体は、良い傾向といえそうです。
株を持つことによって、労働者とも経営者とも異なる「株主」の目線で社会を見ることができるようになります。そうした人が増えることで、世の中がどう変わっていくか予想してみるのも面白いのではないでしょうか。