イ・ジュニク監督が語る映画「茲山魚譜」下/「ピョン・ヨハンのキャスティングはソル・ギョングの提案」
映画「茲山魚譜-チャサンオボ-」(以下「茲山魚譜」)について、イ・ジュニク監督にインタビューし、前回の歴史的背景に続き、キャスティングやロケ地についても尋ねた。
島流しに遭った学者の丁若銓(チョン・ヤクチョン)をソル・ギョング、島の青年漁師、昌大(チャンデ)をピョン・ヨハン、丁若銓の伴侶となる島の女性カゴをイ・ジョンウンが演じた。
Q. 主人公の丁若銓を演じたソル・ギョングのキャスティングについて教えてください。時代劇は初めてのようですが。
A. そう。長く俳優をやりながら、時代劇は初めて。でも、時代劇をやりたがっていた。「空と風と星の詩人 尹東柱」か「金子文子と朴烈」の授賞式でソル・ギョングに会った時、「監督、私にも時代劇のシナリオくださいよ」って冗談っぽく言ってきたことがありました。それで「茲山魚譜」のシナリオをまずソル・ギョングに渡したら、快諾してくれた。
Q. なぜこれまで時代劇に出なかったんだろうと思うくらい、丁若銓役がはまっていました。
A. 本当に良かった。私は幼い頃、祖父と同じ部屋で10年ほど一緒に過ごしましたが、その私の祖父と、ソル・ギョングの丁若銓の風貌がそっくりでした。朝鮮のソンビ(注:学識があり、礼節を重んじる理想的な両班)をかっこよく演じてくれました。
Q. それは監督の演出によるものですか?
A. 私は現場で特に演出はしません。シナリオの中にすでに書かれているので、あえて現場でディレクションする必要はありません。
Q. ピョン・ヨハンのキャスティングは?
A. 実はピョン・ヨハンは念頭になかったんです。私のキャスティングのやり方は、まず1人目の俳優を決めて、その1人目と相談しながら次のキャスティングを進めるという方式。ピョン・ヨハンはソル・ギョングが薦めた俳優です。名前を聞いた瞬間、「あ、そうだ、ピョン・ヨハンだ!」と確信しました。すぐにシナリオを渡して、ピョン・ヨハンもすぐにOKしてくれた。ソル・ギョングとピョン・ヨハンの息がぴったりなのは、ソル・ギョングが提案したから。
Q. 「ピョン・ヨハンだ!」と確信したのは、昌大とどういう点が似ていると思ったんですか?
A. ピョン・ヨハンという俳優が持っているしっかりした部分がある。映画で見せてきた表情に出てくるしっかりした部分。昌大という人物は低い身分にもかかわらず、それを克服しようとする固い意志がある。それをピョン・ヨハンが演じれば絵になる。曖昧さのないピョン・ヨハン。
Q. イ・ジョンウン演じるカゴのような存在は実際にいたんでしょうか?
A. いました。黒山島に島流しに遭ってから十数年、丁若銓が亡くなるまで共に暮らした女性がいました。2人の息子を生み、育てた。記録に名前はなかったのでカゴというのは作った名前です。
Q. 丁若銓が暮らしたカゴの家がとても素敵でしたが、撮影のために作ったんですよね? 黒山島でなく、都草島だと聞きました。
A. 黒山島で撮れたら良かったんですが、黒山島にロケハンに行ってみると、島の周りが絶壁になっていて、海辺で映画を撮れない。仕方なく、黒山島から近くて比較的大きな島、都草島で撮りました。都草島は新安郡の島なので、郡と話し合って、セットの家を建てることで合意しました。朝鮮の家屋は北方式と南方式があり、映画「東柱」に出てくるのは北方式、今回は南方式。私の創作部分は、海側の壁を取っ払ったこと。映画的ビジュアル効果のため、家の向こうの風景が見えるようにしました。一度行ってみてください。
Q. 今もあるんですか?
A. ありますよ。そのまま保存されています。
Q. モノクロで撮った理由と、モノクロだからこだわった部分を教えてください。
A. 朝鮮時代が背景のモノクロ映画を私自身見てみたかった。島の自然や波もモノクロで見たかった。すべてカラーの時代にモノクロは古い方式ではなく、新しいファンタジーだと思う。モノクロで美しく見えるように照明、衣装など工夫しました。結果的にモノクロの選択は良かったと思っています。
Q. 水墨画のように美しかったです。
A. 東洋には西洋にない水墨画というジャンルがありますよね。でも、水墨画の中に閉じ込めずに映画として描けたことに私自身満足しています。
Q. 映画に躍動感を与えたのは、海洋生物だったように思います。
A. 木浦の海産物の店と契約して、タコやアワビなど多様な海洋生物を空輸しました。映画の中で昌大が説明する海洋生物の特徴は、実際『茲山魚譜』の本に書かれている内容です。「昌大によると…」という風に書かれている。
Q. 別にわざわざ「昌大によると…」と書かなくてもいいのにちゃんと書くところに丁若銓の人柄が感じられます。
A. 丁若銓は平等という言葉を使ってはいないけども、島の青年の言葉だということを自分の著書に明記すること自体、平等の実践だと思います。
Q. ソル・ギョングが海辺で海洋生物に触れて楽しそうな表情を見ると、机上の学問でない、現場の楽しさも感じられました。
A. 最近の映画は多くが都市が背景になっています。都市を背景に暴力的で刺激的なジャンル映画。「茲山魚譜」は暴力的でない、刺激的でない、生活が見える、人生が見えるような映画。主人公たちが追求する価値が見えて、それを俳優たちがワンシーン、ワンシーン演じる。演じている間に俳優本人もその経験をしている。それはソル・ギョングはもちろん、他の共演者も同じで、自然の中に身を置いて癒されたんじゃないでしょうか。
Q. コロナ禍で劇場観客数が減り、映画が厳しい時代に直面しています。劇場公開せずにOTT(オンライン動画サービス)で公開する映画もあります。監督は今後の映画産業についてどう考えていますか?
A. 私は映画産業は永遠に続くと思っています。劇場産業と映画産業を区別せずに語ることが多く、あたかも映画産業がコロナで危機に瀕していると誤解する人もいます。劇場も一つのプラットフォームです。OTTが新たなプラットフォームであるように。ネットフリックスなど多様なOTTのメインコンテンツはシリーズものですが、シリーズものも映画の拡張版と言えます。コロナで劇場産業が厳しい状況にあり、回復してほしいと願っていますが、十分に回復しないからといって映画産業がダメになるわけではない。
Q. 次作は準備中でしょうか?
A. もうすぐクランクイン(注:インタビューは10月初め)です。それこそ、OTTで配信される「ヨンダー(原題)」。また時代劇だけど、時代は未来。シン・ハギュン、ハン・ジミンが主演する。撮影が始まってしまうとインタビューもできなかった。ぎりぎり間に合って良かったです。
映画「茲山魚譜-チャサンオボ-」(配給:ツイン)は11月19日からシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
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