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日韓の学生による合作映画 今村昌平、佐藤忠男からつながる交流

成川彩韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者
韓国芸術総合学校のキャンパスで日韓合作映画を撮影する学生たち(松沢美緒さん撮影)

 コロナ禍で一時止まっていた日本映画大学と韓国芸術総合学校(以下、K-Arts)の学生による合作プロジェクトが昨年再開し、今年2月に短編映画「Halfway Line」が誕生した。日韓の学生のわだかまりが、食事とサッカーを通して解きほぐされる。

 合作プロジェクトは2013年にスタートし、「Halfway Line」で8本目。2019年に日本で撮影したキム・ソヒョン監督の「確か夏の終わりだったはず」は、韓国のミジャンセン短編映画祭の「愛に関するフィルム部門」で最優秀賞を受賞した。撮影は韓国と日本で隔年で行っており、昨年は脚本と監督を日本側が担当し、韓国で撮影する年だった。

 11月に日本の学生たちが来韓し、ソウルのK-Artsのキャンパスで撮影している様子を取材した。日本語で書いた脚本を韓国語に翻訳し、セリフはほとんど韓国語だ。

 完成した作品を見せてもらったが、22分の短編に、日韓の学生の青春がきゅっと詰まっていた。

 韓国の大学のサッカーチームに所属する日本人留学生の航基は、同じチームのジュンシクと折り合いが悪い。パスをつないでゴールに持っていきたい航基の考えは伝わらず、ジュンシクは航基が積極的に攻めないことを不満に思い、「シュート撃てよ」と声を荒げる。ただでさえ外国人でチームになじめない航基はますます浮いてしまう。比較的はっきり言う韓国の学生と、思っていることを口にしない日本の学生の対比のように見えた。

 一方で、ジュンシクは好意を寄せる女子学生が留学することになったが、気持ちを伝えられないでいる。もどかしい航基と自分が重なって見えたのか、ジュンシクは航基をご飯に誘う。そのメニューがタッパル(鶏の足の激辛炒め)で、韓国料理の中でも特に辛い料理だ。2人はどちらが辛いのに耐えられるかを競い合った後、サッカーボールを蹴り合いながら、航基が本音を語り始める。

 撮影場所はK-Artsのほか、ソウル大学の運動場や漢江公園などで、ロケハンや撮影許可の交渉も学生が行った。

 監督を務めた本多俊介さんは、「韓国側のカメラマンが、自分と同じような場面のイメージを想像していて、驚いた」と言う。一つは是枝裕和監督の「海街diary」(2015)に出てくるサッカーシーン、もう一つはイ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」(2018)に出てくる飲み屋のシーンだった。日韓の学生が互いの国の映画を見ているからこそ、共有できるイメージだ。本多さんは「言葉ができなくても、映画という共通語があるから、通じ合っている感じがする」と話していた。

 プロデューサーを務めた岩﨑優実さんは「海外で映画やドラマを撮りたいという目標があって、今回はそのきっかけになると思って参加した」と話していた。

 日本映画大学とK-Artsが学術交流協定を結んだのは2012年。当時学長だった映画評論家の佐藤忠男さん、総長だったパク・ジョンウォン監督の縁もあって、結ばれた。パク監督は「われらの歪んだ英雄」(1992)などの作品で知られ、特に佐藤さんが熱心に日本へ紹介した監督の一人だ。パク監督は今回、アドバイジング・プロデューサーを務めた。

「Halfway Line」のアドバイジング・プロデューサーを務めた天願大介監督(松沢美緒さん撮影)
「Halfway Line」のアドバイジング・プロデューサーを務めた天願大介監督(松沢美緒さん撮影)

 日本側のアドバイジング・プロデューサーは日本映画大学の学長、天願大介監督が務めた。天願監督は「学生時代に外国で撮るという経験はなかなかできないことで、学生にとっては刺激だらけだと思う。僕らの頃は考えられなかったけど、今の日韓の若い子たちはお互いの文化を当たり前のように受け入れて生きているから、抵抗は少ないみたい」と話していた。

 K-Artsは国立の教育機関で、映画教育に関しては韓国トップクラス。多くの監督や俳優を輩出している。監督では「哭声/コクソン」(2016)のナ・ホンジン、「子猫をお願い」(2001)のチョン・ジェウン、「わたしたち」(2016)のユン・ガウン、今年大ヒットとなった「破墓(原題)」のチャン・ジェヒョンなど挙げるときりがないくらいだ。

 一方の日本映画大学は天願監督の父、今村昌平監督が設立した日本映画学校が前身の私立大学だ。天願監督は「国のお金で合作プロジェクトができるK-Artsと違い、うちは大学の自腹。経営的には負担になるけども、プロジェクトに参加するのはやる気のある学生たちで、将来的に意味があると思ってやっている」と言う。

 今村監督はポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督をはじめ、韓国の映画人に人気があり、その影響もあって日本映画大学へ韓国から留学する学生も少なくない。俳優のキム・ウンスも今村監督のファンで、留学した。面接官が今村監督だったという。帰国後は日本語ができる俳優として、韓国の映画やドラマで日本人役を演じることも多い。合作プロジェクトがきっかけとなって、日本映画大学からK-Artsに進学した学生もいる。日韓両言語ができる学生が数人いることも、プロジェクトで大いに役立っている。

韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者

1982年生まれ、大阪&高知出身。大学時代に2年間韓国へ留学し、韓国映画に魅了される。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。退社後、ソウルの東国大学へ留学。韓国映画を学びながら、フリー記者として中央日報(韓国)や朝日新聞GLOBE+をはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄界灘に立つ虹」レギュラー出演中。2020年に韓国でエッセイ集「どこにいても、私は私らしく」を出版し、日本語訳版をnoteで連載中。

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