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薪火料理とウイスキーのペアリング 調布の一軒家レストランで行われた“ある特別な会”とは?

東龍グルメジャーナリスト
ハイランドパークxMarutaのイベント (C) 東龍

5大ウイスキー

世界の5大ウイスキーは、何でしょうか。

それはスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本でつくられるウイスキーです。

中でもスコットランドのウイスキー=スコッチウイスキーは、最も生産量が多く、世界中にたくさんのファンがいます。麦芽を乾燥させる際に使用するピート(泥炭)の香りが強く、スモーキーなフレーバーが特徴。

このスコッチウイスキーの中でも熱狂的な飲み手を擁するのが、ハイランドパークのスコッチウイスキーです。スコットランドのスキャパ湾に浮かぶオークニー諸島、メインランドにてつくられるシングルモルトウイスキーで高い評価を受けています。

ウイスキーとのペアリングディナー

ウイスキーはアルコール度数も高く、味わいや香りも強いので、食中酒に向かないといわれることもありますが、そんな固定概念を打ち破ったイベントがあります。

それは、2023年8月7日に行われた「HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION in Maruta」。

ハイランドパークを扱っている三陽物産が主催し、日本の地域創生に力を入れるONESTORY社がメルマガ会員に募集して抽選、無料で招待したイベントです。薪火料理の先駆けである「Maruta(マルタ)」の料理とハイランドパークのシングルモルトがマリアージュしました。

「Maruta(マルタ)」とは

Maruta(マルタ) (C) 東龍
Maruta(マルタ) (C) 東龍

「Maruta」は2018年に東京都の調布にオープンした一軒家の薪火料理店。都心から少し離れた立地を活かし、環境重視型の店づくりやローカルファーストな食材調達を心がけています。

シェフを務めるのは、1988年生まれの石松一樹氏。ミシュランガイドで星を獲得したこともある「KM(カーエム)」など都内有数のレストラ ンで研鑽を積み、2015年にオーストラリアへ。メルボルン市街のレストラン「Brae(ブラエ)」でシェフのダン・ハンター氏に師事し、「Farm to Kitchen(ファーム トゥ キッチン)」の考え方に感化。2017年に帰国して「Maruta」のシェフに就任しました。

「Maruta」シェフの石松一樹氏 (C) 東龍
「Maruta」シェフの石松一樹氏 (C) 東龍

マネージャー兼ソムリエを務めるのは外山博氏。バーテンダーとしてレストランやホテルなどに勤務した後、ソムリエに転身します。様々なレストランで経験を積み、2012年から代々木上原「Gris(グリ)」(現在「sio(シオ)」)のマネージャーに就任。2018年から「Maruta」のドリンクを監修しています。

今回はゲストバーテンダーとして野村空人氏も参加。21歳で単身渡英し、約7年間ロンドンのバーでバーテンダーとして活躍した後に帰国。「Fuglen Tokyo(フグレン トウキョウ)」でバーテンダーとして数々の賞を受賞し、多くのプロダクトもプロデュース。「バーとドリンクを通して食の多様性を拡張する」というビジョンをもちます。

3種類のウイスキー

ハイランドパーク 3種類 (C) 東龍
ハイランドパーク 3種類 (C) 東龍

当日用意されていたのは「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」「ハイランドパーク 15年 ヴァイキング・ハート」「ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド」の3種類でした。

「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」はハイランドパークの魂ともいうべき一本です。輝かしいアンバー色で、スモーキーながらも甘味が感じられる香りと味わい。

明るく透き通ったゴールドが美しいのが「ハイランドパーク 15年 ヴァイキング・ハート」。焦がしたシナモンのような香りを有し、バニラやレモン、フレッシュなパイナップルのような味わいがあります。

「ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド」はSpirits Journal(スピリッツ ジャーナル)誌の「ベスト・スピリッツ・イン・ザ・ワールド」に 2度輝いたこともある銘酒。光沢のあるゴールドがきらびやかです。円熟した花の香りがあり、とてもクリーミーで甘い余韻が長く続きます。

テイスティング

ハイランドパークのテイスティング (C) 東龍
ハイランドパークのテイスティング (C) 東龍

イベントの最初に行われたのはテイスティング。三陽物産の担当者である藤井氏によるレクチャーもあります。

色や粘性から樽、熟成年数、アルコール度数がわかること、香りのとり方=ノージングは少し離れたところからゆっくり慣らしていくこと、少し口に含み、口の中で転ばしながら、舌の色々な部分で味わうことを教わりました。

さらには加水すると揮発性が高まるので、それによって香りや味わいの変化を楽しめるということです。

3種類のハイランドパークを飲み比べられる上に、レクチャーまで受けられる貴重な体験だったといえるでしょう。

料理とのペアリング

料理とハイランドパークのペアリング (C) 東龍
料理とハイランドパークのペアリング (C) 東龍

次に行われたのは、料理とのペアリング。3種類のハイランドパークに合わせたフィンガーフードが提供されました。

「干し柿とマートルのサラミ」は、オレンジの爽やかな香りの中にピート香があるので、穏やかな「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」が最適。干し柿の輪郭をくっきり際立たせるようなペアリングです。

「ハイランドパーク 15年 ヴァイキング・ハート」はフレッシュなパイナップルの香りを有するので、これに風味が近いイチゴを用いた「いちごのソルベとモミの木」が合わせられました。モミの新芽もフレッシュで非常に爽やかです。

「揚げクッキーとカラスザンショウ」はペアリングがスムーズに決まったという一品。「ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド」は牛脂に絶対合うということで、牛脂を加えた揚げクッキーをつくりました。ココナッツのような風味を携えるカラスザンショウが心地よいアクセントです。

ブッフェスタイルに

ペアリングが終わると、会場の配置を変更してブッフェスタイルになります。4品の料理に、ハイランドパークのカクテルを自由に合わせるという、これまた面白い試みでした。

玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製

玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製 (C) 東龍
玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製 (C) 東龍

玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製 (C) 東龍
玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製 (C) 東龍

「玄米のリゾットと野草、ハーブ、コロダイの針葉樹燻製」は複雑味のあるハーブがコロダイの繊細な味わいをくっきりとさせます。

枝豆、牛脂、ミント、薪火クリーム

枝豆、牛脂、ミント、薪火クリーム (C) 東龍
枝豆、牛脂、ミント、薪火クリーム (C) 東龍

「枝豆、牛脂、ミント、薪火クリーム」は、枝豆の甘味が牛脂によってよりリッチになり、薪火クリームの薫香によって力強さも生まれていました。

ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル

ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル (C) 東龍
ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル (C) 東龍

ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル (C) 東龍
ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル (C) 東龍

「ナス、発酵じゃがいも、ハラペーニョと烏山椒、ホーリーバジル」は、茄子の旨味もさることながら、グリーンカレーのようなスープと、鳥山椒のアクセントが出色。

骨つき熟成牛、燻製大根

骨つき熟成牛、燻製大根 (C) 東龍
骨つき熟成牛、燻製大根 (C) 東龍

骨つき熟成牛、燻製大根 (C) 東龍
骨つき熟成牛、燻製大根 (C) 東龍

メインディッシュの「骨つき熟成牛、燻製大根」は骨付きならではの、旨味が凝縮された一品でした。

ハイランドパークのカクテル

ハイランドパークのカクテル (C) 東龍
ハイランドパークのカクテル (C) 東龍

ハイランドパークのカクテルも充実しています。「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」にはオレガノか柑橘、「ハイランドパーク 15年 ヴァイキング・ハート」にはドクダミか黒文字、「ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド」にはカカオハスクか八重桜の葉をチョイス。バリエーションが豊富なので、どの料理に何を合わせようかと迷うのも楽しいです。

炭火焼きMarutaケーキ

炭火焼きMarutaケーキ (C) 東龍
炭火焼きMarutaケーキ (C) 東龍

炭火焼きMarutaケーキ (C) 東龍
炭火焼きMarutaケーキ (C) 東龍

最後のデザートは「炭火焼きMarutaケーキ」でした。パウンドケーキを「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」の薪火でカラメリゼしており、他では絶対に食べられません。甘くて濃厚な味わいの中に、豊かな薫香が立ち上ります。このペアリングには、同じ幽香を有する「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」がぴたりとはまります。

美食評論家の見解

中村孝則氏 (C) 中村孝則
中村孝則氏 (C) 中村孝則

美食評論家であり、世界のベストレストラン50やアジアのベストレストラン50で日本のチェアマンを務める中村孝則氏は、ハイランドパークについて次のようにいいます。

「ハイランドパークは、個人的に好きなウイスキーブランドです。スコットランドの島の酒らしく、ピーティーかつスモーキーで野趣もありますが、とりわけアタックで柑橘や熟したフルーツとハーブ香があるのが特徴です。全体的にキリッとした凛とした味わいが気に入っています」

料理とウイスキーのペアリングについて訊きました。

「ウイスキーは食中酒としても楽しめます。特にハイランドパークのようなキャラクターの味わいは、ヨード香の強い海産物……生牡蠣や雲丹、貝類やホヤなどと相性がいいですね。スモーキーなアフターフレーバーは、ワイルドな薪焼きの料理にはぴったりです。今回は、薪火で仕上げたコロダイや骨つき熟成牛と相性が抜群でした」

最後にカクテルについても言及します。

「ハイランドパークは複雑な個性をもっています。自然の中の香りに共鳴して味わいが引き出されるので、店のガーデンで育てられているハーブとよく合っていましたね。今回はウイスキーを楽しむたくさんのヒントをいただき、想像以上に目覚めがあった素晴らしいイベントでした」

貴重なイベント

人類が最初に用いた調理法は火であるといわれています。

かたかったり、まとまりがなかったり、味気なかったりする食材も、火を通すことによって食味も食感も素晴らしくなり、ひとつにまとまります。ウイスキーの特徴は、泥炭を燃焼させるピート臭といわれる独特の香り。したがって、出自をともにする薪火料理とウイスキーが合わないはずがありません。

ウイスキーと料理のコラボレーションは、これからの新しい美食のスタイルを提案したイベントであったと、いえるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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