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「オミクロン株にはワクチンだけでは不十分」感染爆発が止まらない米国のウィズコロナ対策、次の一手とは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロサンゼルスでは人との接触が多い職場の従業員は高性能マスクの着用が義務化される。(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスによる1日の新規感染者数が、1月10日、140万人超と報告されて過去最多となり、感染爆発が続く米国。

 人口約1000万人のカリフォルニア州ロサンゼルス郡でも、1月9日、1日4万5000人超の新規感染件数が報告された。同郡ではこの1週間で1日平均11万5000人の人々が検査を受け、平均陽性率は20%を超えている状況だ。

医療従事者は陽性でも無症状なら隔離なしに職場復帰も可

 そんな中、筆者の周辺からは、感染爆発による人手不足のため、ビジネスに支障をきたしているという話が聞こえてくる。病院は医療従事者不足に陥ったり、手術がキャンセルされたりしている。

 相次ぐ医療従事者の欠勤から、カリフォルニア州公衆衛生局は、新型コロナ感染者と接触したり、検査で陽性になったりした医療従事者であっても、無症状であれば、隔離や追加検査をせずとも仕事にすぐに復帰して良しとするガイダンスを病院や介護施設にあらたに出した。それだけ人手不足が深刻化しているのだが、そんなガイダンスに対し、カリフォルニア看護師協会は患者や病院スタッフにリスクを与えることになると反対の声をあげている。

 レストランも従業員が感染して自宅療養していることから人手不足となり、店を開けられなくなる日が出てきている。コロナ検査キットを従業員に配布し、検査させているレストランもある。

 昨年の秋学期にようやく対面授業が復活した学校の中には、新学期の開始日を延期したり、オンライン授業に舞い戻ったりしている状況も見られる。

 輸送機関も混乱している。乗務員の感染で飛行機は欠航し、移動もままならなくなっている。ユナイテッド航空では3000人もの新型コロナ陽性者が出ているほどだ。

雇用主に対し従業員への高性能マスク配布を義務化

 しかし、市民の社会生活に影響を与えるほど感染が爆発していても、行政側がロックダウンなどの行動制限に踏み切る気配は感じられない。

 そんな中、ウィズコロナ対策で経済を回している米国が感染防止のために取ろうとしている“次の一手”が見えてきた。

 ロサンゼルス郡が取ろうとしている感染防止策に、“次の一手”が如実にあらわれている。それはマスクによる感染防止だ。しかし、マスクといっても、通常のファブリック製のマスクではない。より感染予防効果が高い高性能マスクによる感染防止だ。

 1月5日、同郡公衆衛生局は「オミクロン株による感染拡大を防ぐにはワクチンだけでは不十分」とし、雇用主が室内で人と接触することが多い従業員に対し、医療用マスクか、サージカル・マスクか、N95やKN95グレードのマスクを配布することを義務化すると発表したのだ。雇用主は1月17日までに、これらの高性能マスクを従業員に配布しなければならない。

 同郡公衆衛生局・局長のバーバラ・フェラー氏は義務化の背景について「感染爆発している状況から、多くの人々との密接な接触により感染するリスクが高まっている。そのため、家族以外の人々といる時はさらなる防護を行って、自身や愛する人たちを守ることが重要だ。他の従業員や公衆と接触する屋内の職場では、マスクをアップグレードすることが重要だ」と話し、娯楽施設でアップグレードしたマスクなしでいる時間を制限したり、市中感染が収まるまで様々な活動への参加を延期したりすることの重要性も訴えた。

米CDCもN95マスク推奨を考慮中

 ロサンゼルス郡は、職場での高性能マスク着用の義務化に先立ち、K-12(幼稚園年長から高校を卒業するまでの13年間の教育のこと)の学校に勤務する教員や職員に対し、高性能マスクの着用を義務化するとすでに発表している。

 また、南カリフォルニア大学も1月18日から始まる新学期の対面授業開始に際し、学生や教授、職員らにN95マスクか医療用マスクの着用を求めている。

 カリフォルニア大学アーヴァイン校公衆衛生学准教授のアンドリュー・ノイマー氏もマスクをアップグレードする必要性を力説している。

「私は屋内では今、N95マスクで感染予防している。感染力が高いオミクロン株が急拡大している状況を考えると、N95マスクにより、これまで行ってきた感染予防を強化することは重要だと考える」

 ロサンゼルス郡だけではなく、米国の連邦機関も“次の一手”として高性能マスクによる感染予防策の必要性を感じているようだ。1月10日付のワシントンポスト(電子版)は、米CDC(米疾病対策センター)も、N95やKN95のような高性能マスクを着用することができる人はそうするよう推奨することを考慮中であるとスクープしている。

 ホワイトハウスでもブレイクスルー感染が相次いでいることから、先週、KN95マスクが提供されることがスタッフに通達された。

 州もN95マスク対策に乗り出しており、ミルウォーキー州の公衆衛生局は50万個のN95マスクの配布をコロナ検査会場やワクチン接種会場で開始。コネチカット州も、600万個のN95マスクを無料配布すると発表している。

 ロックダウンのような行動制限策を取らず、ワクチン接種や定期的な陰性結果の提出に加えて、感染予防効果が高い高性能マスク着用を義務化することで感染力の高いオミクロン株に対処しようとしているロサンゼルス郡。

 1日1万人を超える新規感染者数が出た日本は、何らかの“次の一手”による感染予防対策を考えているのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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