Yahoo!ニュース

大気不安定で各地で大雨 地下空間への水害が注目されはじめた24年前の福岡水害

饒村曜気象予報士
地上天気図と衛星画像(6月29日9時)

消えた梅雨前線

 令和5年(2023年)6月29日は、沖縄・奄美地方以外は梅雨の最中ですが、日本列島から梅雨前線が消え、梅雨明けの様相となりました(タイトル画像)。

 この時期は、曇りや雨の日が多く、日射が少ないので、太陽高度が高い割には気温が極端に上がらないのが常です。

 しかし、今年のように、早く梅雨明けのような天気になると、例年の梅雨明けのときより、太陽高度が高い分だけ危険な暑さとなります。

 6月29日に気温が一番高かったのは静岡市で35.8度、次いで山梨県の勝沼の35.0度です。ともに、最高気温が35度以上という猛暑日となりました。

 また、最高気温が30度以上という真夏日は、374地点(気温を観測している915地点の約41パーセント)、最高気温が25度以上という夏日は、822地点(約90パーセント)にも達しています(図1)。

図1 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月29日)
図1 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月29日)

 6月27日~29日の暑さは、5月17日~18日、6月17日~18日に次ぐ、3回目の暑さということもできますが、前の2回は湿度が比較的低い時の暑さです。

 今回の様に湿度が高い暑さは、気温の数字以上に熱中症にかかりやすい危険な暑さです。熱中症には、例年以上に警戒してください。

低気圧が北日本を通過

 6月29日は日本列島から梅雨前線が消えたといっても、南海上の高気圧から暖かくて湿った空気が流入し、強い日射と相まって大気が不安定になりました。

 このため、広い範囲で局地的に雷を伴った非常に激しい雨が降りましたが、上空に入ってきた寒気は東海上にさりつつあったことから、前日、28日の様に、記録的短時間大雨情報を発表するほどの大雨は降りませんでした。

 6月30日は日本海で梅雨前線が顕在化し、前線上の低気圧が北日本に進む見込みです(図2)。

図2 予想天気図(左は6月30日9時、右は7月1日9時の予想) 
図2 予想天気図(左は6月30日9時、右は7月1日9時の予想) 

 このため、西~北日本にかけて広範囲で雨が降るでしょう。九州~東海、北陸では局地的に激しい雨となり、特に九州では非常に激しい雨が降って大雨となるおそれもあります。

図3 36時間予想降水量(6月29日21時~7月1日9時)
図3 36時間予想降水量(6月29日21時~7月1日9時)

 400ミリ以上の大雨が降る可能性があります。

 気象庁は、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を、「高」「中」の2段階で示しています。

 大雨警報についての早期注意情報によると、6月30日と7月1日は、九州から東北までの広い範囲で、「高」「中」が示されています(図4)。

図4 大雨に関する早期注意情報
図4 大雨に関する早期注意情報

 九州では、7月2日以降も「中」が示されていますので、かなりの雨が降る可能性があります。

 最新の気象情報を入手し、大雨に警戒してください。

【追記(6月30日10時25分)】

 気象庁は、6月30日10時0分に九州北部に、10時16分に九州南部に対して線状降水帯の半日前予報を発表しました。内容は、ともに、6月30日今後から7月1日午前中にかけて、線状降水帯が発生し、大雨のおそれがあるというものです。

 全国的に蒸し暑くなりますので、熱中症にも警戒です。

地下空間への水害が注目

 平成11年(1999年)の梅雨前線は、6月23日から7月3日にかけて活発となり、西日本から北日本の各地で土砂災害や浸水被害が発生しました。

 全国で死者・行方不明者39名、浸水家屋2万棟などの大きな被害でした。

 特に、6月28日から29日は、中部、四国、九州北部で1時間に100ミリ近い激しい雨が降っています(図5)。

図5 地上天気図(1999年6月29日9時)
図5 地上天気図(1999年6月29日9時)

 このとき、福岡市では、6月29日に1時間に79.5ミリという強い雨が降り、地下街に水が流れ込んで1人が死亡していますが、防災関係者は、地下街に水が流れ込み死者が出たということで、新しいタイプの水害が発生しはじめたのではないかとショックを受けています。

 そして、地下空間への水害が注目され始めました。

 今から24年前の話です。

 その約1ヶ月後、7月21日には東京都新宿区で、発達した雷雲により1時間に131ミリという雨が降り、地下室に流れ込んだ水で1名が死亡しています。

 また、翌12年(2000年)9月の東海豪雨では、名古屋市の地下鉄が浸水で最大2日間も運転を停止し、約47万人の足に影響しています。

 さらに、福岡市では、平成15年(2003年)7月の集中豪雨のときも、地下鉄などの地下空聞が浸水するなど、地下空間での水害が発生しています。

 都市部に拡大を続ける地下空間は、今後における水害対策の重要な課題となってきました。

災害の都市化

 都市化が進み、東京や大阪などの大都市を流れる河川の氾濫原には数多くの地下施設があります。

 地下鉄網がはりめぐらされ、ターミナル駅にはおおきな地下街があり、ほとんどのビルに地下階があります。

 一般家庭でも地下室が作られ始めています。

 地下空間へ氾濫流が進入するという新たな水害では、

・外の情報がわからないこと、

・地上が浸水すると一気に水が流れ込んでくること、

・浸水すると電気が消え、エレベーターは使えないこと、

・逃げようとしても水圧でドアが開かないことなど、

大規模災害の危険性を含んでいます。

 このため、地下空間の水害にどのように対処するかという検討が始まり、具体的な対策がとられています。

タイトル画像、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2、図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事