特別警報級といわれる台風10号と類似の台風
台風9号の温低化
沖縄から九州北部を暴風域に巻き込んだ台風9号は、韓国のプサン付近に上陸し、12時間後の9月3日(木)15時に中国東北区で温帯低気圧になると予想されました(図1)。
そして、予想通り北上を続け、9月3日(木)15時に中国東北区で温帯低気圧に変わりました。
台風9号から変わった低気圧は、日本列島に暖かくて湿った空気を持ち込み、大気が不安定になっています。
加えて、この低気圧の南側に吹いている西寄りの風は、日本の南海上にある台風10号の北側に吹いている東寄りの風がぶつかって日本列島に活発な積乱雲を発生させています。
このため、台風9号が日本列島から離れたといても、台風一過の晴天とはならず、所々で局地的な豪雨が発生しています。
気象衛星画像を見ると、台風9号から変わった低気圧による中国東北区の雲、台風9号と台風10号が共同して作った日本列島の雲、日本の南海上の台風10号の雲という、3つの雲の塊があります(タイトル画像参照)。
このうち、日本の南海上の台風10号は、特別警報級に発達するという予報がでています。
台風10号の発達
日本の南海上の台風10号は、今後も発達を続け、9月5日(土)午後には南大東島の南海上で、中心気圧915ヘクトパスカルの猛烈な台風に発達し、特別警報級の勢力になる見込みです。
そして、その後も特別警報級の勢力を維持したまま北上を続け、9月6日(日)には九州の南海上に達する見込です。
場合によっては、九州に上陸するおそれがあります(図2)。
台風のエネルギーは、台風の中心付近の積乱雲の中で水蒸気が凝結して水滴になるときに発生する熱です。
このため、熱帯の海上など、水蒸気が豊富な場所で発生・発達します。
台風が発生・発達する目安となっている海面水温は27度ですが、台風10号が発生した小笠原近海の海面水温は、31度もあります。
そして、水蒸気が豊富な30度以上の海域を通って、北上する予報になっていますので、台風10号は猛烈な台風まで発達し、あまり衰えることなく九州に接近、あるいは、上陸する懸念があります。
日本の南を中心とした海域の海面水温は、平年より2度以上も高くなり、特に、関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東の海域では、解析値のある昭和57年(1982年)以降で最も高くなっています。
つまり、小笠原近海から南大東島にかけて、台風10号の進路に当たる海域の海面水温が高いのは、今年、令和2年(2020年)の大きな特徴です。
気象庁では3時間毎の暴風域に入る確率を発表していますが、この暴風域に入る確率が一番高い時間帯が、ほぼ台風最接近の時間帯です。
例えば、沖縄県大東島地方は、9月5日(土)21時から6日(日)0時までと、6日(日)0時から3時まではほぼ100パーセントで、この頃に最接近です。
また、沖縄県の沖縄本島南部地方は6日(日)6時から9時までの確率が一番高く、鹿児島・日置地方は9月7日(月)の0時から3時が一番高く、それぞれ、この時間帯が最接近です(図3)。
台風に関する特別警報
気象庁では、平成25年(2013年)8月30日から、気象災害、水害、地震、噴火などの重大な災害が起こるおそれが著しく大きい場合には、特別警報を発表し、最大限の警戒が必要と呼び掛けています。
特別警報の発表基準は、災害の種類によって違いますが、台風による特別警報の発表基準は、沖縄・奄美・小笠原を除く日本本土と周辺離島では、中心気圧930ヘクトパスカル以下または最大風速が毎秒50メートル以上の台風です。
また、沖縄・奄美・小笠原諸島では、910ヘクトパスカル以下または最大風速60メートル以上の台風が来襲する場合です。
台風の統計がとられている昭和26年(1951年)以降では、930ヘクトパスカル以下で上陸した台風は、3個しかありません(表)。
昭和36年(1961年)の台風18号(第2室戸台風)、昭和34年(1959年)の台風15号(伊勢湾台風)、そして、平成5年(1993年)の台風13号の3つです。
特別警報が発表となる台風は、強い雨や風による大災害に加えて、大規模な高潮によって多数の死者がでる可能性がある台風です。
気象庁では、9月2日(水)、台風10号が発生した翌日の、台風がまだ発達していない段階で、「これから台風が発達して特別警報を発表するほどになる」との記者会見をしています。
対策の遅れを懸念し、かなり前から警戒を呼び掛けるという異例の措置です。
また、気象庁は、特別警報を発表する場合は、台風上陸の12時間前に発表するとしています。
真夜中に台風が上陸する場合でも、防災対策が取りやすい昼間のうちに特別警報が発表になります。
そして、特別警報を発表する24時間前に予告の発表をするとしています。
これらのことは、いかに気象庁が危機感を持っているかのあらわれです。
類似の台風
台風による特別警報が考えられる過去の例として、気象庁が記者会見で示した昭和34年(1959年)の伊勢湾台風があげられます。
上陸時の中心気圧が929ヘクトパスカルで、発生した大規模な高潮によって5000名以上がなくなりました。
正確な記録のある台風被害の中では、最悪の死者数です。
昭和36年(1961年)の台風18号(第2室戸台風)は、伊勢湾台風より気圧が低い、925ヘクトパスカルで上陸し、大阪湾で大きな高潮が発生しています。
しかし、2年前の伊勢湾台風の教訓が活かされ、早めの避難が行われました。
物的損害は大きかったのですが、死者は約200名と、当時は人的被害が小さかったといわれました。
今から見れば、死者200名は大災害ですが、大きな台風がくれば1000名単位で亡くなっていた時代の話です。
令和2年(2020年)の台風10号が予想されている台風経路は、伊勢湾台風とも、第2室戸台風とも違っています。
今回の台風10号の予報に似たコースを通った台風として、昭和29年(1954年)9月13日に鹿児島県の枕崎付近に上陸した台風12号があります(図4)。
ただ、この台風は、日本の南海上で910ヘクトパスカルまで発達したものの、北上するにつれて衰え、945ヘクトパスカルくらいで上陸しました。
当時の海面水温のデータがありませんので、断定はできませんが、海面水温は今年ほど高くはなかったと思われます。
とはいっても、九州を中心に、死者・行方不明者が約150名などの大きな被害が発生しました。
また、太平洋戦争中の昭和17年(1942年)8月27日に、中心気圧が935ヘクトパスカルと推定されている台風が九州の西岸を北上し、周防灘で大きな高潮が発生しています(図5)。
そして、周防灘台風とよばれる、この台風によって、山口県を中心に1100名以上が亡くなっています。
台風10号以後も
気象庁の長期予報では、9月も日本の南海上では積乱雲の発生が多いとなっており、9月の台風発生数は、少なくとも平年通りの4から5個は発生すると思います。
ただ、数の多少より、海面水温が高い状態が続くため、勢力が強いものが発生し、日本に衰えずに接近してくる可能性が高いというのが問題です。
台風10号のように発達し、あまり衰えずに接近することが、これからも起こりえます。
令和2年(2020年)は、例年以上に台風に対して警戒が必要な年です。
タイトル画像、図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。
図3、図4、表の出典:気象庁ホームページ。
図5の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。