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勤労統計不正、再集計の結果はどうなった?

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
厚生労働省は、不正調査のあった毎月勤労統計の再集計結果を公表。どう変わったか?

厚生労働省は、1月23日に、不正調査のあった「毎月勤労統計調査」について、再集計可能な2012年以降のデータについて、再集計結果を公表した。

資料が保存されていない2011年以前については、現時点で復元不能として、再集計結果は2012年1月以降のみとなった。

そもそも、不正調査問題は、東京都内の従業員500人以上の事業所について、全数調査すべきところを3分の1程度の抽出調査しかしていなかった。それに加えて、抽出調査であるにもかかわらず、全数調査に匹敵するデータにするための統計学的な補正を行っていなかった。そのため、再集計前のデータは、そうした補正を行っていない不正確なデータだった。

この度、東京都内の従業員500人以上の事業所は、抽出調査のままではあるが、必要な修正を加えた上で再集計結果を2012年1月以降について公表した。再集計前のデータは引き続き、その旨を明記した上で公表し続けている。

そこで、毎月勤労統計の賃金指数について、再集計前のデータと再集計後のデータを比較してみた。それが、冒頭の図である。

賃金指数は、2018年6月に、対前年同月比で3.3%の上昇となり、21年5か月ぶりの大きな伸び率となったことから話題になった。ある意味で、この不正問題が発覚する遠因になったともいえる。ここでの賃金指数とは、調査対象全産業の事業所規模5人以上で働くすべての従業員が受け取る現金給与総額をとり、2017年平均を100としたものである。

今回の再集計の結果、2018年6月の賃金指数の対前年同月比上昇率は、2.8%と0.5%pt低かったことが判明した。冒頭の図で、2018年6月に折れ線グラフが突出して上がっているものの、「再集計前」よりも「再集計後」の方が低くなっていることが、それを表している。

ただ、すべての月で、「再集計前」よりも「再集計後」の方が低くなっているわけではないことも、冒頭の図から見てとれる。概ね、2018年や2015年から2016年にかけては、再集計後の方が賃金上昇率が低くなっている。他方、2013年から2014年にかけては、再集計後の方が賃金上昇率が高くなっている。月単位でなく、6か月単位で賃金上昇率を見たのが、次の図である。

賃金指数(調査産業計・事業所規模5人以上)対前年同期比 出典:厚生労働省「毎月勤労統計」
賃金指数(調査産業計・事業所規模5人以上)対前年同期比 出典:厚生労働省「毎月勤労統計」

 

2014年4月に消費税率が引き上げられた後、賃金の伸びが低かったとされるが、再集計前よりも再集計後の方が2014年の賃金上昇率は高かったことが明らかとなった。さらに最近で言うと、2018年の賃金上昇率は、再集計公表前より低いことが明らかとなった。

統計不正は、経済実態の正確な把握を妨げたり、政策判断を誤らせたりしかねないだけに、今後は再発防止が不可欠だ。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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