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シリア:停戦下の反体制派支配地域で発生した反アサド・デモをアル=カーイダ系組織ヌスラ戦線が弾圧

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

米国とロシアによるシリアでの敵対行為停止合意発効(2月27日)後初の金曜日となる3月4日、イドリブ県、ダルアー県、アレッポ県内の反体制派支配地域各所で、アサド政権の打倒を求める反体制デモが発生した。

シリア人権監視団によると、デモが行われたのは、アレッポ県アアザーズ市、アターリブ市、アレッポ市バーブ・ハディード地区、ヒムス県タルビーサ市、ダマスカス郊外県ダイル・アサーフィール市、ドゥーマー市、ダルアー県ダルアー市、ナワー市、フラーク市、ヤードゥーダ村、ナスィーブ村、ブスラー・シャーム市、ジーザ町、イドリブ県ジャルジャナーズ町、サラーキブ市、マアッラト・ハルマ村、マアッラト・ヌウマーン市などで、クッルナー・シュラカーによると、参加者は数千人に達した。

同様のデモは停戦発効以降、散発的に発生していたが、デモへの対応をめぐって垣間見えるアル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」の不協和音は、両者が反体制派支配地域で混在している実態を改めて浮き彫りにした。

ファトフ軍の中心拠点イドリブ市での反体制デモを「執行部隊」が弾圧

アル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」の不協和音は、3月7日にイドリブ市で発生した反体制デモにおいて露呈した。

アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動が主導する反体制武装集団の連合体であるファトフ軍が2015年3月に制圧し、その行政、司法を統括してきたイドリブ市で、この日、活動家たちが反体制デモを組織した。だが、ほどなく同市の「執行部隊」(治安警察に相当)がこれに介入し、強制排除、その際にデモ参加者らが暴行を受け、活動家数名が逮捕、またデモ参加者らが掲げていた「シリア革命」旗(フランス委任統治時代のシリア国旗)、通信機器が破壊された。

ARA Newsによると、デモを弾圧したのは、ヌスラ戦線の治安委員会だったという。

この弾圧を受け、活動家らは、ファトフ軍に対してデモ弾圧の理由を明らかにするよう求めるとともに、弾圧の責任者の処罰、逮捕者の釈放、デモ参加者への謝罪を要求した。

対応に追われるアル=カーイダ系組織

イドリブ市内で発生した活動家との不和を受け、ヌスラ戦線、そしてファトフ軍に所属する各組織は対応に追われた。

ヌスラ戦線広報局報道官を務めるアブー・アンマール・シャーミー氏は、自身のツイッターのアカウントでファトフ軍の全部隊に反体制デモを保護する責任があると綴り、再発防止を訴えた。

またファトフ軍を指導するサウジアラビア人説教師のアブドゥッラー・ムハイスィニー氏は、ツイッターにおいて、イドリブ市での反体制デモの弾圧を「過ち」だと批判、「人々が独裁者に立ち向かうことを阻止するべきでない」と綴った。

一方、ヌスラ戦線とともにファトフ軍を主導するシャーム自由人イスラーム運動も声明を出し、イドリブ市での反体制デモの弾圧を行った「執行部隊」にメンバーは参加していないと発表、関与を否定した。

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停戦下の「正当」な空爆を回避しようとする反体制派支配地域住民

米国とロシアによる敵対行為停止合意では、戦闘停止の対象外となる地域、すなわちダーイシュ(イスラーム国)とヌスラ戦線の支配地域を確定する旨、定められており、両国はこの地域を示した地図を交わしている。

しかし、この地図は公開されておらず、イドリブ市のようにアル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」が混在する地域が、停戦地域に含まれるのか否かは判然としない。

ロシア軍、そしてシリア軍は2月27日以降もイドリブ県各所で軍事作戦を継続しているが、イドリブ市内での反体制デモ弾圧から垣間見えるアル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」の混在状態こそが、ロシア軍、シリア軍の攻撃を正当化する根拠となっている。

そして、こうした「正当」な空爆は、ファトフ軍の支配を受け入れてきた住民にも変化をもたらしているようだ。

3月8日、シリア軍はイドリブ県アブー・ズフール町一帯に対して激しい空爆を実施、地元活動家らによると、民間人とされる20人以上が死亡、約40人が負傷した。

停戦発効以前であれば、「無差別」空爆はシリア政府、そしてそれを後援するロシア、イランへの非難に直結した。だが、アブー・ズフール町の住民は、シリア軍による「正当」な空爆の再発を回避するべく、ヌスラ戦線の司令官(アミール)に対して、同地からの撤退を進言、これを受け入れさせたのである。

ファトフ軍支配地域では、このほかにも、対トルコ国境に位置するアティマ村のシリア人避難民キャンプにヌスラ戦線が突入し、強制捜査を実施、「指名手配者」と銃撃戦となり、少年1人が巻き添えとなって死亡する事件が発生している。

停戦発効から2度目の金曜日(11日)を控え、ファトフ軍の治安委員会は、イドリブ県内各所で活動家が呼びかけている反体制デモで「シリア革命旗」の掲揚を認めないよう関係各位に通達、これを受けデモ主催者は同委員会と会合を持ち、掲揚自粛に応じたという。

シリアの現下の混乱は、アサド政権に対する反体制デモが起点となり、ヌスラ戦線、そしてダーイシュに代表されるアル=カーイダ系・非アル=カーイダ系のイスラーム過激派は混乱に乗じるかたちで勢力を伸張した。「アラブの春」波及から5年目を迎えようとしているシリアで、反体制デモは今度はアサド政権の弱体化ではなく、「シリア革命」をハイジャックしたイスラーム過激派の足下を揺さぶりつつある。

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本稿は2016年3月上旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事は「旬刊シリア情勢」を参照ください。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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