トレーニング効果に期待大 アメフトの世界を劇的に変えるVR
全米から注目を集める最大のスポーツイベントといえば、アメリカンフットボールのスーパーボウルでしょう。視聴率は毎年45%以上。視聴者数も1億人を超え、30秒当たりのCM料は約6億円に達します。2016年に開催されたスーパーボウルのハーフショーには、ビヨンセやコールドプレイら人気アーティストが駆けつけ、会場を沸かせました。
そんなテレビ史に残る記録を叩き出す場――、裏方では最新技術が駆使されているのは想像に難くありません。そこで今回は、プロアメリカンフットボールリーグNFLに影響を与えているテクノロジーの中から、VR(仮想現実)に焦点を当ててみたいと思います。なお、VRについては既に多くのメディアで紹介されているので、基本情報については今回省きます。
スポーツ選手が試合相手を研究する際に、過去の試合映像を見ることは有効な手段といえます。この時、VRを駆使することで、そのシミュレーションの質を更に高めることが期待できます。同領域において活躍しているVR企業がSTRIVR Labsです。NFLに所属しているSan Francisco 49ers、Arizona Cardinals、Minnesota Vikings、Dallas Cowboysの4チームが、既に同社VR技術をトレーニングで活用しています。
現在のVR体験は、ユーザー1人で没入するものが多いです。しかし、その一連のトレーニング映像をプロジェクターに投影し、コーチを含めた複数人によるプレイ確認を行うことで、フィードバックの質を大きく高められます。米CBS傘下のTV番組で公開されているSTRIVR社デモ映像で、そのイメージが湧くでしょう。
VRによる試合の追体験――、そのトレーニング効果を特に期待されているのがクォーターバックです。プレーを指示する攻撃の司令塔として、広い視野や高い判断力が求められるポジションとなります。College Footballのインタビューにおいて、VRトレーニングを導入しているスタンフォード大学アメフトチームのヘッドコーチは「1週間に5分行うだけでも大きな価値がある」と評しています。想定した動きをフィールド上で試してみたい時、それらを手軽に行なえる上、ケガなどのリスクも回避できるためです。同チームは2015年のPac-12カンファレンス・フットボール・チャンピオンシップを制する好成績をおさめており、結果にも結びついているといえます。
一口にVRでトレーニングするといっても、その切り口には様々なものがあります。例えば、ゲーム形式のVRコンテンツを作り出す――、あるいは実際の練習シーンを撮影してから360度動画として投影・応用することも考えられるでしょう。それらの中で、現時点において評価を集めているのは後者です。臨場感ある練習・視点を追体験することにより、自らの動きの検証を事細かに行えます。
一方、観客にとってもVRは有用です。特に、VR技術の一つである360度動画において、Replay Technologies社の freeD 技術が躍動感あるプレイシーンを実現しています。freeD 技術を用いた映像を再生すると、視聴者はプレイシーンを360 度展開して見渡せられます。お気に入りの選手や決定的瞬間をあらゆる角度から見返したり、そのポイントをSNS上にシェアすることも可能です。(アメフトを含めた他のデモ映像については同社公式動画ページから視聴できます)
まさに、自らテレビ番組のディレクターとなって視点を自由に切り替えたり、フィールド上のスポーツ選手となって試合へ参加しているような気分を味わえます。これらは既に現場で導入されている技術ですが、マイクロソフトがこのほど配信したNFL観戦イメージ動画は、近未来の世界観を描いています。なお、同社は2月29日、AR(拡張現実)ヘッドマウントディスプレイ「Hololends」開発者向けキットの予約受付を開始したばかりです。
今回はアメフトに焦点を当てていますが、米スポーツ誌Sports Illustratedは、2015年にスポーツ界に影響を与えた技術「Innovation of the Year」としてVRを選出しています。また、ゴールドマン・サックスはビデオレポートにおいて、世界のVR/AR市場が2025年までに約800億ドル(約9兆円:現在のデスクトップPC市場規模)まで拡大すると予測しており、同社テレコミュニケーションズ関連のビジネス部門リーダーは「今のVRはハードコアゲーマーが利用するものと考えられがちだが、我々の日常生活に衝撃を与えつつある存在だ。それらは不動産、ヘルスケア、教育など多岐に渡っている」と話しています。
VRを体験したことがある方の中には、(時に高すぎる)装着前の期待値と装着後の感想に多少のギャップが生じた方がいるかもしれません。この点について、先日スマホゲーム大手コロプラのVR担当者へインタビューした際、次のように語っていました。
VRのビジネスとしての本格的な立ち上がりは 3 年後、あるいはもっと先かもしれません。ただ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOを初め、次のプラットフォームがVR だと確信している人々は着々と準備を進めています。それに加え、コカ・コーラが12缶パックの空き箱を、マクドナルドがハッピーミール(日本のハッピーセット)の空き箱をVRビューワーにしたりと、名立たる企業が自らの事業活動へ積極的に取り入れています。
日本国内においても、Tokyo VR MeetupやOcuFesなどの関連イベントに参加する度に、その熱気の高まりを感じます。一般普及に対する課題もあげられますが、それらの多くは時間の問題でしょう。中長期への期待感は高まる一方です。