Yahoo!ニュース

【美容医療の未来】業界No1プラットフォーム「トリビュー」が拓く可能性と課題解決策

土橋克寿クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト
トリビューの公式情報より

美容医療の国内市場が年々拡大している。2017年には年間320万件の施術が行われ、2024年時点の市場規模は7000億円を超えた。医療技術の進歩や芸能人の公表などにより、より手軽に理想の自分に近づくことができるようになった一方で、情報の非対称性やリスクのある施術・薬剤の存在など、業界内には課題も多く残されている。そこで、日本最大の美容医療プラットフォーム「トリビュー」の毛迪CEOに話を伺い、業界の現状や今後に目を向けた。

拡大する美容医療市場と業界の課題

美容医療市場が拡大する日本、その市場規模は中国、アメリカ、ブラジルに次ぐ世界第4位。美容医療と聞くと整形手術を連想しがちだが、実は自由診療の美容領域全般を指す言葉だ。切開術などを行う美容外科、シミ除去や脱毛を含む美容皮膚科、歯科矯正やホワイトニングの審美歯科、この3つが美容医療の主要分野となる。

近年、美容医療が身近になった理由の一つが、シミ取り1万円といった手軽なメニューの登場だ。エステやデパコスと同程度の価格設定で、気軽に受けられるようになった。加えて、医療機器の技術進歩により、痛みが少ない効果的な施術の増加も、敷居を下げている。

しかし、急成長を遂げる美容医療業界には、課題も潜んでいる。日本では医師免許があれば、国内未承認の薬剤や医療機器を個人輸入し、自由に使用できる世界的にも稀な状況だ。厚生労働省の承認基準が非常に高いことも影響しているが、被害が報告されている危険性のある薬剤だと学会で警鐘を鳴らしても、法的規制がないため、医師の判断で使用し続けることが可能だ。

美容医療に関する消費者センターへの相談は年々増加傾向にあり、市場の拡大と共に問題点も浮き彫りに。実際、聖心美容クリニックの「美容整形経験者600人に聞いた美容整形の実態調査」によると、美容整形経験者の65.2%が「クリニック選びをもっと慎重にすべきだった」と後悔しているという。

美容クリニックは急増しており、月20〜30件ほどの新規開業が続き、現在は全国4,000件以上に上る。大手クリニックからの独立医師や事業会社の参入も増え、差別化が図れないと価格競争に陥りかねない。さらに、マーケティング人材不足から、一方的な広告発信に留まっているクリニックも少なくない。美容医療業界は、急成長ゆえの成長痛に直面している。市場の健全な発展のためには、消費者とクリニック双方の課題解決が不可欠だ。

クリニックの口コミ例(トリビューより)
クリニックの口コミ例(トリビューより)

日本最大の美容医療プラットフォームの目指す世界

美容医療プラットフォーム「トリビュー」を運営する株式会社トリビューは、2017年設立のスタートアップだ。同社の美容医療・整形の口コミ予約アプリ「トリビュー」は累計100万ダウンロードを突破し、月間37万人が利用する業界ナンバーワンプレイヤーへと成長した。

「ありたい自分でいられる世界を実現する」というミッションを掲げる同社。毛迪CEOは、外見と自己肯定感には大きな関連性があり、外見は人生に大きな影響を与える要素の1つだと指摘する。ユニリーバの調査では、日本の10代女性の自信のなさが世界平均と比べて際立っており、世界の10代女性の46%が「自信がある」と答えたのに対し、日本ではわずか7%。「自信がない」と答えた人の48%が、「容姿が原因でやりたいことで諦めたことがある」と回答している。

「容姿の悩みで人生の機会を諦めることなく、ありたい自分でいられるように、美容医療を選択肢の1つとして提供しています。AGA治療で抜けた髪を再び生やしたり、レーシックで視力を回復させたりと、医療でしか実現できないことは多いです。化粧では一時的な効果しかない鼻を高く見せたり、肌を綺麗に見せたりすることも、美容医療なら根本的な解決につながります。こうした技術の選択肢をユーザーに届けていきたい」(毛CEO)

トリビュー経由のユーザー支出額である累計流通額は150億円を超え、前年比で単月売上が170%と成長を続ける。しかし、それでも市場シェアは約1%にとどまり、さらなる拡大の余地は十分にある。

クリニックの予約画面(トリビューより)
クリニックの予約画面(トリビューより)

信頼性と蓄積データ

トリビューのサービスの特徴は、大きく4つある。1つ目は「迷わない」ことだ。悩みに応じた美容医療の体験談や適切なメニューが見つかる。2つ目は「リアルがわかる」点だ。価格情報やクリニックごとの口コミを集計し、満足度や選ばれる理由をデータ化、各クリニックの特徴が客観的に分かる。3つ目は「簡単」な予約だ。クリニックの予約枠の空き状況を一覧で確認でき、条件に合ったクリニックを探せる。4つ目は「安心」だ。口コミの本人確認を徹底し、領収書や手術日が分かるものを提出しないと公開できない仕組みを採用している。

特に「安心」へのこだわりは、美容医療業界の課題解決としてユーザーに支持されている。実際、ユーザーから届いた声を読むと、「トリビューがなかったら、私は思い通りの施術を受けられず笑顔で居れなかったかもしれません。本当に感謝しています」など、強い思いが散見された。

他の口コミサイトでは誰でも投稿できるところが多いが、トリビューでは予約履歴がある人や証明できる書類を提出した人のみが口コミを公開できる。さらに、ユーザーが顔出しで施術の経過や価格、医師を選んだ理由など、写真付きで詳細な体験談を投稿する。

口コミの審査プロセスでは、NGワード(死にたいなど)の自動検出システムを活用しつつ、社内でチェック用マニュアルを作成、業務委託先とも連携しながらヒトの目で全件チェックしている。また、危険性が指摘されている薬剤や施術をプラットフォーム上で扱えないよう、独自のガイドラインを設けている。法律で規制されていなくとも、新たに学会などで注意喚起された危険性のある施術や薬剤は、メニュー掲載ができない仕組みだ。

この結果、トリビューの強みとなる独自データが蓄積されていく。悩みに対する人気の施術やメニュー、施術の平均価格や腫れの期間、医師やクリニックごとのレーティングや選ばれる理由などが分かる。クリニックのホームページではなんでもできるように見えても、トリビューでは医師の得意領域がより可視化される。ユーザーの情報比較に役立ち、ミスマッチを未然に防ぐ。

「匿名の誰でも書ける口コミと、弊社のように本人確認や領収書での事実確認がなされ、ユーザーが顔出しで投稿している審査済みの口コミでは、信頼性が全く異なります。社会的意義を意識しながら、トリビューが信頼できる情報を載せているサービスであるという認知を確立していきたい」(毛CEO)

以前の美容医療業界の状況

2017年にトリビューを立ち上げる前、毛CEOは自身も美容医療の情報収集に苦労していたという。当時は2ちゃんねるやYahoo!知恵袋などが主な情報源で、一般人が実名で体験談を公開するものはほとんどなかった。

「日本にも口コミサイトはあったものの、特定のクリニックに誘導されているケースがありました。中立的で信頼できるサービスがあまりなかったのが日本の状況でした」(毛CEO)

そこで中国や韓国の先行事例を参考に、日本の事情に合わせたサービス設計でトリビューを立ち上げた。立ち上げ当初の2年間は、口コミ収集に注力。アメブロやTwitterの鍵付きアカウントのコミュニティなど、様々な方法で投稿を呼びかけた。初期ユーザーは、100万円以上の大きな施術をする層が多く、医師選びやダウンタイムの情報を求めていた。

また、SNSやブログの口コミは、書き手が伝えたいことを自由に書いているので、情報収集する側が知りたいことが書かれていないことがあった。そこで、投稿のフォーマットを意識的に設計。写真の撮り方を誘導したり、ユーザーが知りたい情報を項目化して、それに沿って書いてもらうようにした。このフォーマット作りは繰り返し改善を重ね、有用な情報が集まる流れをつくっていった。

設立から2年後の2019年、一定のユーザー数がついたタイミングで、予約機能を導入し始めた。一般的に、個人への情報の非対称性を解決するサービスを運営しながら、その相手方となる法人の売上に直接関与していくのは、ハンドリングが難しい。トリビューでは、この情報の透明性とクリニックの利便性のバランス問題について、ネガティブな口コミの削除依頼があっても一切削除しない運用をしている。

「クリニック側に納得していただけるようにコミュニケーションを取ることは行いますが、ユーザーの信頼を損ねるような対応は控えています。透明性を担保することで、長期的にはユーザーとクリニックの双方にとってメリットがあると考えています」(毛CEO)

ネガティブな口コミの内容として多いのは、施術後の姿が理想と違ったというのが主な投稿内容だ。だからこそ、理想の姿に近づくためには、その施術が得意で、かつ自分好みのテイストに仕上げてくれる医師やクリニックをしっかり情報比較して選ぶことが重要になるという。

「美容師選びと同様、医師にもテイストの違いがあります。症例写真を見て、自分の好みに合った変化を実現してくれる医師を選ぶという使い方が多いですね」(毛CEO)

ドクターの予約画面(トリビューより)
ドクターの予約画面(トリビューより)

よりライトなユーザー層への拡がり

トリビューの調査によると、日本国内の15〜49歳の女性2400万人のうち、40%の975万人が美容医療を検討しているという。同社へのアクセスは、美容外科が3〜4割、残りの6〜7割が美容皮膚科という構成で、よりライトなユーザー層が拡大傾向にある。

美容医療市場における男性の割合は20%ほどだが、トリビューから予約されるデータでは、男女で施術内容はそこまで変わらない。男性の場合は、髭の脱毛やニキビ跡やシミ取りなどの肌治療が多く、40代以降ではくま取りなども伸びている。ただ、同社ではまだ男性向けのマーケティングを強化していないこともあり、ユーザー比率は5%ほどだ。

同社の収益構造は2つ。1つは手数料で、売上の8割を担う。ユーザーの悩みに合った施術やクリニックとのマッチング時に、その流通額から手数料をクリニック側から受け取るモデルだ。もう1つは、クリニックに対する、ユーザー視点・マーケット視点からのマーケティングサポート。クリニック向けの月額プランで、1万円から20万円までの幅があり、メニューの上位表示や記事広告などのオプション広告商品も提供している。

美容医療業界では一般的に、クリニックの売上の20〜25%ほどを広告宣伝費に充てているため、集客が非常に重要だ。その中で、トリビューはクリニックの売上に直結する送客の部分で貢献しているのが最も大きなポイントだ。トリビュー経由だけで、月に2,000万円以上の売上があるクリニックもあるという。

現在、提携クリニックは850院以上あり、日本全国の美容クリニックの約20%をカバー。湘南美容クリニックや高須クリニックなど、積極的にプロモーションを行っている大手クリニックはほぼカバーできている。

「大都市部は十分な選択肢があるものの、地方ではまだ選択肢が少ない地域もあるので、日本全国どのエリアでも、どの施術メニューでも選択肢が揃っている状態を目指して拡大していきたい」(毛CEO)

トリビューの毛CEO
トリビューの毛CEO

美容医療業界の健全な発展へ

美容医療の市場規模は日本の方が韓国よりも大きいが、韓国の方が美容医療への浸透度が高い印象がある。この潜在的な意識の差について、変化の兆しはあるのだろうか。

「10代、20代の若い世代だとほとんど変わらない感覚があります。高校生の頃からクラスメイトと一緒に二重整形の話をしたり、美容医療を当たり前のこととして隠さない風潮があります。若い世代では、日韓の意識の差はほとんどなくなり、美容医療はもはやタブーではなく、自己表現の一つとして捉えられているように感じます。ただ、手軽に受けられるようになった分、安全面への配慮や情報の透明性はより一層重要になってくるでしょう。弊社としても、信頼できる情報を発信し続けることで、業界の健全な発展に寄与していきたいです」(毛CEO)

現在のトリビューは施術を探すことがメインだが、将来的にはソリューションの幅を広げていく方向性だ。具体的には、美容クリニックで処方される医薬品やドクターズコスメなども情報として取り扱い、月1回の施術だけでなく日常的なケアもサポートできる形を目指す。

「将来的には自社製品の開発なども視野に入れており、日本に入ってきていない優れた薬剤や機器を海外から調達したり、スキンケア製品などを病院と共同開発したりと、サプライヤーとしての展開も考えています。医療に軸足を置いてソリューションを提供し、美容医療領域で当たり前に使われるプラットフォームを目指していく」(毛CEO)

また、クリニック側の利便性向上も進めていく。現在はトリビュー独自の管理画面をクリニック側へ渡し、そこに予約が一覧で表示される仕組みだが、自由診療クリニック向けの業務システムを提供している会社と協業し、トリビューからの予約がクリニック側の予約枠に自動的に反映される状態を作るなど、業務効率化への寄与に繋げていきたいという。

拡大し続ける美容医療業界においては、情報の透明性を高めることが大切だ。ただ、医療の専門性を担保しつつ、一般ユーザーにとって明快で有益な情報を、継続的に届けるのは簡単ではない。クリニック側へ一方的に、情報発信の負担を増やす形も望ましくないだろう。だからこそ、特化型プラットフォームの果たす役割は大きい。消費者とクリニック双方の課題解決が進み、美容医療市場が健全に発展していくことに期待したい。

クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト

1986年東京都生まれ。大手証券会社、ビジネス誌副編集長を経て、2013年に独立。欧米中印のスタートアップを中心に取材し、各国の政府首脳、巨大テック企業、ユニコーン創業者、世界的な投資家らへのインタビューを経験。2015年、エストニア政府による20代向けジャーナリストプログラム(25カ国25名で構成)に日本人枠から選出。その後、フィンランド政府やフランス政府による国際プレスツアーへ参加、インドで開催された地球環境問題を議題に掲げたサミットで登壇。Forbes JAPAN、HuffPost Japan、海外の英字新聞でも執筆中。現在、株式会社クロフィー代表取締役。

土橋克寿の最近の記事