Yahoo!ニュース

【DX加速】デジタル庁も導入!高齢者にも簡単操作のUI改善ツール「テックタッチ」とは?

土橋克寿クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト
テックタッチの公式サイトより

高齢化や公務員の人手不足が進展する中、自治体のウェブサイトや行政システムのユーザビリティ向上が急務となっている。しかし、そのための有効な手段を見出せずにいるのが現状だ。そんな中、注目を集めているのがノーコードのガイド・ナビゲーションツール「テックタッチ」だ。200社を超える大手企業への導入実績を持つ同サービスは、自治体の課題解決の切り札になるかもしれない。本記事では、同社のソリューションがDX推進において果たす役割について探る。

公共サイトにおけるユーザビリティの重要性

デジタル化が加速する現代社会において、公共機関のウェブサイトは市民にとって必要不可欠な情報源となっている。しかしながら、これまで多くの公共サイトでは、情報の整理が不十分で目的のページへの到達が困難であったり、専門用語が多用されていて内容の理解が難しかったりと、ユーザビリティの面で課題を抱えてきた。情報格差の問題は看過できない状況にあり、デジタル庁が掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を実現するためには、ウェブサイトのユーザビリティ向上が不可欠である。

こうした中、デジタル庁が運用する「調達ポータル」に最近導入されたのが、Webシステム画面上でナビゲーションを作成・表示するクラウドサービス「テックタッチ」だ。従来、システム会社への発注が必要だったサイト訪問者のための動線設計を、パワーポイントを使うような感覚で実現できる。

テックタッチによってクリック動線が稼働している「調達ポータル」
テックタッチによってクリック動線が稼働している「調達ポータル」

例えば、「利用者情報の登録方法を知りたい」というサイト訪問者のために、吹き出しで「利用者情報を登録するためのボタン」を案内し、ボタンクリックした後のステップも迷わず進められるような、自由度の高い動線設計を簡単に拡張できる。これまで自治体が外注に頼ると数ヶ月もかかっていたウェブシステム画面の改善が、担当者自身の手で数時間で行えるようになったのだ。

「テックタッチ」は、レガシーシステムへの導入も簡単で、これまでにも神戸市や横浜市で採用されてきた。市のホームページへの年間アクセス数が1.2億回に上る神戸市役所では、2022年から2023年にかけてテックタッチの実証実験が実施され、問い合わせ件数が40%削減、FAQ閲覧率が2.3倍に上昇するなどの成果を上げたという。

同社は2024年5月、地方公共団体職員向けの内部事務システムが構築・運用されているLGWAN(総合行政ネットワーク)に対応すると発表した。今後は庁内向けシステムへの展開も本格化していくとのことだ。

大企業でのDX推進

ガートナー社のレポートによると、世界のDXツール市場規模は340億ドルに上る。GDP比率から換算すると、日本国内の同市場規模は約9520億円に達する。テックタッチ社はこの市場において、大企業を中心に導入が進む社内システム、SaaS企業を中心としたWebサービス(Webシステム)、官公庁や自治体の各種システム、という3つの領域に対して事業を展開している。

前述した公共セクターに関する同社の売上比率は、現時点では5%に留まる。対して、70%を占めるのが大企業向けだ。実際、テックタッチの導入先には、IHI、あいおいニッセイ同和損保、サントリー、大日本印刷、東京ガス、トヨタ自動車、三菱商事、三菱UFJ銀行、LINEなど、数百社を超える名だたる大手企業が名を連ねる。

各社に支持されているテックタッチのソリューションは、既存のシステム画面の上に1枚の薄いレイヤーを被せ、ナビゲーションを表示するという特徴を持つ。これには2つの利点がある。

1つ目は、ブラウザの拡張機能により、作成したナビゲーションを呼び出す点だ。対象システムに対して開発や改修を行う必要がないため、セールスフォースやSAPなどの導入済みシステムを含む、あらゆるウェブシステム画面上にナビゲーションを被せられる。

2つ目は、このナビゲーションを完全にノーコードで作成できる点だ。マニュアル作成でIT部門やSIerを介するプロセスを大幅に短縮し、業務フローを熟知している業務部門が直接ナビゲーションを作成できる。

加えて、同社のソリューションには、外資系を中心とした競合他社にはない独自性がある。それは、あらゆるシステム環境でナビゲーションを安定的に動作させる技術力と、顧客のオペレーション改善を支援するコンサルティング機能だ。後者においては、30名規模の専門チームを抱え、各業務領域に特化した知見を提供している点が、日系大企業からの支持を集める要因となっている。

テックタッチの井無田仲CEO(テックタッチ社提供)
テックタッチの井無田仲CEO(テックタッチ社提供)

DXを実現するためのアプローチ

ただし、DXを真に実現するためには、新たなシステムツールを導入するだけでは不十分である。業務プロセスや従業員の働き方そのものを見直し、最適化していく必要がある。この点を、日系大企業での利用率も高い統合基幹業務システム(ERP)の事例から見てみよう。

SAP社などが提供するERPは、グローバル標準の機能を使うことを推奨しているが、日本企業の中には現場の使いやすさを重視し、画面を過剰にカスタマイズしてしまうケースがある。これはERPの思想に反し、効果が出にくい状況を招いている。そこで、テックタッチのソリューションを活用し、標準機能はそのままに、画面のUI/UXのみをカスタマイズするプロジェクトが増えている。テックタッチの井無田仲CEOは次のように説明する。

「例えば、各社毎のルックアンドフィール(システムやソフトウェアの外観や操作感)も実現できます。システム操作に迷うことなく、ERPのシステム本来の標準機能を活かすことができるわけです。このようなプロジェクトでも、効果が出始めているところです」

日本企業では、システム導入だけで満足したり、UIの問題等からシステムを導入してもオペレーションが変わらないケースが多い。そんな現状に対し、テックタッチのソリューションは、オペレーション正規化も含めることで、DXの本質を追求する上で有効なアプローチとなり得る。テックタッチの最も大きな提供価値について、井無田CEOは「各社がシステム導入で意図していた効果を引き出せることだ」と強調する。

テックタッチが解決する課題(テックタッチ社提供)
テックタッチが解決する課題(テックタッチ社提供)

システム導入効果と社員の意識変化

システムに対する社員の意識改革も、テックタッチ導入の効果の一つだ。井無田CEOは次のように説明する。

「お客様からは、システムに対する社員の意識が大きく変わったと聞きます。従来は、システムを『IT部門が導入した使いにくいもの』と敬遠していましたが、自分たちでナビゲーションやUI/UXを変えられるようになると、『自分たちでシステムを良くしていく』というマインドセットに変わります。フィードバックも積極的に出すようになるなど、意識の変化が見られます」

この意識変化は、業務効率の大幅改善という定量的効果も促進している。例えば、商船三井では生産性向上を目的に新たな経費精算システムを導入していたが、設定の制限などで運用がうまくいかず、マニュアルや動画を作成しても読まれない、使われないという課題が発生していた。そこで、テックタッチを導入し、ガイドとツールチップを設置することで、システムの利活用を促進しつつ、マニュアル作成工数を大幅削減。結果的に、問い合わせ率は33%、差戻し率は79%も削減したという。

さらに興味深いことに、テックタッチの成果は重厚長大な企業にとどまらない。教育現場のDX推進でも、注目すべき成果を上げている。大日本印刷(DNP)が提供する「DNP学びのプラットフォーム リアテンダント」は、2023年6月時点で全国3100校に導入されている教員向けデジタル採点システムだ。このシステムにテックタッチを導入したところ、顕著な効果が見られた。システムの利用時期が限定的で操作方法を忘れがちだった教員や、初めて利用する教員の自己解決率が向上し、コールセンターへの問い合わせ数が50%も削減された。さらに、教員同士の教え合いが促進され、システムの活用も進み、DNP担当者は「テックタッチの満足度は100点」と評価したという。

誰も取り残さないDXの実現へ

同社のソリューションは、公共機関から大企業、さらには教育現場まで、幅広い組織のDX推進に貢献している。身近な場面では、高齢者が公共機関のウェブサイトを使いこなせず、窓口に来庁したり問い合わせが増えたりしている状況の改善に役立っている。年齢や技術レベルに関係なく、誰もが必要な情報にアクセスできる社会の実現に一歩近づいているのだ。

急速なデジタル化の進展に伴い、業務効率化と利用者満足度の向上が求められる中、同社のようなUI改善ソリューションは、DXの本質を追求する上で欠かせないツールとなるだろう。テックタッチの事例が示すのは、真のDXにはシステム導入だけでなく、オペレーションの変革が不可欠だということだ。今後、同社のようなソリューションが、より多くの企業や組織のDX推進を加速させていくことが期待される。

クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト

1986年東京都生まれ。大手証券会社、ビジネス誌副編集長を経て、2013年に独立。欧米中印のスタートアップを中心に取材し、各国の政府首脳、巨大テック企業、ユニコーン創業者、世界的な投資家らへのインタビューを経験。2015年、エストニア政府による20代向けジャーナリストプログラム(25カ国25名で構成)に日本人枠から選出。その後、フィンランド政府やフランス政府による国際プレスツアーへ参加、インドで開催された地球環境問題を議題に掲げたサミットで登壇。Forbes JAPAN、HuffPost Japan、海外の英字新聞でも執筆中。現在、株式会社クロフィー代表取締役。

土橋克寿の最近の記事