くしゃみをするときの「鼻つまみ」「息止め」は厳禁 気管が破れることも
くしゃみは気道に大きな圧負荷をかけますが、圧出する空気を大気に開放させず、「鼻つまみ」や「息止め」をおこなうと、気道が傷害されるリスクがあります。実際に、気道が破れて穴が開いてしまった事例が報告されており、注意が必要です。
くしゃみのエネルギー
鼻がムズムズすると、ふいにくしゃみが出ますが、くしゃみというのはかなり複雑なメカニズムで起こっています。主に、脳神経である三叉(さんさ)神経が関与しています。
くしゃみの威力については、速度は自家用車くらい、飛距離はエアロゾルで最大7~8メートルに到達します。「くしゃみの速度は新幹線くらい速い」という都市伝説は医学的に誤解だということが分かっています(1)。
くしゃみはその圧負荷の大きさから、臓器にいろいろな傷害を起こすことがあります。たとえば、15歳の男の子がくしゃみをして肺が破れてしまったという報告があります(2)。また、激しいくしゃみによって、横隔膜や脾臓に損傷を起こしたという報告もあります(3,4)。
「内部爆発」させて我慢するのはNG
普通にくしゃみをするだけでなく、実は「人為的に我慢することは問題だ」という見識があります。
乗車中の30代の男性がくしゃみが出そうになったので、鼻をつまんで口を閉じて、空気の呼出を我慢したところ、気管に穴が開いてしまったという事例が報告されています(5)。これは、鼻をつまんで、いわば「内部爆発」させるということで、誰しも経験があることかと思います。この男性は、直後に首の痛みが出現し、気管のまわりに空気が漏れていることが判明しました。
くしゃみ発作が出る前に鼻をすすったりして、出ないようにする行為は問題ないのですが、この事例のように出口にフタをした状態で「内部爆発」させるようなくしゃみは問題になります。
―――何が問題なのでしょうか。
「ボイルの法則」を覚えていますか。これは、温度が一定のとき、気体の圧力と体積は反比例関係にあるというものです。私たちはくしゃみをする寸前、肺の体積を大きくして息を吸い込んでいます。そして吐き出す瞬間、肺をしぼませて体積を小さくします。出口にフタをしてしまえば、小さくなった肺の唯一の脱出口である気管にかかる圧力は相当なものになります(図)。
くしゃみは、上気道から1キロパスカルの空気を噴出させるパワーがありますが、出口にフタをされた状態だと、その気道内圧は5~24倍になると言われています(6)。
特に男性の場合、肺活量もくしゃみの音もダイナミックですから、気管にかかる圧負荷は女性よりもはるかに大きいのです。
過去に顔面や頸部に大きなケガをしたことがある人では、こういったくしゃみによって眼球を守る骨が折れたり、脳神経系に影響を与える圧がかかる事態になりかねないため(7)、決してくしゃみを「内部爆発」させないよう注意してください。
まとめ
では、「内部爆発」を避けて大きな声でくしゃみをしてよいかというと、それはまた別問題です。
特に男性の場合、大きなくしゃみになってしまいがちです(8)。エチケットという点では服の袖で覆うなどの工夫はあったほうがよいでしょう。
(参考)
(1) 「くしゃみの速度は新幹線より速い」は本当か? コロナ禍の研究で判明した真の速度(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220423-00291885)
(2) Bourne CL. J Emerg Trauma Shock. 2013;6(2):138-9.
(3) Reinhold GW, et al. Clin Pract Cases Emerg Med. 2017;1(3):190-193.
(4) Karangizi A, et al. Ann Thorac Surg. 2013;96(1):301-2.
(5) Misirovs R, et al. BMJ Case Rep. 2023;16(12):e255633.
(6) Rahiminejad M, et al. Comput Biol Med. 2016;71:115–127.
(7) Setzen S, et al. Am J Rhinol Allergy. 2019;33(3):331-337.
(8) オジサンのくしゃみの音が大きな理由は? 激しいくしゃみで肺が破れることも(URL:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/061b5132f57626400b08c76d5cb71a598cba3224)