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バルサはギュンドアンと契約内定。ラ・リーガ優勝では足りない「メッシ降臨」の意味

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:アフロ)

 2022−23シーズン、FCバルセロナ(以下バルサ)はラ・リーガで優勝を飾っている。シャビ・エルナンデス監督が率い、最小失点を誇った。アンドレアス・クリステンセン、ジュル・クンデなどを獲得したことにより、ロナウド・アラウホ、テア・シュテーゲンが真価を発揮。守備の再建が戦いを安定させた。おかげで攻撃陣も補強組が好調で、ロベルト・レヴァンドフスキは得点王に輝き、ラフィーニャも右肩上がりだった。

 では、バルサは復権したのか?

バルサはラ・マシア

 まず、バルサとは何なのか?それを改めて考える必要があるだろう。

「バルサはラ・マシアである」

 そう語ったのは、バルサ中興の祖と言えるヨハン・クライフだった。すでに答えは出ている。

「ボールを持っていれば失点せず、得点できる可能性がある」

「スリータッチでプレーするなら誰でもできる。ダイレクトでのプレーを磨け」

「無様に勝つな、美しく散れ」

 下部組織ラ・マシアでは一貫した哲学、理念を伝える。そこからチームを司るグアルディオラ、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツなどを育ててきた。また、そのスタイルの中でリオネル・メッシのような神がかった才能の降臨を待った。実直で忍耐強いアプローチがあったからこそ、神々のような選手たちが“降臨”した。

 クライフ、フランク・ライカールト、ジョゼップ・グアルディオラが采配を振って最強を誇った時代、要所にラ・マシア出身選手がいた。グアルディオラ監督時代は一気にラ・マシアの才能が開花し、メッシを筆頭に、シャビ、イニエスタ、カルラス・プジョル、ブスケッツ、ジェラール・ピケ、ビクトール・バルデスなどが欧州を席巻した。

 ラ・マシア組が中心になることで、バルサらしさも体現することができる。

 しかしながら、シャビ率いるバルサはレヴァンドフスキ、ラフィーニャ、ウスマン・デンベレ、ペドリ、フレンキー・デヨング、ジュル・クンデ、アンドレアス・クリステンセン、テア・シュテーゲンなど“外様選手”が軸を担っている。欧州王者マンチェスター・シティの32歳MFイルカイ・ギュンドアンとの契約内定もすでに報じられる(3年契約で、年俸1000万ユーロ)。外様時代は一つの流れのようだが…。

外様選手の役割

 もちろん、過去にも外様選手は大きな役割を担ってきた。彼らがラ・マシアを化学反応させたし、強さを増幅させたとも言える。

「3、4人のスーパーな選手やラ・マシアから生まれない異色の選手は不可欠」

 そうした掟もある。

 クライフ時代はミカエル・ラウドルップ、フリスト・ストイチコフ、ロナウド・クーマン、ロマーリオ、ライカールト時代はロナウジーニョ、サミュエル・エトー、グアルディオラ時代はダニ・アウベス、ダビド・ビジャなどワールドクラスの選手がチームを牽引した。ストライカーやオールコートで戦える強度のあるMF(例えばホセ・マリア・バケーロ、エドガー・ダービッツ、ケイタなど。現在はラ・マシアからもガビのようなMFが輩出されつつある)も貴重な助っ人となった。

 翻って、今のバルサはどうか?

 まず、ラ・マシアで育った希代のプレーメーカー、ブスケッツを呆気なく手放してしまった。真剣に交渉したら、もう2年はトップレベルでできただろう。その間にバレンシアにレンタル中のラ・マシア出身MFニコ・ゴンサレスを呼び戻し、受け継がせるべきだったが・・・。

 現在ユース年代からのラ・マシア組で新たにトップに定着したと言えるのはガビ、アレックス・バルデだけで、ジョルディ・アルバも退団するなどバルサ色は確実に薄れつつある。

 クラブは補強のための交渉に熱心だが、そもそもファイナンシャルフェアプレーの問題があり、選手を売却しないと移籍が成立しない。ブスケッツが去った中盤の補強だけでもギュンドアンだけでなく、ジョシュア・キミッヒ(バイエルン)、マルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)、ソフィアン・アムラバト(フィオレンティーナ)、マルセロ・ブロゾビッチ(インテル)に食指を動かしているが、交渉は難航中だ。

 あえて言うが、他のチームにブスケッツの代わりなど見つからない。

バルサ・アスレティックは昇格できず

 シャビ監督は中盤二人、左利きセンターバック、右サイドバック、アタッカーの補強も求めているという。連日、候補選手の名前が紙面を賑わすが、今も契約には至っていない。繰り返すが、財政難で売却できない限り、補強はできない。有力選手への色気を見せるのは手っ取り早く結果を残そうとし、大きく失敗する可能性も低いからだが・・・。

 ラ・マシア軽視では、バルサはアイデンティティを失う。

「クライフがバルサに来て、ボールを大事にする考え方をラ・マシアに定着させなかったら、自分はプレーしていなかったかもしれない。ロングボールを蹴り、セカンドを狙う形だったら・・・」

 そう語っているのはシャビだが、進んでいる道はズレていないか。 

 驚くべきことに、アンス・ファティも放出候補だと伝えられる。ファティはラ・マシアが生んだ本物のFWで、シューターとしては天才的。本人も「バルサと契約がある」と語っている通り、資金繰りのコマではないはずだが・・・。

 ラ・マシア全体が、今の流れに失望感を漂わせるのか。

 セカンドチームに当たるバルサ・アスレティックは2部昇格プレーオフまで勝ち抜き、宿敵カスティージャ(レアル・マドリードとのセカンドチーム)と対戦した。1レグでは勝利したが、2レグで呆気なく逆転されてしまった。停滞感が十分に力を引き出させなかったとすれば・・・。左利きセンターバック、シャディ・リアドなど能力が高い選手も、安価で資金稼ぎのために売却される可能性もあるという。

 シャビ監督自身が、ラ・マシア出身のスター選手だったことを考えると皮肉である。たとえ勝ち続けて、タイトルを増やしても、バルサの進むべき道として正義なのか。勝利のたび、バルサらしさが失われているとしたら・・・。

 7月10日、バルサは新シーズンのスタートを切る。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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