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『デビルマン』アニメ版は「変身すると、傷口も広がって痛い!」が弱点だった。これ、科学的にどうなのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

『デビルマン』といえば、「不朽の名作」と謳われる永井豪先生のマンガの印象が強い。

だが、この作品には、マンガと同時進行で作られたアニメ版もあって、その雰囲気はマンガとぜんぜん違う。マンガは人間の奥底をえぐるような深い作品だけど、アニメはバトルを中心とした明るいヒーロー番組なのだ。

「人類を滅ぼそうとするデーモンに、デビルマンが立ち向かう」という基本設定は、マンガとほぼ同じ。

ただ、マンガ版で不動明が自らデビルマンになる道を選んだのに対して、アニメ版では、デーモン族の英雄・デビルマンが、人類攻撃の拠点として不動明に乗り移り、人間社会に潜入する。

それがなぜデーモン族と戦うことになるかというと、不動明のガールフレンド・牧村美樹に一目惚れしてしまったから。いきなり美樹にデレデレになってしまい、「俺は美樹の言うことしか信じない」とまで言い放っていた。それはそれでオモシロイ!

他にも、不動明がデビルマンに変身したときの大きさが、マンガでは「やや巨大になる程度」という印象だが、アニメでは「最大12m」にまでグ~ンと巨大化。

そして、ここが本稿で注目したいところなのだが、不動明のときにケガをしていたら、デビルマンに変身して巨大化すると、傷も大きくなって痛みが増す!

しかもそれが、アニメにおけるデビルマンの弱点なのだ。

これ、空想科学的に考えるとどうなのだろう? 

もしケガをした人が巨大化したら、それだけ痛みも激しくなってアタリマエなのだろうか。

◆変身するなり、痛みで失神!

『デビルマン』のアニメで「痛み増大」の実態を見てみると、こんな感じだ。

第1話では、変身前の不動明のときに足をケガしていた。美樹を助けるためにデビルマンに変身したが、明は「これ以上の巨大化は無理だ。巨大化すれば傷口も広がり、痛みも増す」と言って、4~5mくらいの大きさに留めていた。

第2話でも、妖鳥シレーヌの策略に引っかかり、不動明の姿で背中を大きく負傷。デビルマンに変身&巨大化したはいいが、モーレツに傷が痛んだようで、「ぐわわわ~」と苦しみ続ける。

やがて転倒して民家を破壊、そのまま気絶した!

シレーヌは「生身で受けた傷は、巨大化すればするほど大きくなる。デーモン一族なら誰でも知っていることではないか!」とアザ笑っていたが、ヒーローが出現するなり、悶絶失神するとはオドロキである。

◆「発痛増強物質」とは!?

この「巨大化すると傷口も大きくなるから、痛みも激化する」というのは、科学的にも正しいのだろうか?

ケガで痛みが発生する仕組みを調べたところ、なんとモーレツに正しいことがわかった!

「傷を負うと痛いのは、神経があるから」と思ってしまうが、神経は刺激の伝達経路にすぎない。

痛みを感じるのは、神経の先端にある「受容器」という細胞群だ。受容器には4種類あって、それぞれが専門的に「熱さ」「冷たさ」「圧力」「痛み」を感じる。

ならば、痛みの受容器を刺激されなければ痛くないかというと、そんなことはない。痛みの発生する仕組みにはもう一つあって、それは細胞が破壊された場合。

ケガをして細胞が壊れると、ブラジキニンやヒスタミンなどの「発痛物質」が作られ、傷みの受容器を刺激する。

体が「細胞が破壊されたぞ、何とかしないと危険だぞ」という警告を発しているわけで、この仕組みがあるからこそ人類は生き延びてこられた、ともいえる。

注目は、このとき同時にプロスタグランジンなどの「発痛増強物質」が作られ、刺激を増幅することだ。

発痛増強物質!

何も痛みを増強せんでも……と思うが、少々の痛みではムチャをして命を落とすヤツがいるから、ってことなんですかね。カラダは神秘に溢れている。

◆うわっ、343倍も痛い!

この仕組みのもと、ケガをした不動明が変身&巨大化してデビルマンになったら、どうなってしまうのか? 

巨大化しても傷みの受容器の数は増えないと思うが、破壊される細胞の体積は大きくなるから、大量の発痛物質と発痛増強物質が生産されることだろう。それらが、傷みの受容器を盛大に刺激する!

不動明の身長を1m70cmとすると、デビルマンが最大身長12mになった場合、巨大化率は7倍だ。そして、ケガした部位=破壊された細胞の総体積は7×7×7=343倍に……!

痛みの激しさが、発痛物質&発痛増強物質の量に比例するならば、実に343倍も痛くなるのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

この状況下、デビルマンはどうすればよいのだろうか。

劇中では、デビルマンは「体を元に戻せば、傷も小さくなるはず」と言って不動明に戻っていたけど、科学的にはやめたほうがいいかもしれない。

発痛物質&発痛増強物質は、もう作られてしまったのだ。小さくなったからといって、それらが消えてなくなるわけではない。

むしろ、小さな傷口に大量の発痛物質および発痛増強物質が充満して、よけいに痛くなる可能性も……。

つまり、ケガをしているのに巨大化しちゃったのがすべての間違い。その一線を越えたら、苦しみは爆発的に増大し、もはや逃れる道はないのだ。不動明は、絶対にケガをしてはならない。

彼は二階の窓から飛び降りるなど、乱暴な行為を乱発していたけど、デビルマンに変身するヒトなんだから、品行方正な日常生活を送ったほうがいい。

肌を露出しないように夏でも長袖を着て手袋をはめ、急いでいるときもそ~っと歩き、友達に何か言われても決してケンカせず……。

うーん、不動明の魅力が激減してしまうな。科学的には、それをおススメしたいんだけど。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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