トンガ海底火山噴火:海域火山が多く存在する日本でも起こりうる「火山津波」、理解と備えを
昨年から活動が続いていたトンガ王国のフンガトンガ・フンガハアパイ火山で、15日に大規模な噴火が起きた。15kmの高さまで噴煙が立ち上がり、2000km以上離れたニュージーランドでも爆発音が聞こえたと言う。噴火の詳細はまだ不明であるが、噴煙の規模からすると、世界的な寒冷化も引き起こした1991年のフィリピン、ピナツボ火山の噴火と同程度、約100億トンのマグマを放出した可能性がある。これは日本史上最大規模の864年の富士山貞観噴火や1914年の桜島大正噴火をやや上回る。
今回の噴火では近隣諸国で1m程度の津波が観測された。そしてトンガから8000km離れた日本では、最大1.2mの津波が観測され、漁船の転覆などの被害が出たほか、多くの人々が避難を余儀なくされた。
海底火山が引き起こす津波
火山活動によって発生する津波は、これまでにも多くの被害を出してきた。2018年には、インドネシア、クラカタウ火山の噴火に伴う津波で400人以上が犠牲となった。また1万5000人と言う我が国の火山災害史上最多の犠牲者を出した津波災害(島原大変肥後迷惑)は、1792年に島原半島周辺で起きた。これらはいずれも火山活動によって山体が崩壊して、岩屑流が海へと流れ込んだことが原因だ。
一方で今回のフンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火では噴火そのものは海底で起きたようだ。そうであるならば津波の原因が山体崩壊とは考えにくい。まだよくわかっていないことも多いが、現時点で考えられる今回の津波発生のメカニズムは図に示すようなものだ。
(a)海底で噴火が起きると、噴出したマグマやその熱でガス化した海水が海面を押し上げ、その波が津波となって広がる可能性がある。
(b)大規模な噴煙が立ち上がると重力バランスが崩れて噴煙柱が崩壊し、巨大な火砕流が発生して海へ突っ込むと津波が発生する可能性がある。
(c)多量のマグマが噴出した結果海底カルデラが形成され、この陥没に伴って津波が引き起こされる可能性がある。
(d)噴火によって発生した衝撃波が伝わる際に海面に波を励起し、これらが重ね合わされることで津波となる可能性がある。
今回の噴火の後、日本では2hPa程度の気圧変化が太平洋側から日本海側へと同心円状に広がることが観測され、それを追うように津波が到達した。また津波の周期は海底地殻変動に伴う場合に比べて短い。これらのことから、(d)のメカニズム(噴火によって発生した「衝撃波」による津波発生)が働いた可能性が考えられる。今後フンガトンガ・フンガハアパイ火山周辺での調査結果が明らかになれば、(a)〜(c)のメカニズムの評価もできると期待される。
いずれにせよ大切なことは、太平洋のどこかで津波が発生した場合には、日本列島沿岸域では太平洋の島々に比べて波高が高くなることだ。海が浅くなるために伝播速度が小さくなり、後から来る津波と重ね合わされることで波高が高くなる。また、東日本大震災で大きな被害を受けたような内湾(リアス海岸)では、津波のエネルギーが集中するためにさらに波高が高くなる。
日本の活火山の3分の1は海域火山
我が国は地球上の活火山(過去1万年以内に噴火した火山)の約7%、111座が密集する世界一の火山大国だ。また四方を海に囲まれた島国であるために、活火山の約3分の1が伊豆小笠原諸島や南西諸島などの海域に存在する。したがって、今回と同規模、またはさらに大規模な海底火山噴火が日本でも発生する可能性は十分にある。
例えば今から7300年前に九州南方沖の薩摩硫黄島周辺で起きた超巨大噴火では、巨大津波が近隣の島々のみならず現在の大分県や高知県、さらには三重県にまで到達したことが明らかになっている。またこの噴火では火砕流が海を渡って九州南部まで到達し、火山灰は東北地方にまで達した。
島国に活火山が密集する地帯に暮らす私たちは、今回の海底火山噴火と津波の発生を他山の石として認識し、過去に幾度となく起きたように、噴火した火山の周辺だけでなく日本の大部分が火山灰に覆われるような事態を想定して、火山災害への備えを進める必要がある。、
念のために申し上げておくが、トンガと日本列島で火山噴火は連動することはない。1つ1つの火山は独自に活動している上に、決してプレート運動が活性化しているわけでもない。世界一の火山大国に暮らす者として、冷静に今後すべきことを考えることが肝要だ。