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遊園地やショッピングモールが危ない 夏休みの子ども、犯罪から守るには?

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:アフロ)

もうすぐ夏休み。夏休み中は、子どもだけで過ごす時間が膨らみ、留守番する機会も増える。海水浴やキャンプ、夏祭りや花火大会など、ワクワクするイベントも多くなる。

そのため、親子ともども開放的な気分になりやすく、警戒心は乏しくなる。しかし、ひとたび事件に巻き込まれたら、せっかくの夏休みが台無しだ。そうならないよう、「知識のワクチン」を打って「犯罪の免疫」をつけてほしい。

子どもがいそうな場所が危ない

アフリカの大草原サバンナでは日々、肉食動物(ライオンやチーターなど)による草食動物(シマウマやインパラなど)の狩りが行われている。肉食動物は水場へ狩りに行く。草食動物が水を飲みに集まってくるからだ。

では、子ども狙いの犯罪者たちハンターは、どこへ狩りに行くのか。

犯罪者にとって、獲物のいそうな場所は「人が集まる場所」である。草食動物がいそうな水場が、肉食動物にとって格好の狩り場になるように、人がいそうな場所が、犯罪者にとって格好の狩り場になるわけだ。

実際、4人の子どもを誘拐・殺害した宮﨑勤も(1988年~1989年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)、学校周辺や団地、つまり子どもがたくさんがいそうな場所に出没していた。その意味で、海水浴やキャンプ、夏祭りや花火大会など、「子どもが集まる場所」は、それ自体が子どもを狙った犯罪者を引きつける

夏休みに始まった東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の連れ去り現場(筆者撮影)
夏休みに始まった東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の連れ去り現場(筆者撮影)

親子で出かける遊園地やショッピングモールも、「犯罪者を引きつける場所」なので、子どもだけの行動は避けるのが無難だ。

ちなみに、公共の場所で子どもを一人にすることは、欧米では児童虐待と見なされ、絵本『はじめてのおつかい』も、アメリカでは出版できないという。

「うちの子」を見ているのは親だけ

「子どもが集まる場所」で特に警戒すべき犯罪は、誘拐と性犯罪である。どうすれば、こうした犯罪を防げるのか。

防犯のグローバル・スタンダード「犯罪機会論」が製造した「知識のワクチン」は、「入りやすく見えにくい場所では最大限の警戒を」がその中身だ。

レジャー施設やショッピング施設は、だれもが「入りやすい」。では、「見えにくい」はどうだろう。

そこには、たくさんの人がいる。しかし、人が多い場所では、人の注意や関心が分散し、視線のピントがぼけてしまう。そのため、犯罪者の行動が見過ごされやすい。

例えば、長崎市で男児が男子中学生に連れ去られ殺害された事件(2003年)では、買い物客でにぎわう家電量販店が誘拐現場となった。とかくこういう場所では、親は「だれかがうちの子を見てくれている」と思いがちだ。しかし実際は、だれも「うちの子」を見てはいない。「うちの子」にスポットライトを当てるのは親だけである。

長崎の事件でも、「当時、店内は会社帰りのサラリーマンや中高生でにぎわっていたというが、有力な目撃情報は寄せられていない」と報じられている。

このように、不特定多数の人が集まる場所では犯行に気づきにくい。

傍観者効果で視界不良に

仮に犯行に気づいたとしても、そういう場所では、犯行が制止されたり、通報されたりする可能性も低い。というのは、人が多い場所では、犯行に気づいても、「たくさんの人が見ているから、自分でなくてもだれかが行動を起こすはず」と思って、制止や通報を控える傾向があるからだ。

その場に居合わせた人全員がそう思うので、結局だれも行動を起こさない。その様子を見てだれかが行動を起こすかと言えば、そうはならない。今度は、「だれも行動を起こさないところを見ると、深刻な事態ではない」と判断してしまうのだ。

このような心理は、「傍観者効果」と呼ばれている。プリンストン大学のジョン・ダーリー教授と人間科学センターのビブ・ラタネ所長が、実験によってその存在を証明した。

例えば、あなたが一人で電車に乗っているとしよう。そこに見知らぬ男が乗り込んできた。と思いきや、バタッと床に倒れた。この場合、あなたは必ず助けるだろう。だが乗客が30人いたらどうだろう。この場合、一人ひとりの責任は30分の1に減る。そのため、自分でなくてもだれかが助けるだろう、と判断するかもしれない。

熊本市のスーパーマーケットのトイレで女児が殺害された事件(2011年)では、犯人の男子大学生が店内で4時間も女児を物色していた。買い物客や従業員に異様な感じを与えそうだが、ここでも傍観者効果が生まれてしまったようだ。

要するに、レジャー施設やショッピング施設は、心理的に「見えにくい場所」なのである。

景色解読力がキーワード

森や林には、物理的に「見えにくい場所」が多いが、海や川も水面下は物理的に「見えにくい場所」だ。

ちなみに、「水中の格闘技」と呼ばれる水球では、水面下で水着を引っ張ったりする反則が多かったため、水中の透明度を高める化学薬品をプールに流し込むようになったという。

水着を着る機会を利用して、「水着ゾーン」を教えることも大切だ。

水着を着ると隠れる場所を見せたり、触らせたりする人や、そこを見たがったり、触りたがったりする人がいたら、「ママ(またはパパ)にダメと言われている」と断り、親に伝えるように教えよう。

自宅で一緒に遊んでくれる顔見知りの犯行も多い。自宅に招き入れれば、そこはもはや「入りやすく見えにくい場所」である。訪問者が帰った後に、子どもが発する異変のサインにも気をつけたい。

子どもだけで留守番するときも、玄関ドアを開けたら、自宅は「入りやすく見えにくい場所」になってしまう。したがって、インターホンが鳴っても出なくていい。もっとも、消音するには及ばない。静かすぎると、空き巣に狙われるからだ。

同様に、固定電話は留守番電話に設定し、電話が鳴っても出なくていい。親とは携帯電話で連絡を取り合えるのが望ましい。

「知識のワクチン」の主要成分は、「景色解読力」である。景色解読力とは、景色に潜む危険性に気づく能力だ。学校用語で言えば、「危険予測能力」ということになる。要するに、犯罪が起きやすい「入りやすい場所」と「見えにくい場所」を見抜く能力のことである。

それを伸ばすのが「地域安全マップづくり」。地域安全マップは、夏休みの自由研究にもってこいのテーマだ。

この地域安全マップづくりを疑似体験する動画がある。アニメーションを見ながら、仮想の街を歩き回り、景色を見て考える。フィールドワークの過程で、景色解読力が自然に高まる内容だ。親子でチャレンジしてみてはどうだろう。

防犯アニメ「あぶないとこって、どんなとこ?」

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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