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日テレ「強力チーム」が手がける、ドラマ『東京タラレバ娘』の楽しみ方

碓井広義メディア文化評論家

吉高由里子主演『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)は、“アラサー女子のリアル”を旗印としているドラマだ。

売れない脚本家の倫子(吉高)、ネイリストの香(榮倉奈々)、実家の居酒屋を手伝っている小雪(大島優子)の3人は高校時代からの親友。いつも小雪が働く居酒屋に集まり、「ああしていたら」「こうなっていれば」と、恋や仕事のタラレバ話で盛り上がっている。

アラサー女子の勘違い?

そこへ現れたのがモデルのKEY(坂口健太郎)だ。いきなり、「そうやって一生、女同士でタラレバつまみに酒飲んでろよ!」と3人を一喝。タラレバ娘たちは凍りつく。

そうこうするうちに進展ありで、倫子は、かつて自分が失恋させた(振った)ADで、現在はプロデューサーの早坂(鈴木亮平)にアプローチする。しかし、玉砕。居酒屋で酔いつぶれたことから、KEYと一夜を共にしてしまう。

また香も、かつて恋人だったミュージシャンで、現在はすっかりスターとなった鮫島涼(平岡祐太)に誘われて、つい倫子と同じく一夜を。さらに小雪も、一見平凡なサラリーマン・丸井良男(田中圭)と“運命の出会い”風を果たし、もしかしたら・・の展開となっている。

実はこのドラマって、アラサー女子のリアルというより、恋や仕事に関する“思い込み”や“勘違い”が炸裂するラブコメディだ。

たとえば倫子。自分の脚本が売れない理由を、「恋愛にブランクあり過ぎて、今どきの若い子の恋愛観、書けなくなってた」などと言っている。おいおい、それは違うだろう。脚本家は自分の体験だけで書くわけじゃない。殺人などの犯罪ドラマや時代劇はどうするんだ? といった具合にツッコミながら見るのが正しい。

『ごくせん』から、『タラレバ』へ

このドラマを担当している加藤正俊プロデューサーは、かつて『ごくせん』をヒットさせた人物だ。脚本家の松田裕子さんも、同じく『ごくせん』を手がけていた。その後、2人は、杏が主演した『花咲舞が黙ってない』を経て、『東京タラレバ娘』に至っている。

しかも、『花咲』からは、『タラレバ』を演出している南雲聖一ディレクターも参加した。つまり、『東京タラレバ娘』を作っている加藤P&南雲D&松田さんのトリオは、最近の日テレ・ドラマの本流ともいえる「強力チーム」なのだ。

この『東京タラレバ娘』でも、東村アキコさんの原作漫画のエッセンスを生かしながら、ドラマ的誇張やケレン味を加え、ちょっと贅沢感のあるラブコメの世界を創り上げている。

思えば、『花咲舞が黙ってない』は、杏が朝ドラ『ごちそうさん』を終えた後、「民放ドラマ主演」復帰第一作だった。そして『東京タラレバ娘』もまた、吉高由里子にとって、朝ドラ『花子とアン』終了後の民放ドラマ初主演となる作品だ。そりゃ、演技に力も入るだろう。

見慣れてくると可愛いキャラクター、「タラ」と「レバ」のドSな言葉はもちろん、飛んでくる矢に鉄球といった特殊効果も含め、肩肘張らずに3人娘の切磋琢磨や七転八倒を笑って楽しめばいい。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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