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ガザでの戦闘:ハマス(ハマース)の武器はどこから来るの?

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 2023年10月7日にハマースが「アクサーの大洪水」攻勢としてイスラエル軍や入植地を襲撃した際、そしてその後の戦闘で同派が使用した武器は、それまでのハマースの軍事的能力についての評価や見積もりを量・質の両面で上回っていた。ハマースがどのようにしてこれだけの兵器を入手し、それを使う人員を訓練したのかについて、様々な主張や情報が出回っているが説得力があるとは限らない情報も多い。2024年1月16日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、AP通信の報道を基にハマースが使用する武器の種類や起源について要旨以下の通り報じた

 AP通信は、「アクサーの大洪水」攻勢以来ハマースの軍事部門のカッサーム部隊が発表した戦果広報の動画や画像150点以上を分析し、そこに現れる兵器を特定するという作業を通じて同派が使用している兵器を分析した。紛争当事者は「秘密兵器」や「切り札」のような武器や技術を持っていて、それらを敵や報道機関の目に触れないようにするために広報動画・画像に登場させないだろう。だが、この点を差し引いても、多数の動画・画像を入念に観察するという手法は様々な場面で有効だ。紛争当事者が使用する兵器の種類や出所を調査するためには、戦地に出向いて遺棄された兵器や使用済みの薬莢などを回収して製造番号などの情報を収集するという手法があるが、現在のガザ地区ではそのような調査は極めて難しいだろうから、動画・画像観察の重要性、有効性は一段と高まる。

 分析では、ハマースが使用している武器は比較的近代的なものと考えられている。このことは、同派がガザ地区に対する空、海の封鎖をかいくぐって兵器を調達する経路を持っていることを示す。小型ボート、地下トンネル、食糧などの物資に隠すなどが持ち込みの手段だ。ハマースの広報動画・画像に現れる頻度が高い兵器の一つに、「AM-50」というイラン製の狙撃ライフルがある。これは、以前からイエメン、シリア、イラクの戦場に現れていた兵器だ。また、ハマースは携帯型の対空ミサイル「9M32 Strela」などを使用している。それらは旧ソ連起源で、イランや中国で複製されている。一方、ハマースが使用しているロケット弾には、中国製であることがわかるものが含まれる。このロケット弾は、イランやレバノンのヒズブッラーが使用しているものだ。イタリア起源の対戦車地雷「TC/6」もハマースが使用する兵器に含まれるが、こちらもイランで複製品が生産されているそうだ。「Type 80」と呼ばれる中国起源のマシンガンも、「PKM-T80」という名称でイランで複製品が生産されている。この両者は極めてよく似ているため、専門家でもどちらの国で生産されたのか見分けることはできないらしい。ロケット弾の中には、ブルガリアで生産されたことを示す徴がついているものもあるし、ハマースが使用したRPGには、北朝鮮製であることを示す赤い帯がついているものもあった。

 ハマースがイスラエル軍の車両を攻撃する際によく使用する対戦車ロケットは、ロシア起源の「PG-7VR」だが、ハマースはこの複製品を製造し、「ヤーシーン105」と名付けて使用している。この名称は、2004年にイスラエルの空爆によって殺害されたハマースの創始者アフマド・ヤーシーンにちなむものだ。また、ハマースはイラン製の自爆ドローンを使用している。一方、イスラエルの戦車や人員に爆発物を投下する動画に登場したのは、中国製のドローンだ。

 ここまでに挙げた兵器は、多くがイラン、中国、ロシア起源の兵器で、中には北朝鮮や旧ワルシャワ条約機構加盟国で生産されたと思われる兵器もある。しかし、AP通信の報道は、戦場で兵器が使用されているからと言って、上記の諸国の政府が武器を供与したとか、ハマースが闇市場で武器を調達したとかの証拠にはならないと指摘している。というのも、この種の武器弾薬はイラク、リビア、シリアのような紛争を経験した諸国ではSNSを通じて購入可能だからだ。ハマースの幹部はAP通信の取材に対し、あらゆる場所で武器、政治的支援、資金を求めていると述べたが、同派への兵器の供給者やそれをどのようにしてガザ地区に搬入したかについては答えなかった。なお、匿名のイスラエル軍の高官は、ハマースはAK47マシンガン、RPG、対空ミサイルを使用可能な形で密輸している上、自作の兵器や入手が可能な他の材料から製造した武器を持っていると述べた。この高官によるとガザ地区には大規模な軍需産業がある。

 今般の報道でも、武器やその材料や製造技術がどのようにしてガザ地区に持ち込まれたのか、そしてそれを使用する人員の訓練はどうしたのかについてはわからなかった。特に、人員の訓練については、ガザ地区が今般の紛争のずっと前から封鎖され、人の出入りが厳しく制限されていた上、同地区内部での様々な活動も監視されていたことに鑑みれば、より具体的で説得力のある情報が欲しいところだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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