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BPOの政府与党批判 紙面の扱いに大きな差 全国紙検証

楊井人文弁護士
読売新聞11月7日朝刊1面(右上)、毎日新聞1面(下)、東京新聞社会面(左上)

【GoHooトピックス11月7日】NHK「クローズアップ現代」などの「出家詐欺」報道について、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は11月6日、「重大な放送倫理違反があった」と指摘するとともに、総務相の行政指導や自民党の対応を批判する内容の意見書を発表した。7日付各紙朝刊はBPOの意見書について詳しく報じたが、政府与党批判の部分の取り上げ方に大きな違いがあった。日本報道検証機構が全国4紙(東京本社版)を調べたところ、政府与党批判に関連する記述が最も多かったのは朝日新聞の約1590字でBPO関連記事の4割以上を占めていたのに対し、最も少なかった読売新聞はその10分の1に満たない約140字で記事全体の2.6%にとどまっていた(関連記事【GoHooトピックス】NHK「出家詐欺」報道に「重大な放送倫理違反」 BPO、政府与党の対応も批判【GoHooレポート】NHKクロ現 「出家詐欺の活動拠点」は誤り 「ブローカー」の証拠確認できず)。

BPOの意見書については、読売、朝日、毎日、産経の4紙とも、1面を含む複数の面で詳しく報じていた。当機構が4紙の東京本社版のBPO関連記事の文字数(見出しや識者コメント、用語解説を含む。写真説明や図は除く)をカウントしたところ、最も分量が多かったのは読売の約5500字で、産経、毎日の2倍以上、朝日と比べても約1.5倍あった。このうち、政府与党の対応を批判した記述に関連した部分(BPO意見書に対する総務大臣談話関連を除く)を抽出すると、最も多い順に朝日(43.7%)、毎日(26.1%)、産経(20.7%)、読売(2.6%)と大きな差が出た。

朝日は社会面の関連記事で、テレビ報道をめぐる政府・自民党の言動を時系列にまとめた図を載せ、BPOの記者会見での川端和治委員長の発言や学者のコメントを紹介するなど、BPOの政府批判をメインに取り上げていた。他方、読売は全国4紙の中で最も詳しくBPO意見書の内容を報じていたが、1面と社会面に載せた意見書の要旨や3面の解説記事のいずれにもBPOが政府与党を批判したことに全く触れていなかった。見出しだけを比較しても、朝日、毎日、産経はいずれも「BPO 政府の介入批判」(毎日・1面トップ)などとBPOが政府批判を行ったことに言及していたが、読売だけが見出しで触れていなかった(後掲「見出し一覧」参照)。

(日本報道検証機構作成・禁転載)
(日本報道検証機構作成・禁転載)

問題となったのは、昨年5月放送のNHK「クローズアップ現代:追跡“出家詐欺” ~狙われる宗教法人~」など2番組。出家詐欺の「ブローカー」として登場した男性の告発をきっかけに、NHKが外部委員をまじえた調査委員会を設置。4月28日に発表した最終報告書で、放送ガイドラインを逸脱する「過剰な演出」や「視聴者に誤解を与える編集」、事実関係の誤りなどの問題があったことを指摘し、再発防止策をまとめた。この直後に、高市早苗総務相はNHKに対し、番組内容が放送法の規定に抵触することや最終報告書の問題点などを厳重注意する内容の行政指導文書を出した。その後、自民党もNHK経営幹部を呼び出して説明を求めた。

BPO・放送倫理検証委員会がまとめた意見書は全部で28ページ。このうち、最後の一節で2ページ以上を割いて、総務相の行政指導を「放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのもの」、自民党の呼び出し行為を「政権党による圧力そのもの」と批判。「放送の自由と自律を守りつつ放送番組の適性を図るために、番組内容に関しては国や政治家が干渉するのではなく、放送事業者の自己自律やBPOを通じた自主的な検証に委ねる本来の姿に立ち戻るよう強く求める」との異例のコメントを出した。

これに対し、総務省は同日中に、放送法の番組準則は「単なる倫理規範ではなく、法規範性を有する」とBPOの見解に異論を唱え、「再発防止策をスピード感を持って取り組み、国民視聴者の信頼回復に努めていただきたいとの思いで行政指導を行った」などとする総務大臣談話を発表していた。

在京5紙のBPO関連報道見出し一覧(11月7日付朝刊、東京本社最終版)

太字はBPOの政府与党批判に言及した部分)

<読売新聞>

「BPO『重大な倫理違反』 NHK演出『事実を歪曲』/クローズアップ現代」(1面肩)

「報道の許容範囲逸脱 NHK『クローズアップ現代』 BPOが意見/『隠し撮り』を演出/撮影対象と打ち上げ/『やらせ』定義に疑問」(3面=総合面)

「NHK、再検証予定なし クローズアップ現代 『やらせ』言及せず」(38面=第2社会面)

<朝日新聞>

自民の聴取『圧力』と批判/BPO、NHK過剰演出『重大な倫理違反』」(1面・肩)

『番組介入許されない』 BPO、政権に強い姿勢/自民の反発は必至/実態と違う放送内容『落胆』」(38面=第2社会面)

<毎日新聞>

BPO 政府の介入批判/NHKやらせ問題 異例の意見書/放送倫理違反を指摘」(1面トップ)

「BPO 視聴者と認識のずれ NHK番組 事実歪曲を批判 意見書/(解説)取材活動、萎縮するな」(39面=第1社会面)

<産経新聞>

「クロ現『やらせ』でBPO『NHKに重大な倫理違反』異例の政府批判も」(1面トップ)

「NHKの『やらせ』定義に疑問 『クロ現』問題『不当に軽く評価』」(22面=第2社会面)

<東京新聞>

『NHKに自民圧力』 番組介入を批判番組倫理機構 『クロ現』やらせ問題」(1面トップ)

『権力介入許されぬ』NHK手法も批判『重大な倫理違反』 『クロ現』問題 放送倫理機構が会見」(29面=第1社会面トップ)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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