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「女王」と王子が、SNSに「透明性」を義務付けよと訴える

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
ケイティ・クーリック氏(左)とハリー王子(いずれも写真:REX/アフロ)

フェイクニュース対策のために、プラットフォームに「透明性」を義務付けよ――。

米シンクタンク「アスペン研究所」の「情報障害委員会」は11月15日、フェイクニュース対策をまとめた80ページに上る最終報告書の中で、そう指摘している。

報告書作成にあたった16人の有識者には、フェイクニュース、セキュリティの専門家らのほか、「朝番組の女王」と呼ばれた人気キャスターのケイティ・クーリック氏や、英王室を離脱したハリー王子ら多彩なメンバーが含まれている。

報告書が求めているのは、フェイクニュース拡散の舞台となっているプラットフォームのデータ公開だ。

フェイクニュースの温床と言われるターゲティング広告や、フェイクニュースの拡散を繰り返す「スーパースプレッダー」。

報告書は、それらの実態解明が必要だとして、研究者らに対するデータ開示の義務付けなどに、具体的な施策を提言している。

フェイスブック(現メタ)を巡る一連の内部告発で、巨大プラットフォームの「裏側」への社会の関心は高まっており、米国では超党派の各州司法長官らが、インスタグラムの実態調査に乗り出した。

プラットフォームに「透明性」を求める声は、止む気配がない。

●「透明性」を義務付ける

ユーザー、プラットフォーム、そしてアルゴリズムの振る舞いと、情報障害が引き起こす影響を理解するには今よりもずっと大量のデータが必要だ。だが現状では、偽情報に関する重要な研究(デジタル広告の効果測定、オンラインコンテンツの管理規約の有効性検証)が、データと処理プロセスへのアクセスができないために、打ち切られてしまっている。

米アスペン研究所(Aspen Institute)の「情報障害委員会(Commission on Information Disorder)」は15日に公開した最終報告書の中で、そう指摘している。

フェイクニュース(誤情報・偽情報)の拡散による、メディア環境への悪影響(情報障害)が深刻化している。この問題に対処するには、フェイクニュース拡散の舞台となっているプラットフォーム上のデータを基に、その現状を把握する必要がある。

だがプラットフォームは、「利用規約違反」を理由に、研究者に対してデータへのアクセスを遮断し、システムから締め出すという動きが続いている。

改めて注目を集めたきっかけは今年8月、フェイスブック(現メタ)が、ニューヨーク大学の「政治広告と誤情報拡散」に関する研究プロジェクトによるデータアクセスを、「ユーザーのプライバシー保護」を理由に、遮断した騒動だった。

政治広告のターゲティングは、フェイクニュース拡散の主要な経路の1つとされているが、外部から検証することは難しい。このため、ニューヨーク大の研究チームは、ボランティアにブラウザ用プラグインツールをインストールしてもらい、ターゲティングの実態を把握しようとしていた。フェイスブックは、それが「利用規約違反」に当たるとして、研究チームのアカウント停止を行ったのだ。

大手のプラットフォームは「利用規約」を使い、公益に資する報道や研究を次々に遮断するようになっている。

そして、この問題を解決するには、法律によって、プラットフォームに「透明性」を義務付ける必要がある、と報告書は述べている。

フェイスブックの元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏による内部文書による告発「フェイスブック・ファイルズ(もしくはフェイスブック・ペーパーズ)」は、同社がユーザーへの悪影響などの社内調査結果に十分に対処せず、公表してこなかったことが、特に問題視された。

この告発を受けて高まりを見せているのが、プラットフォームの「透明性」を求める声だ。

●人気キャスターと王子

「情報障害委員会」は1月に設置を発表。クラシファイド(3行広告)サイト「クレイグズリスト」の創設者、クレイグ・ニューマーク氏の慈善財団が325万ドル(約3億7,000万円)の資金提供をしている。

共同委員長を、NBCの「トゥデイ」で「朝番組の女王」と呼ばれ、その後「CBSイブニングニュース」などのキャスターも務めたケイティ・クーリック氏、米サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)の初代長官を務めたクリス・クレブス氏、米人権擁護団体「カラー・オブ・チェンジ」代表のラシャド・ロビンソン氏が務めている。

委員会のメンバーも多彩だ。元フェイスブック最高セキュリティ責任者(CSO)でスタンフォード大学インターネット観測所所長のアレックス・ステイモス氏、コロンビア大学憲法修正第1条研究所所長のジャミール・ジャファー氏らとともに、「メディア王」ルパート・マードック氏の義理の娘(次男ジェームズ氏の配偶者)で財団理事長のケイトリン・マードック氏、さらに英王室を離脱したハリー王子も参加している。

CISA元長官のクレブス氏は、2020年米大統領選を巡り、トランプ前大統領が主張した「選挙不正」は存在しないと表明し、長官を解任された経緯がある。

またハリー王子は、英王室離脱を巡る虚実ない交ぜのゴシップの標的となっている。

誤情報・偽情報の研究者というだけでなく、その当事者の視点も入った報告書ということになる。

報告書の執筆は、クーリック氏ら3人の共同委員長が担当したという。

●「拡散コンテンツ」のデータ公開

議会は、プラットフォーム上の公開データの自動収集を行う特定のジャーナリズムや研究プロジェクトについて、それが公共の関心事について市民に情報提供をする目的で、プラットフォームの完全性とユーザーのプライバシーを尊重する場合には、法的保護を拡張するべきだ。

これとは別に、議会はプラットフォームに対し、政府機関や規制・調査機関などの公益的な業務に携わる、限定された研究者に対しては、特定の内部データを開示するよう義務付けるべきだ。議会は、このようなジャーナリズムや研究について、プラットフォームが妨害ではなく促進をするよう、必要な法的保護措置を取るべきだ。

プラットフォームの「透明性」確保の手立てとして、報告書は4つの提言をしている。

その第1に掲げるのが、「公益目的の研究の保護」だ。上述のような、「利用規約違反」を理由とした研究の阻害が起きないよう、法的保護を明確にするべきだ、との指摘だ。

そして、第2の提言が「ハイリーチ(拡散)コンテンツ」に関する情報公開の義務化だ。

議会は、米国内でサービスを提供するすべてのソーシャルメディア・プラットフォームに対して、「ハイリーチコンテンツ」に関するデータの公開アーカイブ設置を義務付ける法律を制定するべきだ。アーカイブにはアカウント名、大規模ユーザーにオーガニックに配信された投稿のリーチデータ、そしてコンテンツを受信し、エンゲージしたユーザーに関する詳細データが必要だ。

「拡散」の裏側には、どんな発信者や、ネットワークが存在しているのか。特に組織的な拡散の実態を明らかにする上では、欠かせないデータだ。

第3の提言が「コンテンツ管理の開示」だ。

議会は、すべてのソーシャルメディア・プラットフォームにコンテンツ管理の規約と運用についての情報開示と、期間を限定した削除コンテンツのアーカイブの設置を義務付けるべきだ。それらは標準化されたフォーマットを採用し、許諾を受けた研究者がアクセスできるようにしなければならない。

削除されたコンテンツはどのような内容だったか。コンテンツの削除判断の線引きはどこにあるのか。そんなプラットフォームの判断と、削除コンテンツの実態の不透明さは、長く指摘されてきた。

そして第4の提言が「広告の透明性」だ。

議会はソーシャルメディア企業に対して、プラットフォーム上のあらゆるデジタル広告と有料投稿に関する主要な情報を、標準化されたフォーマットで、定期的に開示するよう義務付けるべきだ。政治広告を含む有料投稿は、小規模なコミュニティにターゲティングするという手法のために、批判や修正要求を潜り抜けることも多く、誤情報の強力な配信経路となり得る。

プラットフォームは、広告のデータ開示を行ってはいるが、「自主的、限定的で不十分」と報告書は指摘する。

●「スーパースプレッダー」に対処する

報告書は、フェイクニュース拡散が、現実社会の分断や差別に根差している、と指摘する。

誤情報・偽情報は、社会病理の根本原因ではない。むしろ、所得格差、人種差別、汚職といった制度的な問題こそが、ネット上の虚偽情報の拡散を後押ししている。これらの問題を克服できずにいる、社会の失敗を露呈させているのだ。

そして、社会における信頼の醸成の手立てとして、「コミュニティ基盤の強化」「メディア、プラットフォームの多様性の拡大」「ローカルメディアへの投資」「説明責任の規範の推進」「選挙のセキュリティの強化」などを挙げる。

報告書は、フェイクニュースの根絶は不可能だと述べる。そしてゴールに掲げるのは、「危害の低減」だ。

情報障害は、完全な解決が不可能な問題であることを、明確にしておきたい。最終的なゴールは、その根絶ではない。委員会のゴールは、社会の最も脆弱なセグメントを最優先とする、誤情報による最悪の危害の低減だ。

その対策として「連邦政府における包括的対応」「ユーザー啓発の強化」などに加えて挙げるのが、「スーパースプレッダー(大規模感染源)」への規制強化だ。

オンライン・プラットフォームは、スーパースプレッダーの責任をしっかりと問うべきだ。明確で透明性があり、例外なく適用される規約によって、所在地、政治的見解、社会的な立場に関係なく、その影響に応じた迅速で、毅然とした対応と処分を行うようにすべきなのだ。

フェイクニュースの拡散は、ごく限られた「スーパースプレッダー」が関与することで、まん延していく傾向があることが、様々な調査で明らかになっている。

米英に拠点を置くNPO「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」が3月にまとめたレポートでは、ソーシャルメディアで拡散する反ワクチンのプロパガンダの65%は、わずか12の個人に行き着く、との実態を指摘している。

だが、プラットフォームは、これらの「スーパースプレッダー」に十分な対応をしてこなかった、として批判の的となってきた。

ウォールストリート・ジャーナルの「フェイスブック・ファイルズ」の報道によって、フェイスブックは政治家などの著名人については「特別ルール」を適用し、利用規約違反の投稿でも削除対象としてこなかった、との実態も明らかになっている。

※参照:Facebookが抱えるコンテンツ削除のトラウマとは、著名人580万人「特別ルール」の裏側(09/15/2021 新聞紙学的

報告書は、このような「スーパースプレッダー」の実態把握のために、関連コンテンツの閲覧数やエンゲージメント数などの詳細なデータの公開を求めている。

そして、プラットフォームの対応の背景にある問題として指摘されてきたのが、コンテンツに対する広範な免責を認めている米通信品位法230条の存在だ。

報告書では、①有料広告と投稿のプロモーションを通じて宣伝されるコンテンツに対するプラットフォームの免責の除外②サービスの機能やデザイン、推奨エンジンの実装に関連する免責の除外、という2つの修正を示している。

この条項は、「表現の自由」を担保してきたとの評価の一方で、保守・リベラルの双方から、プラットフォームの問題点の象徴として批判の的になってきた。

そのビジネスとサービス設計に関わる部分について、免責を取り除く、との提言だ。

●「日光は最高の消毒剤」

「情報障害委員会」の提言のポイントは、これまで様々な形で指摘されてきたフェイクニュースを巡る問題点を網羅したものと言える。

新型コロナにまつわる誤情報の氾濫を受けて、米公衆衛生総監のビベック・マーシー氏は7月に対策強化のための勧告をまとめている。

この中でも、マーシー氏は「誤情報の拡散と影響を分析するための研究者へのデータ公開」「誤情報のスーパースプレッダーの検知強化」などの対策を指摘している。

※参照:「SNSはアルゴリズム見直せ」コロナデマ拡散で衛生トップが勧告(07/16/2021 新聞紙学的

また、報告書が指摘する問題点を巡る動きも出ている。

当社は2022年1月19日から、詳細ターゲット設定のオプションについて、ユーザーがセンシティブ(機微に触れる)と受け取る可能性のある、健康、人種や民族、政党、宗教、性的指向などに関連した信条、組織、著名人などのトピックを削除する予定だ。

メタは11月9日、ターゲティング広告の設定項目の中で、センシティブなテーマを削除する方針を表明した。同社はこの取り組みを、「悪用の可能性を減らす」ものと位置付けている。

一方で、メタの地元カリフォルニア州を含む8州の司法長官は11月18日、インスタグラムの利用が若年層に与える影響について、超党派で調査を開始する、と発表している

本件調査は、若年ユーザーのエンゲージメントの頻度、時間を増加させるためにメタが使用している手法と、そのようなエンゲージメントの延長によって引き起こされる障害に焦点を当てている。

これは、ウォールストリート・ジャーナルによる「フェイスブック・ファイルズ」の報道を受けたものだ。報道によれば、インスタグラムの利用が10代の少女のメンタルに悪影響を与えていることを社内調査で把握しながら、十分な対策をとってこなかった、とされている。

「情報障害委員会」は、報告書の中で、米最高裁判事、ルイス・ブランダイスの言葉を引用して、こう述べている。

1世紀以上前、ルイス・ブランダイス判事は「日光は最高の消毒剤だと言う」と喝破した。現在のオンラインでは、データが少なすぎることは明白だ。

もう少し、プラットフォームを日光に当てる必要がありそうだ。

(※2021年11月22日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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