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今日はダービー。コロナ渦での無観客・制限観客制は勝負に影響を与えるか

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
大観客は今年もいない(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本中央競馬会(JRA)が主催する最も格式の高い「G1」(計26レース)のなかで4歳馬のナンバーワンを決める「日本ダービー」は歴史的にも、1着賞金額も有数で、ふだん興味のない方でも社会的に注目される「祭典」です。

 しかしコロナ渦は競走の運営にも大いに影響を与え、今年は指定席購入者限定の有観客。前回は無観客でした。

 ところで2020年のG1レースは事前に最も前評判が高い「1番人気」の馬が26レース中17レースで1着、「2番人気」も3回でした。他方、同年は最初の1レースを除いて13レースが無観客、12レースが今回と同じ限定有観客でした。ために「施行場の雰囲気が本命有利に働いたのでは」という声が上がっています。

 パンデミックはそれ自体はもとより経済、文化、芸術、生活などにさまざまな影響を及ぼしています。その一端として競馬というサブカル的イベントに焦点を当てて社会現象の一隅を探ってみようと以下に試みます。

20年の「1番人気優勝」は26レース中17回

 G1レースが最高峰だけに有力馬の出走が他より必然的に多く、元来人気薄が激走して大波乱となる蓋然性が低いとされていました。にしても2020年の単勝(1番のみを予測して買う馬券)で1番人気が占めた割合は直近4年間(今年を除く)でも際立っています。

2020年……17回(約65%)

2019年……8回(約31%)

2018年……9回(約35%)

2017年……11回(約42%)

 レースごとに単勝の倍率も異なります。馬券は100円から買えるので20年のG1単勝すべてを1番人気で買った場合(2600円)、払い戻し金は3430円。830円のもうけとなるのです。同様の計算を19年で行うと820円の損。

 しばしば「競馬で生活している人はいても馬券で生活はできない」といわれます。1番人気は「来る」蓋然性が高い分だけ倍率は概して低く当たってもさしてもうかりません。反対に人気薄は倍率こそ大きいものの「来ない」確率も高いのでしばしば外れます。機械的な買い方をしていては理論上もうかりません。それが20年は違ったのです。

 17年-19年の平均は9.3回。20年は1.8倍「1番人気が1着」でした。

 2番人気が1着となったのは20年3回、19年6回、18年5回、17年4回。大きな差はなく20年の順当ぶりを補強するデータとなります。

馬は臆病な生き物

 前述のように20年のG1は1レースを除いて無観客か指定席購入者限定でした。静かな観客席はレースに影響を与えたのでしょうか。大井競馬場(東京都品川区)の月岡健二調教師にお話をうかがいました。

 月岡さんは「あくまで一般論として」と前置いた上で以下のように指摘します。

「馬という動物は本来、草食動物で臆病なところがあります。調教などをするトレーニングセンターも静かです。G1レースだと、そこからレースのある日までに競馬場に運ばれます。ふだんは多くの(10万人以上も)入場者がいて大声援が飛び交うので緊張して普段のパフォーマンスが出せないという可能性はあるでしょう。

 その点で、無観客ないし数千人程度の有観客だとトレーニングセンターと似た『限りなく普通の状況』で走れるわけですから、過去の実績などから『強い』とみなされている人気馬が順当な結果を出すのは自然ですね。自分の馬でも無観客だと落ち着いています」。

観客席の様子が騎手やオッズに与える影響

 月岡さんは騎手に与える影響も指摘しています。

「G1の1番人気馬に乗る騎手のプレッシャーは半端ではありません。何しろヤジだけでも凄いですから。賭けられている金額も果てしなく大きいのでなおさらです。その点で今の騎手はずいぶんリラックスしているように見受けられます」。

 さらに倍率(オッズ)の付け方にも変化が現れているとの見立ても。

「(コロナ禍以前の通常の状態だと)来場するお客さんはパドック※の様子から『入れ込んでいるな』などと観察して予想の参考にしています。解説なども聞きながらね。でも今は見られないので、まるで競馬ゲームのように数値だけで人気が決まっているようです」。

 つまりオッズは「ナマの目」より既存の数値が重んじられ、圧力から解放された馬はもとより騎手までが安らかな気分で走れるから波乱が起きにくいという現象が起きている可能性があるようです。

 もっとも、21年もほぼ20年と変わらない環境ながら実施された10レースのうち1番人気の勝利は3レースに止まっています。2番人気の4勝を加えると安定基調は変わっていないともみなせる半面で2番手に人気薄が飛び込むケースもしばしば。「静かな環境」もそれが当たり前になれば関係者も対策を練ってくるでしょうし「ナマの目」が封じられたオッズ自体が今後、実態と乖離していくかもしれません。

※パドック……次レース出走馬が観客に見えるよう周回する行為

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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