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メジャーリーガーのオフのトレーニング、ボクシング、ヨガ、配管工事。ベーブ・ルースから新人王まで。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

野球界のスーパースター、ベーブ・ルースのエピソードは数々あれども、シーズンオフのトレーニングにボクシングを取り入れていたことはあまり知られていないかもしれない。

米野球殿堂博物館のホームページでは、多くの過去の写真が閲覧できる。筆者は、ボクシングのグローブをつけてトレーニングしているルースの写真が掲載されていたのを偶然に見かけた。ボクシングの格好をしているものだけで10点以上ある。

数枚の写真には、「ニューヨークのマクガヴァンのジム」という撮影場所の説明書きが入っている。

キャプションを頼りに調べていくと、元フライ級のボクサー、アーティ-・マクガヴァンにたどり着いた。マクガヴァンはニューヨークで富裕層の顧客を対象としたジムを経営し、彼らのパーソナルトレーナーをしていたそうだ。

当時の報道によると、ルースがマクガヴァンのジムでトレーニングするようになったのは1925年12月のこと。病気と不摂生で不本意なシーズンを送ったルースは、マクガヴァンのスポーツジムを訪れ、ボクシングを含むトレーニングを始めたらしい。この時代にはメジャーリーガーが、シーズンオフにスポーツジムでトレーニングすることは珍しかったようだ。

1925年のシーズン、ルースは30歳。この年は98試合に出場、打率2割9分、25本塁打、67打点だった。しかし、翌26年は152試合に出場し、打率3割7分2厘、47本塁打、153打点と完全復活。1926年から6年連続本塁打王となっている。オフのボクシングトレーニングが復活を支えたと言ってもよいのではないか。マクガヴァントレーナーが厳しく食事管理をしたのも吉と出たのかもしれない。

ルースは25年の以来、オフシーズンはこのジムでトレーニングするようになっていた。米野球殿堂博物館のホームページにある写真は、取材日にカメラマンを入れて撮影したもののようだ。1933年1月19日に撮影された写真は、娘と打ち合っているかのようなポーズをとっており、2人の間にマクガヴァンがレフリー役を務めている、という構図だ。

さて、現在のメジャーリーグで活躍する若いスター選手たちは、オフシーズンにどのようなトレーニングをしているのだろうか。

筆者は以前に、レッドソックスのムーキー・ベッツがボウリングをしているという記事を書いた。昨オフにはプロボウラーとともに大会にも出場。しかし、ベッツは、昨年のシーズン終了後に右ひざの手術をしており、今オフのボウリングの大会出場は見送っている。

イチローの同僚、マーリンズのジャンカルロ・スタントンはシーズン中、シーズンオフを通じてヨガをしているそうだ。スタントンはヨガのDVDにも出演。「ヨガ・フォ-・パワー ウイズ ジャンカルロ・スタントン」というタイトルで販売中だ。

昨年12月、メジャーリーグ公式ホームページは、ブルージェイズのジョシュ・ドナルドソンが格闘家のステファン・トンプソンとトレーニングしている様子を伝えている。

2016年のア・リーグ新人王に選ばれたタイガースのマイケル・フルマーは、配管工事で体づくりをしているそうだ。友人の親戚が配管工事の会社を経営しており、手伝っているのだという。排水溝を掘るなどの重労働で、トレーニングにちょうどいいのだとか。

筆者が、ベッツにオフにボウリングをするメリットを質問したところ、「野球から離れられるのが良い」と答えた。

長いシーズンを終え、いったん、野球から離れて心身をリフレッシュする。野球とは違うトレーニングをしながら、シーズンに備える選手たちが少なくない。ベーブ・ルースから2016年の新人王まで、それぞれに工夫を凝らしたオフのトレーニングが続いている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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