日曜劇場「アトムの童」に登場する「インディーゲーム」とは
山崎賢人さん主演の日曜劇場「アトムの童」(TBS系)が話題です。第1話の世帯視聴率は8.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)にとどまったものの、香川照之さんの代役となったオダギリジョーさんの起用を含めて、ネットでは総じて好評のようです。同作では、倒産寸前の老舗おもちゃ会社が、異業種のゲームビジネスで起死回生を図ろうとする物語が描かれており、「インディーゲーム」というワードが登場しました。ですが、ゲームファン以外の人たちは「インディーゲームって何?」と思うのではないでしょうか。
◇ゲーム業界の期待を背負う
インディーゲームを理解するには、ゲーム業界の課題を考えると分かりやすいでしょう。
そもそもゲームソフトは、実際に動かすまで本当に面白いか「分からない」という一面があります。企画時は「傑作間違いなし」だったのに、実際に作って動かしてみると「面白くない」ことがあるのです。一方で、作り手の予想を上回って爆発的に売れることもあります。ゲームビジネスは水ものなのです。
そしてゲームは、多くのライバルに勝つために、CGはより豪華に、ボリュームも増える傾向にあり、開発コストが増大します。今や開発に10億円以上をつぎ込むソフトも珍しくありません。その結果、「失敗が許されない」という構図になっています。
そのため費用を投じた大作ソフトほど、無難なものになりやすいのです。要するにリスクのある斬新な企画ほど、採用しづらいのです。特に経営者の視点では、売れないリスクは、少しでも減らしたいとなってしまいます。
そこで注目されたのが、個人や小規模メンバーで開発される「インディーゲーム」です。最大の利点は、開発コストが抑えられるため、思い切った企画も許容できること。日本最大のゲーム展示会「東京ゲームショウ」でもインディーゲームのコーナーが設けられているほどの人気です。任天堂やソニー、マイクロソフトなどの大手がそろってインディーゲームを積極的に支援しているのも、粗削りでも未知の魅力を持つ新しいゲームを必要としているからです。さまざまなタイプのゲームが充実すれば、それだけゲーム業界も活気づくというわけで、業界の期待を背負っているとも言えます。
なお、ドラマで登場したゲーム「Downwell」は、本当にあるインディーゲームで、スマートフォンなどでプレーできます。
◇インディーゲームの定義 ハッキリせず
インディーゲームを説明するとき「個人や小規模メンバーで開発されるゲーム」とありますが、実は、インディーゲームの定義はあいまいな一面があります。
インディーゲームの無償支援プロジェクト「iGi(イギ)」にかかわるヘッドハイ(東京都品川区)の社長・一條貴彰さんは「インディーゲームの定義はハッキリしません。というのは『小規模』の線引きが難しく、『小規模』を『50人以下の開発者』とする意見もあります。そうなると多く(の作品)が当てはまってしまいます」と話しています。
さらに、インディーゲームという言葉自体がファンの目を引くので、なし崩し的に使うこともあるそうです。また有名人がお金を集めて、開発を外注してもインディーゲームになります。このあたりは意見の分かれるところでしょう。
それでもあえて定義するなら、複合的に考えるしかなく、▽大手企業から資本が独立している▽個人や小規模メンバー(さまざまな意見はあるが5人程度)▽本当に自分が作りたいものを作る▽新規ゲーム……となるそうです。特に最後の「本当に自分が作りたいものを作る」というところに、力点が置かれています。
またインディーゲームと既存のゲームの違いについて、一條さんは「事業のサイズが違うだけ。使う技術は概ね同じで、プラットフォームも同じ。そしてプロとアマの線引きがないのが特徴」と指摘しています。実際インディーゲームの開発者は、ゲーム会社の社員が少人数で取り組む場合もあれば、ゲーム開発者がプライベートで制作するもの、学生が開発するものもあり、実に多様です。
盛んになった背景の一つは、ゲームの開発ツールが無料・低額になったことです。さらにダウンロードで販売すれば、リアル店舗の開拓も、在庫も不要です。参入障壁が以前よりもぐっと低くなっているのは確かです。
インディーゲーム開発者の数について、一條さんは、定義もあいまいで、客観的なデータがないため「肌感覚ですが」と前置きしながら「展示会などから考えると、1万人ぐらい。専業にされている方は200~300人ぐらいでは」と推測しています。
◇資金不足&チームの分裂も
ただしインディーゲームにも弱みはあります。資金力が不足するため、プロモーションに予算がかけにくいのです。また開発時に問題に突き当たっても、適切な人に相談できずに挫折することもあります。
そこで近年は、インディーゲーム開発者を支援するプロジェクトも登場しました。「iGi」というプロジェクトでは、年に数本のゲームを支援。高スペックPCの貸し出しや、開発時に必要となる情報といった開発支援・相談はもちろん、出資者を効率的に探すため、プレゼンを英語でもできるよう提案するそうです。日本語でのみのプレゼンでは、成功の可能性を狭めるからです。
なお「iGi」のビジネスモデルはユニークです。プロジェクトを支えるゲーム会社のマーベラスは、利益目的の事業と考えず、ゲームの商品化について優先交渉権を持つのみ。ゲーム自体の干渉はなく、他社と契約することも許容しています。
こうした支援プロジェクトの存在は、商品レベルになるインディーゲームを完成させるのは大変ということを意味します。「インディーゲームの企画ができて、完成までこぎつけられる割合は?」という質問に、一條さんは「iGiのような支援プロジェクトと契約する前で、チームで作るというのであれば、完成するのは1%ぐらいでしょうか」と答えました。クリエーター同士の価値観がぶつかって分裂したり、資金不足などまちまちです。実際に同様の話は取材時に聞いたことがあります。
そういえば「アトムの童」でも、謎のクリエーター「ジョン・ドゥ」が実は共同のペンネームであり、主人公・那由他(山崎賢人さん)が、かつての仲間だった隼人(松下洸平さん)と対立するようなシーンが描かれていました。
ですが、夢があるのもまたインディーゲームの特徴です。「インディーゲームから、大ヒットは狙える?」という質問に、一條さんは「はい。有名なのは『マインクラフト』ですね。今はマイクロソフトが買収して変わりましたが、始まりは一人の開発者からでした」と答えました。他にも稲作ゲームで話題になった「天穂(てんすい)のサクナヒメ」、アクションパズルゲームの「PICO PARK(ピコパーク)」などの名を挙げています。
インディーゲームの開発は、挑戦のハードルが低くなっているものの、なかなか大変と言えそう。それでも個人であっても、以前より挑戦しやすい環境にあるのも確かです。
ドラマの影響力が大きく、数年後、「アトムの童」に触発されて、新しいヒット作が生まれた……なんてドラマチックな展開があると良いのですが。