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#能登半島地震 から3週間「こんな時でも月が綺麗」80代祖父母とガレージで暮らす、能登町23歳の声

堀潤ジャーナリスト
この日、女性は2週間ぶりにお風呂に入ることができ、写真を撮った。

死者232人、3万4446棟の住宅に被害をもたらした「令和6年能登半島地震」の発生から3週間が経過した。

21日午後2時の時点で、安否不明者は22人。輪島市や珠洲市で、今も36歳から97歳の方々の所在がわからないままだ。避難所に避難している人は、453か所で合わせて1万4796人。

避難生活による持病の悪化やストレスなどで命を落とす「災害関連死」の疑いは14人に。珠洲市で6人、能登町で5人、輪島市で3人となっている。

TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」より
TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」より

そうした中、能登町で自宅が被災しガレージ(車庫)の中で避難生活を続ける23歳の女性と繋がった。発災当初、避難所は満杯で入ることができず、両親や帰省中の弟、80歳代の祖父母みんなで被災した自宅での避難を余儀なくされた。

余震が怖く、はじめは車中泊を続けていたが、祖父母がエコノミー症候群になってはいけないと、車庫の活用を模索した。

幸にして足を伸ばして寝られるスペースが確保できた。

女性は、自宅と職場を行き来しながら、被災地の今を伝え続けてくれている。

その彼女に、発災から3週間を前に、先週末、電話でインタビューをした。淡々とした被災地の日常を語る中で、今も前進しないさまざまな課題が見えてきた。

インタビューの最後に、いくつか写真を送ってもらえないかとお願いをした。

「発災直後の倒れた家などは私は撮っていないので、友達に聞いてみます」と言うので、「いえ、壊れた建物の写真ではなく、ご自身が普段見ている日常の一コマをもしよかったら送ってください」と伝えた。

送られてきた4枚の写真は、どれもこれも、被災地と「わたし」をつなぐ体温のこもったものだった。インタビューの内容をお伝えする前に、ぜひ写真を見ていただきたい。

撮影:能登町在住23歳
撮影:能登町在住23歳


この写真は震災当日の月。女性は「こんなときでも月は綺麗やな」とたまたま帰省していて被災した弟と話しながらスマホを空に向けた。

撮影:能登町在住23歳
撮影:能登町在住23歳

正月食べるはずのブリ刺を鍋で煮込んだ『我が家の炊き出し』。久々の暖かいご飯は何よりもごちそうだった。

撮影:能登町在住23歳
撮影:能登町在住23歳


この日、自衛隊の災害派遣によって、2週間ぶりのお風呂に入ることができた。安心した。雪の中での設営だった。

撮影:能登町在住23歳
撮影:能登町在住23歳

「4枚目は今日、撮った地元の風景です」

美しい能登。一刻も早く復旧して欲しい。もうこれ以上命が奪われることはあってはいけない。不安を拭い、大切な故郷への復興への道筋を早く示せる日が来てほしい。

そのために、わたしたちは何ができるのか。

ぜひ彼女の声に耳を傾けていただきたい。

◆今は「亜急性期」まるで病が徐々に進行しているよう

堀)
発災からだいぶ時間が経ちました。20日が経過します。今現状で必要なもの、困っていること、やっぱり知ってほしいこと、どういうものがありますか?


女性)
地震直後からもう3週間たたないぐらい、言ったら、今って「亜急性期」ぐらいじゃないですか。(※亜急性期とは急性でも慢性でもなく、病気になって急激ではないが徐々に進行する状況)

超急性期、急性期で亜急性期ぐらいに今きているんですけど、発災直後から見ると、食事、食べ物とか水とかはだんだん物資が届いてきていて、ある程度確立されてるのかなと思うんですけど。

やっぱりその地区の中でも、仕事などにだんだん行き始める若い人たちが出始めると、そこに残った被災者の中で高齢者が多くなってくるんですよ。そうすると、高齢者が被災してる避難所の食事は誰が作るのかとか、何かそういったところでちょっと困ってますっていうのが、結構話に出てきたりするんです。

堀)
だんだん支援のニーズも変わりますし、温度差がやっぱり出てきますよね。

女性)
出てきますね。それこそ奥能登だけじゃなくて石川全体で、内灘の方とか、七尾市だったり、輪島市とか、こっちから少し遠いところの方でも、被害の大きいところはまだ水も来てないとか、本当に食事もなんかずっと毎日のように炊き出ししてもらったりって感じですけど、やっぱり南の街の方に行けば行くほど、何か充実した生活ができてるところもあったりとか、やっぱその温度差が激しかったりしますよね。

だからもうみんな金沢に行きたいという思いも強くなってきてますし、遊びに行きたいとか。

私自身も、もう休みの日ももっぱら能登町から出てない状態なので、そろそろやっぱりお化粧したいなとか、ゆっくりお風呂につかりたいなとか、なんかそういう欲も出てきたりで。

堀)
そうですよね。仕事もしながら、そして被災した状況でもありつつ、周りの人たちも支えてあげられることはしたいし、いろんな思いが交錯してるっていうことですね。

女性)
できることならもっと自分も炊き出しに参加したりとか、そういうことをしたらいいのかなと思うんですけど、何かそこまでになかなか踏み出せないので、私はどちらかというと本当に仕事と自宅の行き来しかできてない状況なんですけど。

◆病院では薬が足りない、持病悪化の患者が増える懸念

堀)
今、能登町のお住まいの地域は状況はどうですか?

女性)
私の近辺はまだ水道が断水続きで、ずっと毎日、避難所にポリタンクを持っていってお水もらってるっていう形なんですけど、やっぱり下水も通らないので、トイレも流せないじゃないですか。

あとは浄水場が元々ある地域はだんだん少しずつ水道を使えるようになってきたという話は聞いてるんですけど、実際まだ病院は全然水道は来てないですし、そろそろ来るっていう話も聞いてるんですけど、なかなか来ないっていうのが現実で。(このインタビューの数日後に勤務先の病院の水道が復旧。しかし、全体の機能の2割程度)

堀)
手が洗えない、トイレが流せない、お風呂に入れないというのは、本当にそれだけでも精神的にも、大変ですよね。

女性)

いや、本当に大変ですね。

堀)
何が一番大変ですか。

女性)
やっぱりお風呂に入れないこととか、ちょっとしたことで手を洗えないのが、結構つらいですよね。トイレした後とか、今、給水でもらってるお水を少しずつ使ったりとか、あとは山水とかを毎日のようにポリタンクに入れてという方も、中にはおられて。そういった方は山水をちょっと沸騰させたりして使ってるっていうふうには聞いたんですけど。

だから洗濯も、もうずっとできなくて最初の1週間とかはもう本当にずっと同じ下着、同じ服で皆さん生活されてて、結局変えようかってなったときに自宅から服を引っ張り出して、みんな着替えても、一方的に溜まってくだけなんですよ洗濯物が。

町内じゃないんですけど、七尾市まで行けば、コインランドリー使えますよとかそういう情報は出てきてるので、少しずつそっちの方行って、コインランドリーで洗濯するっていう人もいれば、洗濯機の仕組み的に山水を入れれば使えますっていう方もおいでて、そういう方は自宅で洗濯はできてるみたいなんですけど、ほとんどの人はちょっと洗濯はできてないですよね。

堀)

そうした中、衛生面であったり、メンタルのケアだったり、今はインフルエンザやコロナだったり、いろいろ心配な出来事がたくさんあって、断片的には情報がいろいろ入ってくるんですけれども、今求める、一番必要なケアはどんなことですか?

女性)
今、やっぱりタイミングになってくると精神的なところも大事だとは思うんですけど、私の考えで言えば、元々持病を持ってる方のやっぱりお薬の確立かなと思うんです。

病院の方でもお薬がなくなってきて、ちょっとお薬だけお願いします、処方をお願いしますっていうふうに来られる方もいるんですけど、最初の3日ほどはもらえてもそれ以上の量って、金沢とかまで行ってどうにかこっちに持ってきてもらわないと、一気に2週間分とか、3週間分とか渡せないんですよ。

薬がなくて、飲み続けることができなくて、元々の持病が悪化して病院に来ることになる方も中にはおいでたりするので、やっぱりそういう健康面のところで、病院に運ばれてくる方とか、自分で受診される方が今後もっと増えるのかなと思っています。

堀)

そうですよね。まさに東日本大震災のときにも取材をしていると、何とかこれまで薬などでギリギリのラインで保っていた生活習慣病を患っている方々が、避難生活が長引く中、薬がない、寂しいから、支援物資が偏ってるから、お菓子や炭水化物だけとか、食事のバランスが一気に崩れて持病を悪化させてしまい、最悪の結果、関連死に繋がっていくっていう方々を何人も、あの当時取材させていただきました。同じような状況になるのかと思いながら今聞いてました。

女性)
やっぱり支援物資として持ってきていただけるものの中にも、カロリーの高い「カップ麺」とか、乾物はすごい助かるんですけど、やっぱりそういうものを毎日毎日食べ続けるとカロリーも上がりますし、それこそ塩分とかもすごい取ることにもなります。お薬だけじゃどうにもできない場合だったりも増えてくるのかなと思います。あとはそのカロリーが普段よりも摂取量多いということで、割と体重が減るよりかは、増えるみたいなそういう状況にもなっています。

堀)
普段だったら、農作業もあって、ご自宅で自炊してと言う環境が、全く異なっていますもんね。ほとんど動かない、ほとんど避難所にいる、ずっとそのような状況が続く中で食べていくっていう。

そうしたニーズというのは、しかるべきところ、自衛隊だったりとか行政だったりとか、もしくはその他の支援団体だったりとか、きちんと伝わってるなという実感がありますか?

20日が経っての今の現状はどうですか?

女性)

現状としては、自衛隊の方々は物資の他にも各場所にお風呂の設置もしてくださってて、そのおかげで皆さんお風呂にも入れるようにはなってきてるので少しずつ清潔面とかそういう環境面で良くはなってるかなと思います。

病院や施設なども、お水やアルコール消毒液の支給みたいなのも少しずつあって、DMAT隊員の皆さんとか、災害支援ナースの皆さんが持ってきていただいてることで、衛生面にも気を付けられるようにはなってきてるのかなとは思うんですけど・・・。

以前お話した通り、やっぱりナース服がなかなか洗濯できない状況だったり、普通の一般的な入院の方に加えて、コロナの患者さんも見ているのに、十分な手洗いができないっていうところは、まだもう少し環境がより良くなれば、感染的なところでもう少し対策を取れるのかなと思うんですけど。

堀)

本当に誰よりも、どこよりも、清潔でなくてはならない現場に綺麗な水と綺麗な衣服と消毒と、きちんとした医療に関する様々な装備が必要ですよね。

◆「気がつかないうちにみんな疲れている」

精神的な問題で、以前からお話を伺っている珠洲市の避難所にいる安宅さんに、この間、ラジオ番組で電話でインタビューをしました。実を言うと、その前の前の週にお話を伺ったときよりも、やはりすごく元気がなくて。

大丈夫ですか?と言う話をしてたときに、安宅さんは「当初のハネムーン期のような時期というんでしょうか、僕自身もさあ頑張ろうやるぞという思いでいたんですけれども、やっぱりだんだんだんだんちょっと疲れてきてしまって」と、お話されていました。本当に心配です。

やっぱり何とかしなきゃっていう思いと、なかなか先行きが見通せないっていう思いで、途方に暮れてしまうような現状もあって。そのあたりはどうですか、ご自身も含めて。

女性)
私はちょっと避難所生活を今脱して、自宅横のガレージで家族一緒に過ごすっていう形をとらせていただいてるんですけど、実際最初の頃と比べると、やっぱりそのいつもと慣れない環境にいるっていうこともあって、もう気づいてないうちにみんな疲れてるんですよね。

自分ではそこまで疲れた感覚がなくても、体がもう悲鳴をあげてる状態で。風邪の症状がすごい出てきたりっていうこともありますし、わたしは感情のコントロールが割と苦手なタイプなので、ちょっとしたことでついつい何かイライラするっていうタイミングが前より増えたかなと思います。

堀)
そうですよね。本当に大変な状況の中。

女性)
最初の頃は、やっぱり地震に対してまた余震が来る、余震が来る、っていう不安とか、なんかこのままの生活できるのかなっていう不安とか、そういうちょっとマイナス面に対しての考えが多くなっても「現状乗り切るしかない」と、前向きな思いもあったんです。でも、だんだんやっぱり二、三週間経ってくると、その精神的なところの疲労もあってか「ちょっとこのままでやっていけるのかな?」って、ついつい1人でいるときに考えたりとか、そういう部分も出てきてるのかなと思います。

堀)
少し休養できる機会があるか、職場や家庭でもそうしたお話は出てきますか?

女性)
職場では、DMATの方々や支援ナースの皆さんが来てくださってるおかげで少しずつ私達の休みが取れてきてるんですよ。なので、災害が発生した直後の忙しい期間は今、少し抜けることができたのかなと思ってます。

ただ、やっぱり休めば、休むほどお給料面とかはどうなのかなっていう不安も出てきています。わたしの職場だけじゃなくて、他の職場だったり家族の話を聞いていても、やっぱりそこはどうなんだろうっていうふうに不安になってる方も結構おいでて。

堀)

先行きが見通せない中、こういう状況で暮らしを維持しなきゃいけない一方で、被災状況から立ち直っていかなきゃいけない、でもその金銭面のことっていうのはなかなかね、相談しづらかったりとか、まだわからないっていうことが先行したりとかして、やはり不安ですよね。

女性)
そうですね。なんかその、金銭面以外とかでも、例えばいつ頃、このライフラインが復旧するのかっていう不安だったり、いつになったら遊びに行っていいんだろうみたいな気持ちも、やっぱり中にはあって。

堀)

詳しく教えてください。

女性)

元々、2月、3月あたりの春頃にちょっと旅行に行こうとか考えてた人たちも、このままの状況だったら遊びに行けるのかなとか、遊びに行っていいのかなとか、その行ける、行けないの前に周りのことを考えて、行ってもいいのだろうか?という気持ちを持ってる人も中にはいると思うんですよね。

そういったところで、この漠然とした不安だったり、今後のことについての細かい不安だったりとかがすごい増えてきてる感じはありますね。

◆求められるボランティアの存在

堀)

ガレージにいるっていうことは、そこで家族で暮らしてる。

女性)
そうですね。

堀)
寝るときなどは、どうされてるんですか?

女性)

これはちょっとうちの特徴だから特殊ですが、ガーレージの隣にちっちゃい部屋があるんですよ。畳の部分にお布団をひいて寝たりできるんです。やっぱりずっと車中泊してると、家族にエコノミークラス症候群などになったりもするので。私たちの家族には、80代の祖父母もいるので、なるべくお布団で寝てほしいというのがあって。

もうみんな余震が怖いですけど、建物の中で足伸ばした方が安心して寝られるのかなっていうところがあって。元々最初は避難所の駐車場で車中泊してたんですけど。人が多くて避難所に入れなかったので。

今も空いてきているから、入れるには入れるんですけど、やっぱり自宅が一番というので、建物として残ってるなら少しずつ片付けて、住める環境を作っていくしかないのかなと思っています。

堀)

なるほど、そういう倒れた家具や剥がれた壁など、片付けてくれるボランティアの方とかがまた入ってきたら少し負担が軽くなるのでしょうね。

女性)

多分そうやって手伝ってくださる方がいたら、嬉しい方いっぱいいると思いますね。

堀)

一方でね、外から来て、こんなときになんでっていうね、悪いやつもいて、もう許せないですよ。

女性)
そうなんですよ。しかも本当の情報とフェイクが混ざるじゃないですか。地震が発生した直後は、みんな情報に踊らされる状態なので、「なんかあの人は危ない人だ」って写真が回ってきたり、「ハイエースは危ない」みたいな、そういう情報がすごい出てくるんですよ。

でも、実際蓋を開けてみるとあの外国人の皆さんは詐欺の集団じゃなくて「この地域を応援してくださるために来てくださった人たちですよ」とか、やっぱりそういうのがあったり。

あとは誰もいない自宅に入り込んで、何か盗んだりとか、家の前にブルーシートだけを置いてく方がいて、実際それを使ったらもう10万も20万も取られましたっていう作業も実際にあるんですよ。

堀)
そんな手口があるんですか。酷すぎます。

堀)
改めて今の段階で、地域から、能登町から伝えるメッセージとして、各地の皆さんにはどんなことを伝えたいですか。

女性)
まずはその1町民として1被災者としてですけど、奥能登に、たくさんの支援を、応援をしていただいてることにまずはもう、感謝してもしきれないです。本当にありがとうございますという気持ちをお伝えしたいですね。

あとは、皆さんの応援があるからこそ、今私達が頑張れているっていうところも。

実際、伝えられる映像にはひどく被災した場所ばっかりが出ていますけど、今、私達がそれぞれにできることを頑張ってるんだよっていうところも知っていただけたらなと思います。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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