2年ぶりの阪神タイガース・ガールズフェスタ「TORACO DAY」で女性ファンの笑顔が弾けた
■2年ぶりに帰ってきた「TORACO DAY」
「めっちゃ楽しみにしてましたぁー!」
「去年はなくて、ほんまに残念やった。今年はあって嬉しい!!」
笑顔を輝かせ、口をそろえる女性たち。彼女らは「TORACO」という。阪神タイガースの女性ファンの名称だ。
(「TORACO DAY」詳細⇒TORACO DAY2018・TORACO DAY2019)
2014年から始まった女性ファンを対象にしたイベント「TORACO DAY」が6月27日、2年ぶりに阪神甲子園球場で開催された。コロナ禍によって、昨年は企画はされたものの実施は見送られていた。それだけに今年、甲子園に駆けつけたTORACOたちの喜びはひとしおなのだ。
といってもまだまだ通常に戻ったわけではない。チケット販売は大幅に制限されているし、なにより密になる状態は避けなければならない。
しかしそれでも開催にこぎつけることができ、TORACO事業担当の内町有里さん(阪神タイガース営業部)はホッと安堵の表情を見せていた。
そもそもは「タイガースのウィークポイントである若年女性層に、球場に足を運んでもらいたい」との思いでスタートした「TORACO DAY」は、今年8年目を迎えた。毎年趣向を変えて注目を集めてきたことで徐々に女性ファンを増やし、今ではすっかりおなじみとなった。
「最初のころはSNSで『#TORACO』と検索しても何も出てこなかった。ファンの方が付けられた『#タイガース女子』とかは出てくるけど…。それが今では『#TORACO』で検索したらタイガースファンの女性の情報がすごく出てくる。何かしら応援の中の一つに入れてくださっている」。
「TORACO」の存在が、タイガースファンの間ですっかり認知されているということを、ここまで大事に「TORACO」を育ててきた内町さんも強く実感しているという。
しかし順調に続けてきた「TORACO DAY」だが、昨年から今年は大きく事情が変わった。新型コロナウィルスの感染拡大によって、これまでのようなイベント開催が不可能になったのだ。
昨年のプロ野球は無観客で開幕し、途中から人数を制限して観客を入れたが、イベントができるような状況ではなかった。そこでイベントの開催は断念し、すでに準備されていたTORACOユニフォームを数日に分けて配布するだけにとどめた。
やや好転の兆しが見えた今年こそは、なんとか実施したいと内町さんたちも腐心した。通常であれば特典付きの「TORACOシート」を販売し、そこに女性ファンが集結することで見た目も華やかになっていたが、しかしそれは見送らざるを得なかった。全体のチケットの販売枚数が限られているし、また、情勢がいつどうなるか予断を許さない中で事前に告知することもできないからだ。
「新規ファン獲得ということで始まった企画という経緯もあるので、より多くの方にチケットを買っていただけない状況では、シートの確保は現実的に難しかった」と、内町さんも残念そうに語る。
■トラひげマスクが大成功
ただ、こんなときだからこそと、知恵を絞った。
これまで「TORACO DAY」の“アイコン”でもあった「トラ耳ヘア」と「トラひげシール」だが、ヘアスタイリングは人同士の接触があるし、トラひげシールは貼ってもマスクで見えないため、残念ながらこれらは断念した。
ならばと、それを逆手にとって内町さんが提案したのが「トラひげマスク」だ。薄いレモンイエロー地のマスクにミントグリーンでハート型の鼻と虎ひげが描かれている。
「うちわやクリアファイルという案もあったけど、マスクなら必ず着ける。それも普段着けないようなマスクだから“イベント感”も出る。女性全員に配るので、今までで一番多く“トラひげ”を付けてもらえる機会になったのではないかと思う。トラ耳、トラひげシールは恥ずかしくてという人にも楽しんでもらえた」。
まさに大好評だった。手にした女性たちは「かわいい!」とテンションが上がり、さっそく着けて写真を撮り合い、SNSに投稿していた。
「写真を撮りたくなるし、投稿もしやすいし、イベント感も出る」。
内町さんの狙いどおり、SNSではハッシュタグを付けた投稿で盛り上がりを見せていた。スポンサーロゴも入っているので、提供企業にとっても訴求効果が期待できるだろう。
■球場に来られなくてもTORACO気分
そのほか、人数制限があって球場に来られないファンも一緒に楽しめるよう、球場内にさまざまな仕掛けをした。自宅など球場外からハッシュタグ(#TORACODAY2021 #コパトーン)を付けて選手やチームへの応援メッセージや写真をSNSに投稿すると、バックスクリーンのビジョンに大きく映し出された。
ちなみにビジョンの選手紹介も、この日だけのTORACOバージョンだった。通常はカッコイイ映像だが、TORACOカラーでかわいらしい仕上がりになっていた。
また、一塁側ベンチにはあらかじめ募集した応援イラストメッセージを掲出した。届いたイラストはなんと300枚を超え、「選ぶのが大変。みなさん、すごく上手で…」と内町さんも嬉しい悲鳴を上げていた。
普段からこのイラストメッセージは選手も大喜びで、選手同士でいじり合ったりしているという。この日はイエローストライプやトロピカル柄をモチーフにしたTORACOバージョンの応援イラストに彩られ、ベンチはより華やかだった。
これらはテレビ中継にも度々映り、自宅観戦のファンもTORACO気分を味わえたようだ。
ほかにも自宅から参加できるオンライン撮影会やオンラインサイン会も盛り込んだ。
「コロナ禍でどこまでできるかわからなかった。球場外のイベントができない可能性もある中で、こういったオンラインを充実させたり、場内もできる限りTORACOバージョンにと考えた」。
メモリアルウォールなど通常のものをTORACOバージョンに変えるなどして、TORACOの雰囲気を楽しんでもらおうと手を尽くした。
■今年のTORACOユニフォームは…?
状況によってはできない可能性もあった球場外周でのフォトブースも、感染症対策を万全にして無事実施できた。毎年デザインが変わるが、今年は「TORACOボール」と「TORACOトレイン」のフォトパネルが用意され、青柳晃洋投手や北條史也選手、木浪聖也選手や近本光司選手の写真と一緒に撮影できる仕様だ。
“親子3代TORACO”というファミリーは、おばあちゃんが一昨年のユニフォームを子ども用に可愛らしくリフォームしてお孫さんに着せ、笑顔で写真に収まっていた。
また、以前も紹介した“お友だち道連れ作戦”も健在だ。公式ファンクラブの女性会員が非会員の女性を誘って来場すると、一緒に観戦するグループの女性全員にオリジナルグッズがプレゼントされるというものだ。
一昨年はタオルだったが、今年はランチョンマットだ。いずれも選手の顔写真と、その年のユニフォームの柄がデザインされている。ランチョンマットは試合中、プラカードのように掲げることもできる。10選手の中からどの選手が当たるかはお楽しみだ。
推しの選手のランチョンマットが当たって歓声を漏らしたり、当たらなくて涙ぐんだりと、TORACOたちの悲喜こもごもの姿があり、賑わいを見せていた。
さてTORACOたちにとって、もっとも気になるのはユニフォームの柄だろう。一昨年から来場女性全員に配布しており、毎年違う柄なのだ。新たな柄を考えるのも一苦労かと思うが、「毎年同じようなものは避けたいので、ある程度テイストを変えながら、そのときの流行りだったり、タイガースっぽいものだったり、いろんなものを取り入れて」と、3柄の候補を挙げ、選手やファンから投票を募って決定した。
今年の柄はフレッシュなトロピカル柄だ。イエローストライプにみずみずしい果物たちが全面に描かれていて、TORACOカラーであるミントグリーンの葉っぱが差し色になっている。なんとも斬新でかわいい。宿敵のチームカラーであるオレンジ色も配されているが、女性ファンにとってはそこは気にならない。ユニフォームを手にし、「すごく新鮮!」「今までにない感じ!」「めっちゃかわいい!」と喜んで袖を通していた。「かわいい」は無敵なのだ。
今年も選手たちが投票している様子の動画が好評で、近本選手の「おいしそうやなっ」、原口文仁選手の「選手が着たいくらいや」という意見には、TORACOたちも大いにうなずいていた。
メインビジュアルは、若い女性に人気のイラストレーター・諌山直矢氏が手掛けた。
「TORACOに変身してタイガースを応援に来てもらう、そんな楽しんでいるというようなイメージ」(内町さん)。
まさに今にも飛び出してきそうなウキウキ感が伝わってくるイラストだ。諌山氏は「キャッチャーの梅野隆太郎選手は同じ福岡県那珂川市出身でご縁を感じております」と自身のサイトでコメントしている。これはまさかのご縁だ。
■これからの「TORACO DAY」
残念ながらTORACOパワー及ばず、この日の試合には敗れてしまったが、コロナ禍の中での「TORACO DAY」としては成功を収めた。
「想定よりも多くトラひげマスクを着用してフォトブースに参加いただけたし、場内でもかなりトラひげマスクを着けていただけているなという印象で、楽しんでいただけたかなと思う」。
TORACOたちの満足げな笑顔に、内町さんも手応えを深めていた。
次の「TORACO DAY」は8月24日の京セラドーム大阪で予定されている。「そのときはTORACOシートもできたらいいなぁと思っています」と、この状況が好転するよう願ってやまない。
「これまでのジェット風船とかインスタ映えするようなウリにしていたものがなくなって、いろいろ状況が変わってしまった。通常に戻ったときにまた一から頑張って届けていかないといけないかなと、ちょっと振り出しに戻った感はあるけど、女性が楽しめるものはまた新しい形で考えていきたい。まず今できることを、こういう企画は絶やさずに継続していって、そして、落ち着いたときにまた球場に帰ってきてもらえるように、さらにお友だちも誘ってきてもらえるようにっていうのを、一から練り直すつもりでやっていきます」(内町さん)。
女性ファンにもっと野球を楽しんでほしい、タイガースを愛してほしい―。
今後の「TORACO DAY」に向けて、内町さんはじめ「TORACOチーム」は、さらに喜んでもらえる企画を提供するつもりだ。
(表記のない写真の撮影は筆者)